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ドビュッシー:喜びの島

(P)フェルベール 1955年6月22日録音

Debussy:L'isle joyeuse




恐るべし、恋に狂った男!!

ドビュッシーという人は、「人格破綻者の群れ」と評されることの多いクラシック音楽の作曲家の中でも、その破綻ぶりは際だっています。
とりわけ酷いのは「女性関係」です。

年表風にまとめてみると以下のようになります。


  1. 1880年(18歳):弁護士の人妻マリー=ブランシュ・ヴァニエ夫人と8年間の情事のあと別れる。

  2. 1889年(27歳):ガブリエル・デュポン(愛称ギャビー)と同棲を続け、自殺未遂騒動の末に1898年に破局を迎える。この同棲中にソプラノ歌手のテレーゼ・ロジェとも関係を持っていたと言われる。

  3. 1899年(38歳):ギャビーの友人であるマリ・ロザリー・テクシエ(愛称リリー)と結婚する。

  4. 1904年頃(43歳):教え子の母親であり、銀行家の人妻であるエンマ・バルダックと不倫関係になる。

  5. 1905年(44歳):リリーはコンコルド広場で胸を銃で撃ち自殺未遂となり、離婚する(1905年)。

  6. 1905年(44歳):彼の子を身ごもっていたエンマとともに一時イギリスに逃避行をする。

  7. 1908年(47歳):同棲中のエンマと結婚する。



さて、この「喜びの島」ですが1904年に作曲されています。
つまり、人妻エンマとのどろどろの不倫劇のさなかに作曲された作品なのですが、そこにはごく普通の人間ならば持つであろう倫理的な罪悪感などは微塵も存在しません。
あるのは「恋に我を忘れたドビュッシー」だけです。

もっと有り体に言えば、ワーグナーと双璧を為すであろう最低人間のドビュッシーが、己の不倫の愛欲にまみれた喜びを恥ずかしげもなく歌い上げたのが「喜びの島」です。

フランス人というのは、一般的にはそう言う個人的な事情でその人の価値を云々することを嫌う民族です。しかし、さすがの「大人の国」フランスでも、このドビュッシーの行状はパスするには重すぎたようです。

エンマとの不倫劇とそれに伴うリリーの自殺未遂騒動があったにもかかわらず、「南国の島で不倫ランランラン?♪??楽しいなぁ??♪♪」・・・みたいな音楽を書いてしっまたのですから(^^;、彼の音楽的才能に敬意を持っていた多くの友人たちも呆れ果てて次々とドビュッシーを見捨てていくことになります。
結果として、それが経済的にドビュッシーを追いつめ、最後は困窮の中でエンマも彼のもとを去っていきます。

そう言う意味では、ドビュッシーの人生における大きなターニングポイント(?)となった作品です。・・・・が、純粋に音楽としてだけ見れば、ピアノが紡ぎ出すこの多様で幻想的な響きの素晴らしさは他に替えるものがないほどの素晴らしさです。それは、一台にピアノがオーケストラにも負けないほどの多様な響きを実現できることを証明して見せた作品だとも言えます。

恐るべし、恋に狂った男!!

茫洋とした響きがクリアに表現されている演奏


「Albert Ferber」は「アルベール・フェルベール」と読むそうです。そんなことを紹介しなければいけないほどに、このピアニストは忘れ去られた存在になっています。

調べてみると、1919年にスイスのルツェルンに生まれ、マルグリット・ロンやヴァルター・ギーゼキングといった名匠に師事し、ラフマニノフの薫陶も受けたピアニスト・・・という紹介がされていました。
そして、ピアニストとして成功してからは活動の本拠をイギリスに据えるのですが、録音活動は「デュクレテ=トムソン」と言うフランスのローカルレーベルで行ったので、フランス風の「アルベール・フェルベール」が定着したようです。

彼はこの「デュクレテ=トムソン」というレーベルでかなり多くの録音活動を行い、特にこのドビュッシーの録音は高く評価されたようです。
しかし、ローカルレーベルの悲しさか、レーベルの消滅とともに彼の録音も忘れ去られてしまったようです。
ただし、中古LP市場ではかなりの高値で取引されているようですから、一部の好事家の間での評価は高かったようです。

そして、最近になって、漸くにしてCDによる復刻がなされ、誰もが簡単に聞けるようになってみると、なるほど、分かっている人には分かっていたんだと納得できる素晴らしい演奏でした。
そして、個人的な感想を言わせてもらえば、どうにもこうにも苦手だったドビュッシーのピアノ作品を、初めて面白く聞かせてもらえることができました。

私が苦手だったのは、あの茫洋としたドビュッシーの響きです。
何を言ってるんだ、それこそがドビュッシーの魅力なんだろう!と言われそうなのですが、まさにそれこそが「嫌い」だったのです。

しかし、このフェルベールのピアノによるドビュッシーには、そう言う茫洋とした雰囲気が希薄です。
おかしな言い方ですが、その茫洋とした響きがクリアに表現されているような気がするのです。ですから、ドビュッシーの音楽にいつも感じるとりとめのなさが姿を消して、どこかにとっかかりを持ちながら聞き続けることができるのです。

そう考えると、これは異端なドビュッシー演奏なのかも知れませんが、これを好きだという人がいて、とんでもない高値で中古LPを購入する人もいるのですから、これはこれで立派なドビュッシーなのでしょう。

なお、「デュクレテ=トムソン」というレーベルはかなりの優秀録音だったようで、50年代中頃のモノラル録音とは信じがたいほどのクリアな音質です。
また、彼のドビュッシー演奏の中ではこの「前奏曲集」が最も高く評価されているようです。しかし、その是非を判断できるほど良いドビュッシーの聞き手ではありません。
しかし、一つだけ言えることは、この「前奏曲集」を最後まで退屈しないで聞き続けられる数少ない演奏であるとことです。その事だけは、責任を持って保障できます。


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