クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|スタインバーグ(William Steinberg)|マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1953年2月10日録音



Mahler:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」 「第1楽章」

Mahler:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」 「第2楽章」

Mahler:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」 「第3楽章」

Mahler:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」 「第4楽章」


マーラーの青春の歌

 偉大な作家というものはその処女作においてすべての要素が盛り込まれていると言います。作曲家に当てはめた場合、マーラーほどこの言葉がぴったり来る人はいないでしょう。

 この第1番の交響曲には、いわゆるマーラー的な「要素」がすべて盛り込まれているといえます。ベートーベン以降の交響曲の系譜にこの作品を並べてみると、誰の作品とも似通っていません。

 一時、ブルックナーとマーラーを並べて論じる傾向もありましたが、最近はそんな無謀なことをする人もいません。似通っているのは演奏時間の長さと編成の大きさぐらいで、後はすべて違っているというか、正反対と思えるほどに違っています。
 基本的に淡彩の世界であるブルックナーに対してマーラーはどこまで行っても極彩色です。基本的なベクトルがシンプルさに向かっているブルックナーに対して、マーラーは複雑系そのものです。

 その証拠に、ヴァントのように徹底的に作品を分析して一転の曖昧さも残さないような演奏スタイルはブルックナーには向いても、マーラー演奏には全く不向きです。ヴァントのマーラーというのは聞いたことがないですが(探せばあるのかもしれない?)、おそらく彼の生理には全く不向きな作品です。

 逆に、いわゆるマーラー指揮者という人はブルックナーをあまり取り上げないようです。
 たとえば、バーンスタインのブルックナーというのはあるのでしょうか?あったとしても、あまり聞きたいという気にはならないですね。(そういえば、彼のチャイコフスキー6番「悲愴」は、まるでマーラーのように響いていました。)
 それから、テンシュテット、彼も骨の髄までのマーラー指揮者ですが、他のマーラー指揮者と違って、めずらしくたくさんのブルックナーの録音を残しています。しかし、スタジオ録音ではあまり感じないのですが、最近あちこちからリリースされるライブ録音を聞くと、ブルックナーなのにまるでマーラーみたいに響くので、やっぱりなぁ!と苦笑してしまいます。


紀元前のマーラー

この録音をリスニングルームの方にアップすべきかどうか随分と悩みました。
理由は二つあります。
一つは録音のクオリティに関わる問題です。もちろん、モノラルだから駄目、等と言うつもりはありません。これはいつも言っていることですが、モノラルでもいいものはたくさんあります。
しかし、このマーラーの録音は高域がいかにも寸詰まりで、悪く言えば鼻をつまんだような音になっています。ただし、細部の分離は良くて演奏の見通しは悪くありません。また、いささか寸詰まりの雰囲気が気になったのも最初のうちだけで、聞き進むうちにそれも次第に気にならなくなってきます。

とは言え、気にならなくなったのは、その手の「歴史的録音」への免疫度の高い私だからであって、一般的には最後まで気になる人は多いだろうなと言うことは否定できません。
最近は50年代後半のステレオ録音を中心にアップしているので、今頃どうしてこんな録音をアップするんだという声も聞こえてきそうです。

二つめの理由として、「直線的」すぎる演奏がいささか気になります。
即物主義というのが原典尊重を錦の御旗にしているだとすれば、これは全く持って原典尊重ではありません。

マーラーの特徴の一つは「曲線」です。何も、そんなところを無理してくねくねと進んでいかなくてもずばっと真っ直ぐに行けばいいじゃないか!!と思えるほどに曲線路を進んでいくのが特徴です。
ですから、昨今のマーラー演奏というのは、そう言う煩わしさを一切煩わしいとは思わずに、ひたすら指示通りに丹念に曲線路をたどっていきます。
そう言う、マーラーに慣れている耳からすると、このスタインバーグの演奏は「これって、確かマーラーだったよね?」という「疑問」が頭をよぎるようなものになっています。とにかく、細かいマーラーの指示などは一切無視をして、まさに剛球一直線で突き進んでいきます。
まさにベートーベン風のマーラーです。

そう言えば、マーラーの使徒と言われたワルターも、そう言う細かい指示は結構無視をして演奏していました。しかし、あの「無視」は理解されがたいマーラーの音楽を多くの人に理解してもらおうという「配慮」からくるものであって、その演奏のテイストはマーラーの特長を色濃く残していました。
しかし、このスタインバーグの演奏からは、そう言うマーラー的なものは吹き飛んでいます。

しかし、考えようによっては、これは50年代のアメリカにおいて、マーラーというものがどのように受け止められていたかを示す歴史的遺産だと言えなくもありません。そして、こういう前時代の演奏を念頭に置くと、60年代の初頭からバーンスタインが行ったマーラー演奏の衝撃の大きさが少しは感じ取れるのではないかと思うようになりました。

ですから、はじめてマーラーを聴く人はこういう演奏は絶対に聴いてはいけません。しかし、バーンスタイン以降のマーラー演奏をそれなりに聴いてきた人が、あらためてこういう演奏を聴くと、「なるほどこれが紀元前のマーラーか」という感慨は抱けるのではないかと思います。

そんなわけで、悩んだ末にアップすることにしました。聞きようによっては、これはこれで面白い演奏だと思います。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



1522 Rating: 4.7/10 (174 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2011-11-09:ヨシ様





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-09-16]

メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 Op.54(Mendelssohn:Variations Serieuses, Op.54)
(P)エリック・ハイドシェック:1957年9月20日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n September 20, 1957)

[2025-09-14]

フランク:天使の糧(Franck:Panis Angelicus)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)

[2025-09-12]

ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」(Beethoven:Symphony No.3 in E flat major , Op.55 "Eroica")
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年3月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on March, 1961)

[2025-09-10]

ブラームス:弦楽四重奏曲 第1番 ハ短調(Brahms:String Quartet No.1 in C minor, Op.51 No.1)
アマデウス弦楽四重奏団 1951年録音(Amadeus String Quartet:Recorde in 1951)

[2025-09-08]

フォーレ:夜想曲第2番 ロ長調 作品33-2(Faure:Nocturne No.2 in B major, Op.33 No.2)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-09-06]

バッハ:小フーガ ト短調 BWV.578(Bach:Fugue in G minor, BWV 578)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-09-04]

レスピーギ:ローマの噴水(Respighi:Fontane Di Roma)
ジョン・バルビローリ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1939年1月21日録音(John Barbirolli:Philharmonic-Symphony Of New York Recorded on January 21, 1939)

[2025-09-01]

フォーレ:夜想曲第1番 変ホ短調 作品33-1(Faure:Nocturne No.1 in E-flat minor, Op.33 No.1)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-08-30]

ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36(Beethoven:Symphony No.2 in D major ,Op.36)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年4月20日録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on April 20, 1961)

[2025-08-28]

ラヴェル:舞踏詩「ラ・ヴァルス」(Ravel:La valse)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団 1960年録音(Rene Leibowitz:Orcheste de la Societe des Concerts du Conservatoire Recorded on 1960)