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ショパン:スケルツォ集(全4曲)

(P)ルービンシュタイン 1949年6月29日録音



Chopin:スケルツォ第1番 ロ短調 作品20

Chopin:スケルツォ第2番 変ロ短調 作品31

Chopin:スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39

Chopin:スケルツォ第4番 ホ長調 作品54




優雅でサロン的なショパンの姿はどこを探しても見つかりません

スケルツォと言う言葉は本来冗談を意味しました。それは、優雅であったメヌエットをベートーベンが自らの交響曲の第3楽章に用いるためにチューンナップした音楽として登場したのです。
メヌエットなどと言う優雅なダンス音楽が、人生の重みの全てを引き受けたようなベートーベンの交響曲の一つの楽章を支えることなど出来ようはずがありません。よって、彼はメヌエットに諧謔という人生のスパイスをきかせてスケルツォという音楽を生み出したのです。
もちろん、音楽史の重箱をつつけば、ベートーベン以前にもこの形式は存在したようですが、スケルツォをスケルツォたらしめたのは疑いもなくベートーベンです。
ですから、この音楽は「冗談」というよりは、人生が抱えこまざるを得ない「怒りや絶望」などというものを、少しばかり斜に構えて皮肉りながら「笑うしかない」というような音楽になりました。

そして、このベートーベンが生み出した形式は、この後ロマン派の音楽家によって様々に引き継がれていきます。

たとえば、メンデルスゾーンはこれをカプリッチョ的なものに変容させました。それはスケルツォが内包している「笑うしかない」という側面をより特化させた音楽と言えるでしょうか。つまり、スケルツォ(冗談)はカプリッチョ(気まぐれ)に変容し、軽やかで空想に満ちたものとなりました。
それに対して、ショパンは人生における「怒りや絶望」をこの形式の音楽にたたき込みました。そこには笑いの陰も存在しません。ですから、名称は「スケルツォ」のままですがそれはベートーベンのスケルツォとは全く異なった音楽になっています。
おそらく、スケルツォこそは、ショパンの全作品のなかでもっとも陰鬱な作品であり、同時にショパンという人の内面をもっともあからさまにさらけ出した作品と言えるでしょう。
ここには、優雅でサロン的なショパンの姿はどこを探しても見つかりません。

スケルツォ第1番 ロ短調 作品20
まさにショパンの内面に渦巻く怒りと絶望が吐露された作品です。1831年に作曲された事を考えると、ここには疑いもなくロシア軍の侵攻によるワルシャワ陥落が反映しています。
なお、この作品は渦巻くよう怒りに彩られた主部に対して、中間部で美しい旋律が流れます。この旋律はポーランドのクリスマス・キャロル「眠れ、幼子イエス」よりとられたものらしいです。この対比は実に見事です。

スケルツォ第2番 変ロ短調 作品31
ショパンのスケルツォと言えばこの第2番がもっとも有名です。その理由は言うまでもなく耳に残りやすい旋律と全体の構成の分かりやすさです。
冒頭部部の「問いかけと答え」の部分は、一部で指摘されているようにジュピターの引用になっています。そして、この問いかけが中間部で展開されて、最後にこれが圧倒的コーダという形で大団円を迎えます。
やはり人気を得るには分かりやすさが何よりです。

スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39
ジョルジュ・サンドとマジョルカ島へ避難した頃はショパンにとっては最悪の時期の一つでした。この時期は自らの作品について語ることはほとんどなかったのですが、その数少ない例外の一つがこの作品です。
聞くだけの人にとってはあまり気づかないことなのですが、この作品には10度の和音が登場します。自分は手が小さいのでオクターブ以上の和音をいつもアルペジョで弾いていたショパンにとっては珍しいことだそうです。ですから、これはショパンの作品には珍しくヴィルトゥオーゾ風のマッチョな音楽になっています。

スケルツォ第4番 ホ長調 作品54
これは2番と並んで人気のある作品です。3番がマッチョな外見をしながらどこか病んだような雰囲気を漂わせていたのに対して、これは非常に快活で雄大な音楽になっているからでしょう。
決して宿痾の病だった結核がよくなったわけでなく、逆に病状は悪化していたわけですから実に不思議な話です。
しかし、トリオのメランコリックな旋律を聴くとき、私たちはそこから暗い影を聞き取ることは出来ません。さらに、長いスケールを駆け上がって結ばれるコーダを聞くとき、まさにショパンの一つの絶頂がここにあったという思いにさせてくれます。

ルービンシュタインの「大きさ」


ルービンシュタインはショパンのピアノ曲をまとまった形で3回録音しています。言うまでもなく、SP盤の時代、モノラル録音の時代、そしてステレオ録音の時代です。そして、市場に広く出回っているのがステレオ録音の時代で、その録音を持ってルービンシュタインというピアニストの評価がなされています。
しかしながら、20代の頃から90歳を迎える直前まで現役のピアニストとして活躍した「巨人」の姿を、そのような限られた一時期だけで代表させることは大きな過ちを引き起こします。そして、老婆心ながらつけ加えれば、ルービンシュタインというピアニストはそのような謬りを引き起こしやすい人だと言うことです。

極めて大雑把に眺めてみれば、彼のピアニスト人生はホロヴィッツとの関わりで三分割出来そうです。「ホロヴィッツと出会う以前」「ホロヴィッツと格闘した時代」そして「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」です。ただし、くせ者なのは、それが単純に「SP盤」「モノラル録音」「ステレオ録音」の時代に重なっていない点です。
具体的な年代で言えば、おおむねこうなるでしょうか。


  1. 「ホロヴィッツと出会う以前」・・・~1937年頃(もちろん、彼がホロヴィッツと出会ったのはこれよりも前ですが、ピアノに向かう姿勢としてホロヴィッツの存在が未だに影響を与えていないと言う意味で、出会う前と表現しました。)

  2. 「ホロヴィッツと格闘した時代」・・・1938年頃から1960年頃まで(38年、39年に録音されたマズルカ集あたりが分岐点)

  3. 「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」・・・1961年頃~(61年に録音されたショパンの第1番協奏曲あたりが分岐点)




ただし、この時代区分は、どこかのエライ評論家先生によって確定されたものではなく、あくまでも私の独断によるものですから、あちこちで言いふらすと「恥」をかく恐れがありますのでご注意のほどを。

この区分に従いますと、スケルツォに関して言えば、モノラル録音もステレオ録音も同じ時代に区分されます。ルービンシュタインのステレオ録音によるショパンは、その大部分が60年代以降に録音されているなかで、このスケルツォとバラードだけが59年に録音されています。そのためか、両者の演奏のスタイルというか風情というか、そういうものはあまり変わりません。
そして、こういう単純な図式化はディテールを塗りつぶすのでよろしくないとも思うのですが、この2つの録音だけが、ステレオ録音のなかでは、その強靱さと逞しさで異彩をはなっているのですが、今回の集中的な聞き込みで自分なりに納得できました。
そして、そうなると、スケルツォに関しては無理をして古いモノラル録音を聞く必要はないと言うことになります。そして、これも図式化の誹りを免れないかもしれませんが、ワルツ集に関して言えば、63年のステレオ録音よりも53年のモノラル録音の方が好ましく思えます。53年録音が極めて優秀なモノラル録音であることも、そう言う判断を後押ししてくれます。
もちろん、その事を最終的に判断するのはそれぞれの聞き手ですから、その判断材料としてモノラル録音を紹介することは意味なきことではないでしょう。

こうして、その業績を追っていけばいくほど、ルービンシュタインの「大きさ」に圧倒されます。

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