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フリッツ・ブッシュ(Fritz Busch)|モーツァルト:コシ・ファン・トゥッテ
モーツァルト:コシ・ファン・トゥッテ
フリッツ・ブッシュ指揮 グラインドボーン祝祭管弦楽団&合唱団 1935年録音
Mozart:Cosi Fan Tutte 第1幕
Mozart:Cosi Fan Tutte 第2幕
18世紀の「粋」を表現したオペラ

このオペラを注文したのは皇帝ヨーゼフ2世です。きっかけはウィーンにおけるフィガロの再演だったようで、それがかなりの好評だったことでヨーゼフ2世が新作を注文して、そしてできあがったのがこの「コシ・ファン・トゥッテ」でした。モーツァルトの手紙によると作曲料は200ドゥカーテンだったようで、これは今の価値に直すと300万円近い額になるそうですから、さすがは皇帝陛下、大したものです。
このオペラの筋立ては実に単純ですし、登場人物もわずか6名です。
まずは二人の若い士官とその恋人の姉妹、それに姉妹に仕える小間使いと老哲学者です。お話は、この若い姉妹の貞節を試すと言うことで、若い士官が変装をしてお互いの恋人に言い寄るというものです。仕掛けたのは老哲学者であり、そこに小間使いが参加してあれこれと小細工を仕掛けます。
このストーリーは当時のウィーンの社交界で実際にあった事件をネタにしているという話も伝わっていますが真偽のほどは定かではありません。
ところがこの作品は19世紀になるといたって評判が悪くなります。ベートーベンなどは不道徳で背徳的なオペラだと決めつけています。これはベートーベンという男が野暮だったからではなく、それが19世紀におけるこのオペラに対する標準的な受け取られ方だったのです。
これは考えてみれば奇妙な話です。
このオペラを注文したのはオーストリア帝国の皇帝であり、その注文にこたえて納品されたこの作品を見ても皇帝陛下は決して不道徳だとも背徳的な作品だとも思わなかったようですし、もちろん当時の聴衆も喜んでこの作品を受け入れました。
ところがフランス革命を経過して19世紀に突入すると、ヨーロッパの市民にとってこのオペラは耐え難いほどに恥知らずなオペラだと映ってしまっているのです。つまり、このオペラには18世紀の人々にとっては受け入れることが出来ても、19世紀の人間には受け入れがたい要素を内包していると言うことです。
と、ここまで書いてきてユング君の中に閃くものがありました。(大げさな・・・^^;)
それは、この「18世紀的なもの」と「19世紀的なもの」を日本に置き換えてみると、「江戸」と「明治」の違いかもしれないと言う閃きです。
そう言えば、春画満載の浮世絵は明治になると排斥されて大量に国外に流出しました。それ以外にも伝統的な江戸文化は明治になって急速に衰退していきます。
おそらく江戸の人間にとっては自明のことでありながら、明治の人間がどうしても理解できなかったの「江戸の粋」だったと思います。富国強兵のかけ声のもとに対外膨張を続ける明治の人々に江戸の粋を理解する余裕はなかったとも言えます。
と言うことは、19世紀のヨーロッパ市民がこの作品の中にあって理解できなかったのは「ウィーンの粋」かもしれません。フランス革命が起爆剤となってヨーロッパには近代国家が誕生します。その誕生したばかりの近代国家がヨーロッパの中で角をつき合わせていたのが19世紀という時代でしたから、そこにはもはや18世紀的な粋を楽しむ余裕はなかったと言うことでしょう。
そう言う意味で、コシ・ファン・トゥッテこそが消え去りゆくオーストリア帝国の古き良き時代をタイムカプセルのように閉じこめた作品だといえるかもしれませんし、その作品を注文したのがヨーゼフ2世だったという事が時代の皮肉のように思えてなりません。
●第1幕
第1場 カフェにて
第2場 海辺の庭園
第3場 フィオルディリージとドラベッラの家の居間
第4場 芝生のある庭園
●第2幕
第1場 フィオルディリージとドラベッラの家の居間
第2場 海辺の庭園
第3場 フィオルディリージとドラベッラの家のある部屋
第4場 うしろに楽団がひかえている大広間
