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ショパン:ノクターン全集

P:ルービンシュタイン 1949年~1950年年録音



Chopin:3つの夜想曲 作品9 No.1

Chopin:3つの夜想曲 作品9 No.2

Chopin:3つの夜想曲 作品9No.3

Chopin:3つの夜想曲 作品15 No.1

Chopin:3つの夜想曲 作品15 No.2

Chopin:3つの夜想曲 作品15 No.3

Chopin:2つの夜想曲 作品27 No.1

Chopin:2つの夜想曲 作品27 No.2

Chopin:2つの夜想曲 作品32 No.1

Chopin:2つの夜想曲 作品32 No.2

Chopin:2つの夜想曲 作品37 No.1

Chopin:2つの夜想曲 作品32 No.2

Chopin:2つの夜想曲 作品48 No.1

Chopin:2つの夜想曲 作品48 No.2

Chopin:2つの夜想曲 作品55 No.1

Chopin:2つの夜想曲 作品55 No.2

Chopin:2つの夜想曲 作品62 No.1

Chopin:2つの夜想曲 作品62 No.2

Chopin:夜想曲 ホ短調 作品72-1


劇的息吹と情熱と、そして壮大さ

ノクターンはロマン派の時代に盛んに作られたピアノ小品の一ジャンルです。
ロマン派の時代になると、厳格な規則に縛られるのではなく、人間の感情を自由に表現するような小品がたくさん作られ、当初はバガテルとか即興曲などと呼ばれていました。その様ないわゆる「性格的小品」の中から「ノクターン」と称して独自の性格を持った作品を生みだしたのがイギリスのジョン・フィールドです。

フィールドはピアニストであり作曲でもあった人物ですが、低声部の伴奏にのって高音部が夜の静寂を思わせるような優雅なメロディを歌う作品を20曲前後作り出しました。そして、このフィールドが作り出した音楽形式はショパンに強い影響を与え、彼もまた「ノクターン」と称する作品をその生涯に21曲も作り出しました。
初期の作品は「ショパンはフィールドから直接は借用はしていないが、その旋律や伴奏法をまねている」と批評されたりしていますが、時代を追うにつれて、フィールドの作品にはない劇的な性格や情熱が付け加えられて、より多様な性格を持った作品群に変貌していきます。
そして、、今日では創始者のフィールドの作品はほとんど忘れ去られ、ノクターンと言えばショパンの専売特許のようになっています。

後年、ショパン研究家として著名なハネカーは次のように述べています。
「ショパンはフィールドの創案になる形式をいっそう高め、それに劇的息吹と情熱と、そして壮大さを加えた。」
まさにその通りです。


最も大きな喜びの一つ

ハイフェッツを集中的に聞こうと思ったのですが、あまり面白くないのでやめてしまいました。ただし、注意してほしいのは、その「面白くない」というのは決して彼の演奏が面白くないという意味ではありません。
ハイフェッツの録音を聞いて「面白くない」と思う人は、そうそういるものではありません。
私が、面白くなかったというのはそう言う意味ではなくて、彼の演奏というのはいつも同じように立派であり、同じように感心させられるので、集中的に聞いたからと言って何か新しいことを発見したり気づいたりすることがほとんどないので「面白くない」と思ったのです。

そこで、ハイフェッツに関してはポチポチと聞いていくことにして、次のターゲット(?)をルービンシュタインに変更することにしました。

ルービンシュタインというピアニストは生まれてから死ぬまで、ひたすらピアノを弾き続けた人だとと言えます。
わずか12歳でモーツァルトのピアノ協奏曲を演奏してデビューしてから、89歳で引退コンサートを行うまで、ひたすらピアノを弾き続けました。
そして、その生涯は、まさに波瀾万丈です。
ありあまる才能に寄りかかって「遊び人ピアニスト」として浮き名を流した前半生、ホロヴィッツという新しい世代の登場に一念発起して一からピアノの勉強に取り組んだ50代、そして戦争に翻弄され、生涯ドイツという国を許さなかった気骨の音楽家・・・等々です。
しかしながら、正直に言うと、私の中ではルービンシュタインというピアニストはそれほど大きな存在ではありませんでした。彼の周りには、常に薔薇と酒の香りが漂い、どこか軽薄な雰囲気が感じられました。
そんな勝手な思いこみを打ち砕いてくれたのが、37年~38年にかけて録音されたショパンのマズルカとノクターンでした。特に、マズルカの録音には脳天をたたき割られたような驚きを感じ、その時の驚きを、次のように綴っています。

