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カーゾン(Clifford Curzon)|ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
(P)クリフォード・カーゾ:エイドリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1956年6月27日~29日&12月15日録音
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芸人ラフマニノフ

第3楽章で流れてくる不滅のメロディは映画「逢い引き」で使われたことによって万人に知られるようになり、そのために、現在のピアニストたちにとってなくてはならない飯の種となっています。
まあ、ラフマニノフ自身にとっても第1交響曲の歴史的大失敗によって陥ったどん底状態からすくい上げてくれたという意味で大きな意味を持っている作品です。(この第1交響曲の大失敗に関してはこちらでふれていますのでお暇なときにでもご覧下さい。)
さて、このあまりにも有名なコンチェルトに関してはすでに語り尽くされていますから、今さらそれにつけ加えるようなことは何もないのですが、一点だけつけ加えておきたいと思います。
それは、大失敗をこうむった第1交響曲と、その失敗から彼を立ち直らせたこのピアノコンチェルトとの比較です。
このピアノコンチェルトは重々しいピアノの和音で始められ、それに続いて弦楽器がユニゾンで主題を奏し始めます。おそらくつかみとしては最高なのではないでしょうか。ラフマニノフ自身はこの第1主題は第1主題としての性格に欠けていてただの導入部になっていると自戒していたそうですが、なかなかどうして、彼の数ある作品の中ではまとまりの良さではトップクラスであるように思います。
また、ラフマニノフはシンコペーションが大好きで、和声的にもずいぶん凝った進行を多用する音楽家でした。
第1交響曲ではその様な「本能」をなんの躊躇いもなくさらけ出していたのですが、ここでは随分と控えめに、常に聞き手を意識しての使用に留めているように聞こえます。
第2楽章の冒頭でもハ短調で始められた音楽が突然にホ長調に転調されるのですが、不思議な浮遊感を生み出す範囲で留められています。その後に続くピアノの導入部でもシンコペで三連音の分散和音が使われているのですが、えぐみはほとんど感じられません。
つまり、ここでは常に聞き手が意識されて作曲がなされているのです。
聞き手などは眼中になく自分のやりたいことをやりたいようにするのが「芸術家」だとすれば、常に聞き手を意識してうけないと話は始まらないと言うスタンスをとるのが「芸人」だと言っていいでしょう。そして、疑いもなく彼はここで「芸術家」から「芸人」に転向したのです。ただし、誤解のないように申し添えておきますが、芸人は決して芸術家に劣るものではありません。むしろ、自称「芸術家」ほど始末に悪い存在であることは戦後のクラシック音楽界を席巻した「前衛音楽」という愚かな営みを瞥見すれば誰でも理解できることです。
本当の芸術家というのはまずもってすぐれた「芸人」でなければなりません。
その意味では、ラフマニノフ自身はここで大きな転換点を迎えたと言えるのではないでしょうか。
ラフマニノフは音楽院でピアノの試験を抜群の成績で通過したそうですが、それでも周囲の人は彼がピアニストではなくて作曲家として大成するであろうと見ていたそうです。つまりは、彼は芸人ではなくて芸術家を目指していたからでしょう。ですから、この転換は大きな意味を持っていたと言えるでしょうし、20世紀を代表する偉大なコンサートピアニストとしてのラフマニノフの原点もここにこそあったのではないでしょうか。
そして、歴史は偉大な芸人の中からごく限られた人々を真の芸術家として選び出していきます。
問題は、この偉大な芸人ラフマニノフが、その後芸術家として選び出されていくのか?ということです。
これに関しては私は確たる回答を持ち得ていませんし、おそらく歴史も未だ審判の最中なのです。あなたは、いかが思われるでしょうか?
まるでモーツァルトのコンチェルトのように響く確信犯的演奏
カーゾンのラフマニノフというのはどんな演奏になるのだろうか?と興味が湧きました。
ラフマニノフと言えば髪を振り乱し汗を飛び散らせての大熱演というのが通り相場ですが、カーゾンほどそう言う意味での名人芸のひけらかしを嫌ったピアニストはいません。とにかく控えめなピアニストで、聞いてすぐに魅了さるというような派手さとは全く無縁です。彼が大切にしたのはそう言う見た目の派手さではなくて、何よりもクリアなタッチと音色で作品を克明に再創造することでした。おそらくこれほどまでにクリスタルな透明感に満ちた音色を持ったピアニストは他にはちょっと思い当たりません。(ただし、ユング君はピアニストに関してはそれほど良い聞き手ではないので、ただ単に知らないだけかもしれません^^;)
ですから、そう言うカーゾンがラフマニノフのコンチェルトを演奏すればいったいどんな風に仕上がるのかと興味津々だったわけですが、やはりその興味に充分答えてくれるだけの興味深いラフマニノフでした。
誤解を恐れずに言えば、まるでモーツァルトのコンチェルトのように響くラフマニノフでした。パワーや勢いで押し切る、というか、ごまかすような場面は一つもありません。とにかく一つ一つ場面を精緻にくっきりと描き出していきますから「曖昧さ」というようなものがありません。
ただし、ではそれが理想的なラフマニノフの演奏なのかと聞かれれば、おそらく答えは「NO!」でしょう。おそらく、大部分の人がこの作品に求めるであろう濃厚なロマンティシズムは欠片も見あたりません。それは、カーゾンが確信犯的にこの作品から排除した要素でした。そう、まさに確信犯です。ですから、この演奏はこの作品のスタンダードには絶対になりません。しかし、いろんなピアニストでこの作品を聞いてきた中でこのカーゾンの演奏を聴けば、クラシック音楽とは何という多様な解釈を許すキャパシティがあるものかと感心するはずです。
そう言う意味で、これは間違いなくコアなファン向けの録音だといえます。
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よせられたコメント
2008-11-24:セル好き
- この意表を突いた感じは、グールドの皇帝に通じるものがちょっとあるように思いますが、モーツァルト的と言うよりはシューマンに近いかも。カーゾンも大いに気に入っていて、見かけると購入してますがこれは少し物足りないですね。
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