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ベートーベン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109

(P)ソロモン 1951年6月19日録音



Beethoven:ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109 「第3楽章」


ベートーベン最後の輝き

中期の絶頂期にあとにベートーベンを深刻なスランプが襲ったことは有名な事実です。そのベートーベンが長い雌伏のあとに後期の絶頂期を迎えるのが、この最後の3つのソナタを作曲した時期でした。

この時期にベートーベンは、ピアノ曲ではディアベリ変奏曲、交響曲の分野では第9を、そして声楽を含む巨大な作品である「ミサ・ソレムニス」などを生み出しています。

どの作品も今までの作品群とは一線を画するような正確を持っていますが、それはピアノソナタの分野でも同様です。
後期三大ソナタと言われる「作品109?111」のソナタはいずれも幻想的な雰囲気を持ち、とりわけ変奏曲形式が重要な位置を占めていることが特徴です。

この作品109のソナタでも、作品全体を受けとめるような重みのある変奏曲を第3楽章に持ってきています。ソナタに変奏曲形式を盛り込んだことは今までも何度かありましたが、これほどまでの重みを与えたのはこれが初めてです。
ベートーベン自身が「歌うように、心の底からの感動を持って」と記しているように、実に感動的な音楽となっています。

第1楽章
 ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ ホ長調 4分の2拍子 ソナタ形式
第2楽章
 プレスティッシモ ホ短調 8分の6拍子 ソナタ形式
第3楽章
 アンダンテ・モルト・カンタービレ・エド・エスプレッシーヴォ ホ長調 4分の3拍子 変奏曲形式


まあ、聞いてみてください。(^^v

ソロモンの美質は繊細さにあるのでしょう。そして、その繊細さは響きの完璧なコントロールによってもたらされているように感じました。さらに言えば、そのコントロールされた響きがさらさらと流れていくような風情があります。昨今の若手のピアニストによくあるような、俺って上手いだろう!オーラが満開でガンガンと力任せに引きまくるような演奏とは対極にあるピアノです。
そんなソロモンは1956年に、まさにキャリアの絶頂で突然引退してしまいます。

最初は引退の理由は謎だったのですが、その後左手の故障が原因突伝えられました。脳梗塞による左手の小指と薬指の麻痺だったようです。

そう思って彼の演奏を聴いてしまうと、54年あたりから彼の演奏が少しずつ変わっていったような気がします。
第23番「熱情」あたりはそれほど不満は感じないのですが、何よりも繊細さがほしい28番のソナタではどこかもどかしげに力ませで押し切ってしまっているような部分も散見されます。もちろん、そう感じるフィナーレの部分は「速く、しかし速すぎないように、そして断固として」と書いているので、そう言う力ませの部分があっても悪くはないのですが、それでも、それまでのソロモンの音楽とは少し違うなと思ってしまいました。

しかし、それも56年に録音された31番のソナタとなると、これはもうはっきり脳梗塞の影響が出ています。その影響は、最終楽章でのミステイクだけでなく、それまでのソロモンには絶対有り得なかった力任せのタッチがあちこちで顔を出していることですぐに分かってしまいます。
おそらくは、完全に指が麻痺をして動かなくなってしまう事を自覚する前から、何とも言えないもどかしさは感じていたのではないでしょうか。そういうもどかしさの中でも「嘆きの歌」は見事に歌い上げていますが、それに続くフーガのような複雑な音楽になると、残念ながらもう、何をやっているのか分かりません。
それと同じようなことは、翌日に録音された27番のソナタにも言えます。

31番ソナタが8月20日、27番ソナタが8月21日に録音されています。そして、9月の17日から26日にかけて3曲のコンチェルトを録音して自らのキャリアに幕を閉じました。
よく知られているように、31番ソナタの最終楽章で2小節にわたって修正が必要なミスが発生します。そのミスタッチはすぐにでも修正するつもりでいたのでしょうが、おそらくは一連のコンチェルトの録音の後に指が完全に動かなくなり、結果として修正されないままに放置されることになったようなのです。

EMIも最初はさすがに発売を躊躇ったようなのですが、後期の三大ソナタという形でどうしても発売したい営業上の理由もあったのでしょう。結果として、録音から6年後の1962年に、修正できなかった2小節はカットするという「荒技」でリリースしてしまいます。
そう言う経緯を思えば、誰かが書いていたように、ソロモンの名誉のためには世に出ない方がよかった録音かもしれません。

それらと比べると、51年から52年にかけて録音されたソナタはどれもこれも素晴らしい演奏です。
とりわけ26番の告別ソナタや32番のソナタなどは本当に素晴らしい。もちろん、巨大なハンマー・クラヴィーアや30番のソナタも文句なしです。よくないものには、演奏者に成り代わって言い訳することも必要ですが、良いものは良いと言うだけでいいのかもしれないと最近になって思うようになってきました。

言うべき事は一つだけでしょうか。
さらさら流れていくだけの微温系の演奏という向きもありますが、まあ、聞いてみてください。(^^v

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