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フリッチャイ(Ferenc Fricsay)|モーツァルト:ミサ曲 ハ短調 k427
モーツァルト:ミサ曲 ハ短調 k427
フリッチャイ指揮 ベルリン放送響 ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊 (S)シュターダー他 1959年録音
Mozart:Mass in C minor, K.427/417a [1.Kyrie]
Mozart:Mass in C minor, K.427/417a [2.Gloria]
Mozart:Mass in C minor, K.427/417a [3.Credo]
Mozart:Mass in C minor, K.427/417a [4.Sanctus]
Mozart:Mass in C minor, K.427/417a [5.Benedictus]
トルソー

ザルツブルグを去ってウィーンへと旅だったモーツァルトにとって、教会音楽はもはや彼の責務ではなくなっていました。全てを45分以内におさめるように、などという制約からは自由になったのですが、もはやそう言うものとの関わりもなくなってしまったのです。
しかし、そんな彼が、外部からの注文もないのに、突然ひとつのミサ曲を書き始めます。
それが、このミサ曲ハ短調です。
いわゆる生粋の職業音楽家であったモーツァルトが注文もないのに音楽を書くというのは希有のことですが、彼の手紙などから推測されるのは、コンスタンツェとの結婚に関わった一種の「誓願」ではなかったかと言われています。誓願とは「神や仏に誓いを立て、物事が成就するように願うこと」と説明されるのですが、コンスタンツェとの結婚が成就すれば教会にミサ曲を捧げることを誓ったようなのです。
ところが、彼が願ったコンスタンツェとの結婚は成就したのですが、その見返りとしてのミサ曲は「未完成」のままで放置されてしまいます。コンスタンツェを伴ってザルツブルグの父親のもとに結婚を報告しに行ったときに、未完の部分には過去の作品をあてがって演奏をすませたので、彼にしてみれば約束は守ったと言うことなのでしょう。そして、とりあえず約束は守ったのだから、あとは金にもならない仕事をやっている暇はなかったのでしょう。
ただ、そんな経緯を持った作品ではあるのですが、作品そのものは決していい加減なやっつけ仕事ではありませんでした。
アインシュタインはこの作品のことを「トルソー(人間の頭部・腕・足・脚を除いた胴体部分のみを造形した彫刻)」と呼び、さらにはバッハの「ミサ曲ロ短調」とベートーベンの「ミサ・ソレムニス」との間に位置する唯一の作品と賛辞を送っています。
この作品が面白いのは、演奏上の細かい面においてはザルツブルグでも演奏できるように可能な限りの配慮をしているのに、その内容においては一切のザルツブルグの伝統を拒否していることです。
重々しいまでのオーケストラの伴奏、華やかな二重合唱、そして何よりもオペラのアリアを思わせるようなソプラノの歌唱、そのどれをとっても質素と簡素を強いるザルツブルグの伝統は欠片も存在しません。
モーツァルトにしてみれば「ざまあみろ!!」という思いもあったのかもしれません。
熱い音楽
今もってこの作品の最も優れた演奏、控えめに表現しても最も優れた演奏の一つと言えるでしょう。
その特徴はひと言で言えば「熱い」につきます。世間では、ソプラノのシュターダーの「清楚な歌声」を褒める人が多いのですが、蛇口全開の「Voyage MPD」でこの録音を聞くと、シュターダーの歌声も「清楚」と言うよりは「熱さ」を感じてしまいます。
もちろん、この「熱さ」は指揮者のフリッチャイから発せられたものですが、その熱はオケにもソリストにも、そして合唱陣に乗り移って、まさに空前絶後(いかん、こんな表現をしたらU氏のパクリだ!!)の世界が展開されます。
そして、その熱さにあおられているうちに、いったい今聞いているのはミサ曲なのか、それともオペラの一場面なのか、だんだん分からなくなってくるほどです。
やっぱりクラシック音楽というのはこういうもんでなくっちゃいけません。
青白い、貧血の音楽なんかは願い下げだ!!
マリア・シュターダー(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
イヴァン・サルディ(バス)
ベルリン放送交響楽団、聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊
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よせられたコメント
2011-08-23:紫苑
- この演奏を聴きながら、モツァルトの演奏に必要なものってなんだろう、あるいは、モツァルトの特徴ってなんだろうとつらつらと考えました。
まず第一には「耳に快い」こと。これはモツァルト自身が自作のピアノ協奏曲について語っていることでもよく知られているわけですが、「難しすぎずやさしすぎず中庸を得ていて、耳に快い」というのは、言い換えれば「音の喜び」を十分に堪能できることといってもいいかもしれません。
それから、「古典的調和」の枠組みをしっかり保っていて、それを踏み外さないこと。逆の言い方をすれば、激情の奔流に身を任せて流されたりすることなく、引き締まった演奏をすること。世の中には「激情の奔流に身を任せ」るところに楽しみを見出すような種類の音楽もないわけではないけれども、そういうタイプの音楽とは一線を画したものでなくてはならない。
さらに、その演奏は「魂のこもった」ものでなくてはならない。こういう言い方をすると漠然としていて、いったいどういうものが「魂がこもって」いるといえるのかといわれると困るけれども、たとえば昔から「歌うように」演奏せよなどといわれるのも同じことをいっているなのではないでしょうか。「耳に快く」「調和」を得ていても、それは音楽を形の上だけ再現したものに過ぎないでしょう。わたしが近頃流行の古楽派の演奏を聴いてしばしば物足りなく感じるのは、それが「耳に快く」「調和」を得ているけれども、音楽が「生きて」いないような、言い換えれば生きている人間が自分の魂をこめて演奏しているように感じられないことが多いからでしょう。
これらの条件を兼ね備えた演奏がなされたモツァルトからは「神々しい」としかいいようのない響きがします。そういう性質を備えた作曲家はほかにバッハくらいしか思い当たりませんが、たとえ世俗的な目的で作曲された音楽であっても、人々の耳を楽しませるはずの音楽がいつのまにか「神々の饗宴」のために用意されたかのような音楽となるのです。
こうやってみていくと、この演奏は、モツァルトの本来あるべき姿はどういうものなのか、という問いに対するひとつのきわめて有力な回答であるような気がします。
世の中に完璧ということはありえませんから、わたしは10点をつけることはできません。となると、この演奏にはごく控えめに9点を投票するしかなさそうですね。
2019-08-31:中山良輔
- パブリックドメインからのダウンロード、素晴らしい音質での公開、本当にありがとうございます。 この曲は、自分が中高生だった1970年代後半に、LPレコードを卓上プレーヤーでよく聴いていた曲です。フーガがとても立体的に聴こえて、うれしいです。シュターダーの声は、卓上プレーヤーで聴いていた印象とまったく一緒でした。
最近は、itunesで音楽を聴いています。itunesなどのMP3プレーヤーでは、音楽ファイルを自分の好きな順番に並べ替えた、プレイリストで音楽が聴けます。 自分の手元にある、モーツァルトのCDをケッヘル作品番号順に並べて、いろんな事務的作業をするとき、運転時に聴いています。本日、その中に、この曲を入れることができました。ありがとうございます。
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