クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでワルター(Bruno Walter)のCDをさがす
Home|ワルター(Bruno Walter)|モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」 K385

モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」 K385

ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1959年1月13,16,19&21日録音



Mozart:交響曲第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」 「第1楽章」

Mozart:交響曲第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」 「第2楽章」

Mozart:交響曲第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」 「第3楽章」

Mozart:交響曲第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」 「第4楽章」


悩ましい問題の多い作品です。

一般的に後期六大交響曲と言われる作品の中で、一番問題が多いのがこの35番「ハフナー」です。

よく知られているように、この作品はザルツブルグの元市長の息子であり、モーツァルト自身にとっても幼なじみであったジークムント・ハフナーが貴族に列せられるに際して注文を受けたことが作曲のきっかけとなっています。
ただし、ウィーンにおいて「後宮からの誘拐」の改訂作業に没頭していた時期であり、また爵位授与式までの日数もあまりなかったこともあり、モーツァルトといえどもかなり厳しい仕事ではあったようです。そして、モーツァルトは一つの楽章が完成する度に馬車でザルツブルグに送ったようですが、かんじんの授与式にはどうやら間に合わなかったようです。(授与式は7月29日だが、最後の発送は8月6日となっている)

それでも、最終楽章が到着するとザルツブルグにおいて初演が行われたようで、作品は好評を持って迎えられました。
さて問題はここからです。
よく知られているように、ハフナー家に納品(?)した作品は純粋な交響曲ではなく7楽章+行進曲からなる祝典音楽でした。その事を持って、この作品を「ハフナーセレナード」と呼ぶこともあります。しかし、モーツァルト自身はこの作品を「シンフォニー」と呼んでいますから、祝典用の特殊な交響曲ととらえた方が実態に近いのかもしれません。実際、初演後日をおかずして、この中から3楽章を選んで交響曲として演奏された形跡があります。

そして、このあとウィーンでの演奏会において交響曲を用意する必要が生じ、そのためにこの作品を再利用したことが問題をややこしくしました。
馬車でザルツブルグに送り届けた楽譜を、今度は馬車でウィーンに送り返してもらうことになります。しかし、楽譜は既にハフナー家に納められているので、レオポルドはそれを取り戻してくるのにかなりの苦労をしたようです。さらに、7楽章の中から交響曲に必要な4楽章を選択したのはどうやら父であるレオポルドのようです。

こうしてレオポルドのチョイスによる4楽章で交響曲として仕立て直しを行ってウィーンでのコンサートで演奏されました。ところが、後になって楽器編成にフルートとクラリネットを追加された形での注文が入ったようで、時期は不明ですがさらなる改訂が行われ、これが現在のハフナー交響曲の最終の形となっています。
つまりこの作品は一つの素材を元にして4通りの形(7楽章+行進曲・3楽章の交響曲・4楽章の交響曲・フルート・クラリネットが追加された4楽章の交響曲)を持っているわけす。
一昔前なら、最後の形式で演奏することに何の躊躇もなかったでしょうが、古楽器ムーブメントの中で、このような問題はきわめてデリケートな問題となってきています。とりわけ、フルートとクラリネットを含まない方に「この曲にぼくは全く興奮させられました。それでぼくは、これについてなんら言う言葉も知りません。」と言うコメントをモーツァルト自身が残しているのに対して、フルートとクラリネットありの方には何のコメントも残っていないことがこの問題をさらにデリケートにしています。

やはり今後はフルートとクラリネットを入れることにはためらいが出てくるかもしれません。


ワルターの伝統的な美意識とオケの現在的な感覚との絶妙なる融合

この録音は長く棚にしまい込まれていて、パブリックドメインの仲間入りをしている事にも気づかずに放置されていました。こんな事になってしまった背景には、ワルターの真価は最晩年のコロンビア響との録音ではなくて、それ以前のモノラル時代やヨーロッパ時代の録音にこそあるのだという「思いこみ」があったからです。
しかし、今回、パブリックドメインとなったモーツァルトの録音を聴き直してみて、意外なまでの素晴らしさに「うーん」とうなってしまいました。そして、その「うなってしまった」背景には、私が毛嫌いしてきた「ピリオド演奏」の影響があることを否定できないことに気づかされて、いささか複雑な思いに駆られました。

よく知られていることですが、ワルターのために特別に編成されたコロンビア響は通常のオケと比べれば編成がやや小振りでした。そのために、マーラーなどの録音では響きが物足りなくなって、編集の過程でそれらしくなるように手を加えたりしたことが知られています。
しかし、その編成の小ささが、モーツァルトのシンフォニーでは決してマイナスになっていないどころか、「ピリオド演奏」の洗礼を受けた耳には好ましくさえ思えるようになっていることに気づかされたのです。