グラインドボーン音楽祭2年目の記録
昨今はブッシュという名前で聞くだけで拒絶反応を起こされる方も多いかもしれませんが(^^;、ここで指揮をしているフリッツ・ブッシュは戦争好きのあの男とは何の関係もありません。ブッシュ弦楽四重奏団を主宰していたアドルフ・ブッシュの兄であり、今もって20世紀におけるドイツで最も重要なオペラ指揮者という評価を受ける偉大な指揮者です。
1934年に創設されたグラインドボーン音楽祭の初代音楽監督に就任し、音楽祭のレベルを世界的なレベルに引き上げて大きな成功をおさめました。とりわけ、そこで上演されたモーツァルトは今日においても語り継がれています。ここでお聞きいただいているのもその音楽祭での演奏です。彼が音楽監督に就任した2年目のもので、スタートたばかりの音楽祭にもかかわらずそのレベルの高さには驚かされます。
歌手陣もいい歌を聞かしてくれていますが、何よりもブッシュの指揮が素晴らしいです。こう言うのを「手の内に入った」演奏と言うんでしょうね。
なお録音は1935年とは思えないほどの優秀なものです。
追記
何人かの方からフリッツ・ブッシュの録音を追加してほしいという要望を受けていました。私自身彼のオペラを聴き直してみて改めて惚れ直しました。こういう古い録音は何かのきっかけがないとなかなか聞く気がおこらないだけに、そうやって背中を押していただいた方に感謝します。演奏が素晴らしいのは言うまでもないことですが、録音の良さは驚かされました。これだったら、資料としてでなく純粋に音楽として楽しむのにも全く不自由は感じないレベルです。
この演奏を評価してください。
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- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
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よせられたコメント
2008-05-22:ますだよしお
- 35年録音だから聞くのを敬遠したらソンですよ。この頃には、人の声はきれいに録音に納ってますよ。オーケストラの全奏(トゥッティ)はさすがに音は割れますが、何をしているのかは、しっかり聞き取れます。感覚の喜びに至らないだけです。感覚の喜びを求める人は、そもそもこのサイトでモノラル録音で音楽を楽しんだりしないでしょう。エピキュリアンでなくとも、音楽は楽しめるのではないですか。
さて、ブッシュ兄弟の指揮者フリッツは、グラインドボーンでいい演奏を聞かせますね。ここまでなら、評論家渡辺学而の口調ですが・・・・今の若い人、渡辺学而ってわかりますか?FMのエアチェックのたびに彼の解説があったものです。今はあまり聞かなくなったように思いますがね。
1935年。SPは当然。片面10分足らず。デジタルとは遠い時代に、小賢しい計算もなしに、一瞬一瞬に全力を尽くす指揮者、歌手ひとりひとりが感じられるのは私だけでしょうか?時間の価値が、便利で理想的な音環境にある今ほど、
希薄になってきた気がします。
こう書くと、吉井亜彦みたいですね。独自の評論って難しいですね。
2013-08-11:nakamoto
- 吉田秀和が絶賛していたものを、このサイトのおかげ聴くことができました。すんごく素晴らしいうえに楽しい、最高、と私は本当に思いました。しかし気付いてみると、ベームウィーンフィルの録音の方にいつのまにか代わっていました。バカなのかアホなのか自分が分析できずイライラ。晩年のベームがこの曲の序曲を指揮していた時、プライとディスカウが舞台の袖で出番待ちで聴いていて、とにかく美しい美しいと二人で驚嘆したということを、ディスカウが何かで語っていたのを思い出します。私がベームが好きなのは、本当に馬鹿なのでしょうか。
2022-10-30:コシファントゥッテ
- 令和時代の今の視点からするとこのオペラに共感できる要素がないんだよな。アニメ化しても多分つまらないと思うし。
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