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Home|セル(George Szell)|ヘンデル:歌劇「クセルクス」よりラルゴ(オン・ブラ・マイフ)

ヘンデル:歌劇「クセルクス」よりラルゴ(オン・ブラ・マイフ)

セル指揮 ロンドン交響楽団 1961年8月録音



Handel:歌劇「クセルクス」よりラルゴ(オン・ブラ・マイフ)


美しいメロディ

ずいぶん前の話ですが、ガスパール・カサドのチェロによる「オン・ブラ・マイフ」を紹介したときに次のように書いていました。

「さて、ヘンデルといえばメサイアですが、このラルゴ(オン・ブラ・マイフ)によってオペラ作曲家というもう一つの顔に出会うことができました。今では劇場で彼のオペラが上演されることはほとんど無くなってしまいましたが、実に多くのオペラを書いた人でした。(そのへんがオペラを1曲も書かなかったバッハと好対照です。)
実は私もヘンデルのオペラを全曲通して聞いたことは一度もありません。オペラ作曲家としてのヘンデルの「認知されない度」は大変なものがあります。(^^;」

古楽器による演奏が隆盛を極めたおかげで、「今では劇場で彼のオペラが上演されることはほとんど無くなってしまいました」という部分は少しは訂正が必要なようです。古楽器演奏というムーブメントがそう言う埋もれていた作品にも日の光を当てたという事実は認めざるを得ません。
とは言え、ヘンデルのオペラは依然としてマイナーな作品であり続けるでしょうから、今後も「オン・ブラ・マイフ」や「忠実な羊飼い」のメヌエット、さらには「リナルド」の中のアリア「私を泣かせてください」あたりでオペラ作曲家としてのヘンデルが認知されるという現状に大きな変わりはないでしょう。

そして、いつも思うことですが、バッハにしてもヘンデルにしても、そしてヴィヴァルディあたりもそうなのですが、バロック時代の音楽は本当にメロディラインがきれいです。もしかしたら、人間が考え出せる美しいメロディというのは、その大部分がこの時代までに出尽くしているのかもしれません。
ショパンの詩的閃きは別格としても、ロマン派のメロディーメーカーと言われたドヴォルザークにしてもチャイコフスキーにしても、そのメロディラインにはどこか「重さ」みたいなものを感じてしまいます。それと比べれば、バロックの時代のメロディはどれもこれも自然で軽やかです。
そして、そう言う素敵なメロディラインを聞くたびに、ロマン派という時代は作曲家にとってはしんどい時代だったんだなと思いますし、それ以後の時代がある意味で「メロディ」と決別していった理由も何となく分かるような気がします。


まるでロマン派の音楽?

ひとことで言えば、時代錯誤も甚だしい演奏ということになるのでしょうね。でも、そう言う時代錯誤とも言える華やかで濃厚な、まるでロマン派の管弦楽作品であるかのように響くこの演奏は、古楽器による洗礼を受けてそれが主流派となった今にあっては逆に新鮮さを感じさせたりもします。
不思議なものです。

どういう経緯があったのかは分かりませんが、セルは1961年にロンドン交響楽団を指揮してヘンデルの有名な管弦楽作品をデッカで録音しています。セルは同じコンビでチャイコフスキーの交響曲も録音しているのですが、その時は「鬼の顔」を前面に出すことでオケがすっかり萎縮しているように感じました。しかし、このヘンデルの作品ではセルもかなり気軽に演奏に臨んだようで、適度な手綱さばきで適度な上品さを保った中でオケはかなり伸びやかに演奏しています。
確かに、こういう作品ではガチガチにアンサンブルを締め上げても良い結果は得られないでしょうから、それは適切なアプローチだったように思われます。それどころか、この演奏ではセルはヘンデルの持ち味である美しいメロディラインを際だたせるために、かなりレガートをかけた響きをオケに求めていて、日頃のセルを知るものにとっては「おやっ?」と思わせるような音楽に仕上がっています。

オペラの中のアリアである「ラルゴ(オン・ブラ・マイフ)」や「忠実な羊飼い」のメヌエットでは、まるでカラヤン美学を思わせるようなたっぷりとした響きで朗々と歌い上げていて、これが本当にセルの指揮なのか!!と驚かされます。
そして、機会音楽である「王宮の花火の音楽」や「水上の音楽」では、この上もなく華やかな響きを演出しています。そして、そこでも、たとえば「水上の音楽」の第2曲「アリア」などでは、たっぷりとしたテンポでまるで「ラルゴ(オン・ブラ・マイフ)」の時と同じように仕上げています。

なるほど、セルという男は、やろうと思えばこういう風に音楽を作ることもできた指揮者だったのです。ただ、彼は当時のアメリカではこういう音楽は好まれないことを知っていたのでしょう。そして、当然のことなのですが、一流の指揮者というものは、やろうと思えばいかようにでも音楽を料理する能力があったと言うことなのでしょう。ただ、最後に指摘しておきたいのは、そう言うカラヤン美学風に音楽を仕上げても、聞き終わったあとには何とも言えない上品な甘さが残るところにセルの底力は感じ取れます。
そして、そう言うセルの音楽を細大漏らさずすくい上げているデッカ録音のクオリティの高さにも脱帽です。

セルが手兵のクリーブランド以外との顔合わせでみせた素敵な魅力を堪能できる一枚です。

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