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ヴィルヘルム・ケンプ(Wilhelm Kempff) |ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調, Op.15
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調, Op.15
(P)ヴィルヘルム・ケンプ:フェルディナント・ライトナー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1961年7月録音
Beethoven:Piano Concerto No.1, Op.15 [1.Allegro con brio]
Beethoven:Piano Concerto No.1, Op.15 [2.Largo]
Beethoven:Piano Concerto No.1, Op.15 [3.Rondo. Allegro]
若きベートーベンの自信作・・・大協奏曲!!
この作品は番号は1番ですが、作曲されたのは2番よりも後です。現行の2番は完成した後に筆を加えたり出版が遅れたりして番号が入れ替わってしまったわけです。
ベートーベンは第2番の協奏曲の方にはたんに「協奏曲」として出版していますが、この第1番の方は「大協奏曲」としています。それはこの作品に寄せる並々ならぬ自信の作品でもあったわけですが、大編成の管弦楽とそれに張り合うピアノの扱いなどを見ると、当時としては「大協奏曲」と銘打っても不思議ではない作品となっています。
それは、実質的にはこの協奏曲の前作となる第2番の変ロ長調のコンチェルトと比較しても管弦楽の規模は拡大されていますし、何よりもこの時代の標準的な交響曲と比較してもより規模の大きな管弦楽が用いられているのです。それは、逆から見れば、それだけの規模の大きな管弦楽を相手にしても十分に張り合えるだけのピアノの技法を確立していたことを意味します。
そして、その事はただ単にベートーベンの技法だけに負うのではなく、何よりもピアノという楽器その物がこの時代に急速に発展したことも欠かせない要件でした。
ベートーベンはここではモーツァルトに多くのものを負っています。
第1楽章は管弦楽で始まり、その独奏部が終わるとピアノが導き出されて独奏呈示部へと進み、そして、再現部と結尾の間にピアノによるカデンツァがおかれるという、あの「パターン」です。
ベートーベンはその後、第4番においてピアノ独奏から音楽をスタートさせてその「お約束」を破るのですが、それもまたよく聞いてみれば、ピアノ独奏が終わると管弦楽による呈示部と思われるような音楽が続くのですから、必ずしも「伝統」を根底から覆すようなものではなかったのです。
ただし、独奏者の名人芸を披露するだけだった協奏曲の世界に、深い感情表現を盛り込んだモーツァルトの方向性もまたベートーベンは引き継ぎ、何よりもその路線を拡大したのでした。そして、その要請に応えるだけの機能とパワーをピアノという楽器が持つようになったことがその方向性を後押しするようになったのです。
この作品はベートーベンがウィーンに出てきて間もない頃に書かれたと言われています。
当時のベートーベンは作曲家としてよりもピアニストとして認められていたわけですから、モーツァルトと同様に、自らの演奏会のためにこのような作品は必要不可欠だったわけです。
演奏効果満点の第1楽章と、将来のベートーベンを彷彿とさせるに十分な激しさを内包した最終楽章、そしてもこれもまたベートーベンを特徴づける詩的な美しさをもったラルゴの第2楽章。
どれをとっても、華やかさだけを追求していた当時の協奏曲という枠組みをはるかに超えるあらゆる要素をもったすぐれた協奏曲でした。
なお、この作品の第1楽章にはベートーベン自身による3種類のカデンツァが残されていますが、これらは作曲当時に書かれたものではなくて、かなり後になってからルドルフ大公のために書かれたものだと言われています。
この上もなく軽やかな(軽い?)ベートーベン
ソリストにはコンプリートする人としない人に別れるみたいな事を書いたことがあります。その二分法を適用すればケンプは典型的な「コンプリートする人」に分類されます。
しかし、そのコンプリートの仕方は一般的なコンプリートする人と較べれば随分と様子が異なっています。それは、誤解を恐れずに言えば、例えば世界で初めてベートーベンのピア・ソナタの全曲録音青したシュナーベルが「死ぬような思いをした」と吐露したような悲壮感がほとんど感じられないのです。
その事は、ほとんどの人がそれなりの時間をかけてコンプリートを完成させているのに対して、ケンプの場合は一気呵成に全曲録音をしているのです。
実際、ここで紹介しているベートーベンのピアノ協奏曲にしても1961年の6月から7月にかけて一気に録音を仕上げています。
ベートーベンのピアノ協奏曲の全曲録音ともなれば、普通はそれなりの意気込みというか気負いというか、そう言うものが漂うのが普通です。しかし、ケンプのこの全曲録音にはそう言う気負いのようなものは微塵も感じられません。
それどころか、どこにも力の入っていない、この上もない自然体で演奏に臨んでいます。結果として生み出される音楽は良く言えばかるみに溢れたベートーベンであり、悪く言えばあまりにも重量感に欠けた「軽いベートーベン」になっているのです。おそらく、ケンプ以外でこんなベートーベンを録音として世に出せる覚悟のあるピアニストはいないでしょう。
何度も繰り返して恐縮なのですが、ケンプは風に鳴る「エオリアンハープ」です。その風と「エオリアンハープ」は絶妙な調和を見いだしたときにはこの上もなく美しい世界を生み出します。そして、そう言う美しい瞬間はこの録音の中にいくつも見いだすことが出来ます。
しかし、それでも全体としてみれば、この演奏はあまりにも軽すぎて、そこに不満を感じる人がいても不思議ではありません。それよりも、オケの伴奏がそう言うケンプの軽やかさにピッタリと寄りそっていなければとても聞けたものでないことは容易に想像がつきます。
ですから、これはケンプだけでなく指揮を務めたフェルディナント・ライトナーとの合作と言ってもいいほどの演奏です。
協奏曲の魅力と言えばソリストとオケとの切った貼ったの勝負にあることも事実であり、事実そう言う文脈の中で多くの名演が生まれてきました。しかし、ここにあるのはそう言う切った貼ったの世界ではなくて、それとは真逆の方にあるソリストとオケとの完璧な調和の中で生み出される世界なのです。
そう言うことで、ケンプも凄いのですが、あらためてフェルディナント・ライトナーという指揮者の名人的な職人芸にも拍手を送りたいのです。
それから、最後に付け加えておきたいのは、この音源は中古レコードなのですが、盤面の状態があまりよろしくなくてかなりパチパチノイズが混ざります。さてどうしたものかと思ったのですが、賛否両論があっても、それなりに興味深い録音なので敢えてアップすることにしました。そのあたりの音質に関してはご容赦ください。
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よせられたコメント 2023-01-18:コタロー 盤質の件ですが、確かに第1楽章の冒頭にノイズが盛大に入っていますね。
推理してみると、レコード盤の外周部分(特にA面)に大きな損傷があると思われます。
原因はわかりませんが、それ以外の部分はほぼ大丈夫ですので、鑑賞にはさほど支障はないと思われます。ケンプの端正な演奏を満喫できますよ!
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