これは、同じような時期に録音されたクレンペラーの演奏と比べてみればその違いは歴然とします。おそらくは、ほぼ通常の編成で録音したであろうクレンペラーのモーツァルトは、今の耳からすればあまりにも「鈍重」に過ぎます。それは、何もクレンペラーだけでなくこの時代の巨匠たちの録音に共通するスタイルです。ベーム然り、ヨッフムもまた然り、です。
しかし、ワルター&コロンビア響のモーツァルト演奏は、それら同時代の巨匠たちの録音とは全く雰囲気が異なります。それは、この数年前にヨーロッパに里帰りをして、VPOとポルタメントをかけまくったト短調シンフォニーを演奏した人物と同一だとはとうてい信じがたいほどです。

確かに、小編成ではありながら、低声部をしっかりと響かせた音の作り方はワルター特有のものです。その点については、「ピリオド演奏」とは全く真逆の世界です。しかし、低声部が分厚いにもかかわらず響きの透明性が高く、音の立ち上がりがこの上もなくシャープなのです。
そして、おそらくは、後者の「特質」はワルターの指示と言うよりはオケの「特性」が前面に出た結果なのだと思います。
ワルターは声部のバランスとテンポ設定だけを指示しているだけで、細かいところはオケに任せているような雰囲気がします。その結果、オケの編成の小ささも相まって、ワルターが持っている伝統的な美意識とオケが持っている現代的でシャープな造形意識が絶妙に融合して、実に不思議な世界が出来上がることになったようです。

この録音には、この時代の巨匠たちに共通する巨大で重厚な造形はありませんし、後の時代を席巻するピリオド演奏ほどにはクリアでもなければシャープでもありません。世間では、こういう世界を「中途半端」と切って捨ててしまうのですが、しかし、実際に演奏を耳にすると得も言われぬ魅力があることは否定できないので困ってしまいます。
そこで、しばし沈思黙考して気づかされたのが、テンポ設定の妙です。
こんな言い方をすると実にいい加減なので気が引けるのですが、ワルターの手にかかると、すべの部分が「これ以外にはない」と思えるようなテンポで音楽が進められているように思えるのです。それは、メトロノーム記号でいくつというような単純なものではなく、すべてのフレーズがこのような語り口で話されるべきだと得心がいくようなテンポ設定なのです。そして、このような「芸」を身につけていたのは、モーツァルトに関してはワルター以外には存在しなかったことに気づかされるのです。
このテンポ設定があるが故に、この晩年のモーツァルト録音が「中途半端」なものではなく「希有」なものになり得ているのではないと思う次第です。
やはり、ワルターは長生きして幸せだったようです。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



1607 Rating: 4.9/10 (142 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-10-05]

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 , Op.68(Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op. 68)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-10-03]

ベートーベン:交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」(Beethoven:Symphony No.6 in F major , Op.68 "Pastoral")
エーリッヒ・クライバー指揮 チェコ・フィルハーモニ管弦楽団 1955年5月録音(Erich Kleiber:Czech Philharmonic Recorded on May, 1955)

[2024-10-01]

ブラームス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番ト長調 Op.78(Brahms:Violin Sonata No.1 in G major, Op.78)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1961年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1961)

[2024-09-29]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387「春」(Mozart:String Quartet No.14 in G major, K.387 "Spring")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-09-27]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」 ニ短調 Op.31-2(Beethoven:Piano Sonata No.17 In D Minor, Op.31 No.2 "Tempest")
(P)バイロン・ジャニス:1955年5月26日~27日録音(Byron Janis:Recorded on Mat 26-27, 1956)

[2024-09-25]

ハイドン:弦楽四重奏曲 イ長調, Op.20, No.5, Hob.3:35(Haydn:String Quartet No.23 in F minor, Op.20, No.5, Hob.3:35)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1934年10月29日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on October 29, 1934)

[2024-09-23]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37(Beethoven:Piano Concerto No.3 in C minor, Op.37 [1.Allegro con brio])
(P)アニー・フィッシャー:フェレンツ・フリッチャイ指揮 バイエルン国立管弦楽団 1957年12月3日録音(Annie Fischer:(Con)Ferenc Fricsay Bavarian State Orchestra Recorded on December 3, 1957)

[2024-09-21]

ベートーベン:交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」(Beethoven:Symphony No.6 in F major , Op.68 "Pastoral")
エーリッヒ・クライバー指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年1月録音(Erich Kleiber:Munich Philharmonic Orchestra Recorded on January, 1953)

[2024-09-19]

ハイドン:交響曲第94番 ト長調 Hob.I:94 「驚愕」(Haydn:Symphony No.94 in G major, Hob.I:94)
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1950年4月5日&7日録音(Andre Cluytens:Paris Conservatory Concert Society Orchestra Recorded on April 5&7, 1950)

[2024-09-17]

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「春の声」,op.410(Johann Strauss:Voices of Spring Op.410)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)