「このルービンシュタインの演奏からはショパンその人の「亡国の慟哭」が聞こえてきます。
ユング君は、このルービンシュタインの演奏を聞いて、昨今の馬鹿ウマの若手ピアニストによるショパン演奏が何故につまらないのかをハッキリと認識することができました。彼らの演奏からは「ほろりと流す涙」は感じ取れても、ショパンの「慟哭」が聞こえてこないのです。そして、完璧なテクニックによって再現されたショパンの音楽は美しくはあっても、それだけではショパンの抜け殻でしかありません。」

まさに絶賛です。しかし、残念ながら、このSP盤の演奏と、80に近くなってからステレオで録音されたマズルカの全集を聞き比べると、私にはその間には「下降線」しか見えてきませんでした。
結果として、私の中におけるルービンシュタインのイメージは多少は是正されたものの、依然としてその存在は「二流」の域を出るものではありませんでした。

しかし、今回、ルービンシュタインを集中的に聞くことで、実はその「下降線」としか見えなかった二点間に大きな欠落があったことに気づかされました。そして、その欠落は、考えてみればすぐに気づくはずなのに、何故か誰も指摘してこなかったのです。
その欠落とは、言うまでもなく「SP盤」と「ステレオ録音」の間に横たわる「モノラル録音」時代の演奏です。

しかし、調べてみて、それは仕方のないことだったことに気づかされました。
驚くことに、ルービンシュタインのショパン演奏と言えば晩年のステレオ録音ばかりが流通していて、50年代を中心としたモノラル録音時代の演奏はほとんど廃盤になっているのです。
私は、ここにも「著作権」の不合理と矛盾を感じます。

ショパンというのは決して優雅さだけのサロン音楽を書いた人ではありません。
そこには、ベートーベンにも負けないような強さがひそんでいて、ホロヴィッツの演奏などでそれを聞くと、例えば50年に録音された葬送ソナタなどを聴くとその事をはっきりと教えられるのです。そして、残念なことに、60年代のルービンシュタインによるステレオ録音からはそのような「激しさ」や「強靱さ」は感じ取れず、その音楽はあまりにもサロン音楽的な方向に傾斜していることを否定しきれないのです。
私が、ルービンシュタインの中に「下降線」しか見えなかったのはそのような不満があったからです。

しかし、今回、50年代のモノラル録音を集中的に聞いてみることで、実は下降線と見えたその中間に、偉大なるピアニストの時代があったことに気づかされたのです。
これは、一人の演奏家を評価する上で、何という不幸でしょう。

モノラル録音時代のルービンシュタインは、確固としたテクニックの上に直線的で潔ささえ感じられるほどのショパン像を造形しています。ここぞという場面で繰り出される強烈な打鍵はステレオ録音の時代には影を潜めてしまっていたものです。
そして、その冴え冴えとしたピアノの響きは、極上とも言えるモノラル録音のおかげでしっかりとすくい取られています。
確かに、こういう男性的なショパンを好まない人もいることは承知しています。
しかし、私は好みます。

そして、こういうルービンシュタインに接してみたおかげで、ステレオ録音のショパンは80に近い老人の手になるものであったことにあらためて気づかされました。それは、30年代後半のSP盤の時代と50年代のモノラル録音の時代、そして60年代以降のステレオ録音の時代をきちんと結んでみることで、結果としてあれやこれやの不満のあるステレオ録音にある種の納得感を持って接することができるようになったという事です。
私は愚かにも、60年代のステレオ録音をバリバリの現役ピアニストによる演奏であるかのように受け取っていたのです。しかし、あの演奏は、疑いもなく全てをなし終えたピアニストが万感の思いを込めて己の人生を振り返る中で生み出された録音だったのです。

40年代から50年代の、言葉をかえればモノラル録音時代のルービンシュタインは本当に凄いです。そして、この時代のルービンシュタインを聞くことなしに、彼を云々するのはナンセンス以外の何物でもありません。
幸いなことは、録音のクオリティがこの時代のものとしては「極上」の部類に属することです。そして、このような録音を発掘してきてサイトで報告できることは、このようなサイトを運営しているものにとっては最も大きな喜びの一つです。

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