クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|クラウディオ・アラウ(Claudio Arrau)|ベートーベン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37

ベートーベン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37

(P)アラウ ガリエラ指揮 フィルハーモニア管 1958年6月19~22日録音



Beethoven:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37 「第1楽章」

Beethoven:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37 「第2楽章」

Beethoven:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 Op.37 「第3楽章」


悲愴でもあり情熱的でもあるコンチェルト

この作品の初演はベートーベン自身の手によって1803年に行われましたが、その時のピアノ譜面はほとんど空白だったと言われています。ベートーベン自身にしか分からない記号のようなものがところどころに書き込まれているだけで、かなりの部分を即興で弾きこなしたというエピソードが伝わっています。
偉大な作曲家にはこのような人を驚かすようなエピソードが多くて、その少ない部分が後世の人の作り話であることが多いのですが、この第3番のピアノ協奏曲に関するエピソードはどうやら事実だったようです。

この作品は残された資料から判断すると1797年頃から手を着けられて、1800年にはほぼ完成を見ていたようです。ところが、気に入らない部分があったのか何度も手直しがされて、とうとう初演の時に至っても完成を見なかったためにその様なことになってしまったらしいのです。
結局は、翌年に彼の弟子に当たるリースなる人物がウィーンでピアニストとしてデビューすることになり、そのデビューコンサートのプログラムにこの協奏曲を選んだために、他人にも分かるように譜面を完成させなければいけなくなってようやくにして仕上がることになりました。
ヒラーは手紙の中で「ピアノのパート譜は完全に仕上がっていなかったので、ベートーベンが自分のためにはっきりと分かるように書いてくれた」とうれしそうに記していたそうです。

そんなこんなで、随分な回り道をして仕上がったコンチェルトですが、完成してみると、これは実にもう堂々たるベートーベンならではのダイナミックでかつパセティックな音楽となっています。過去の2作に比べれば、オーケストラははるかに雄弁であり、ピアノもスケールが大きく、そして微妙なニュアンスにも富んだものとなっています。
ただし、作品全体の構成は伝統的なスタイルを維持していますから1番や2番の流れを引き継いだものとなっています。ところが内容的には4番や5番に近いものをもっています。そう言う意味において、この3番のコンチェルトは過渡期の作品であり、ベートーベンが最もベートーベンらしい作品を書いた中期の「傑作の森」の入り口にたたずむ作品だと言えるかもしれません。


アラウ&ガリエラの最良のパフォーマンス

アラウのベートーベンのコンチェルトと言えばハイティンク&コンセルトヘボウ管弦楽団やデイヴィス&シュターツカペレ・ドレスデンとの録音が思い浮かびます。しかし、少なくない人が、このガリエラ&フィルハーモニア管との録音をベスト・チョイスに押しています。
デイヴィスとの録音を調べてみるとこんなキャッチコピーがつけられているのを発見しました。
「ベートーヴェンの大家として知られたアラウ晩年の名演。見通しのよい澄み切った晩年の境地の結実を思わせる第4番、そして重厚なピアニズムの健在ぶりを示す『皇帝』という具合に、作品を隅々まで知り尽くした彼ならではの余裕が、聴き手に大きな感動と充足感を与えてくれます。」

なるほどね・・・^^;。
この時アラウは既に80歳を超えていたのですから仕方のないことなのでしょうが、既に全盛期のテクニックも勢いも失っていて、かなり「緩褌」の演奏になっていました。そんな演奏を「重厚なピアニズム」とか「余裕」などと表現するのはこの世界の常套手段ですから気をつけないといけません。

しかし、60年代に録音されたハイティンクとの演奏にはそのような緩いところは見受けられません。
こちらのキャッチコピーは「アラウ全盛時の録音。テンポは遅いのだが,遅さを感じさせない。力強いが重々しくなく,明晰で明るい音色ながら軽々しくない。受け狙いもなく必要以上の感情移入もない。論理的だが冷たさはない。また若きハイティンクのはぎれよい指揮とも合っている。」となっています。
いい物は、そのいいところを素直に表現すればいいので、曖昧な表現を使わなくてもいいのですね。

しかし、困ったことは、アラウの代表盤として生き残ったのは、あとから録音された「緩褌」演奏の方だったと言うことです。そして、アラウと言えば遅めのテンポで何だか彫りの浅い平べったい音楽を作る人だという印象を持たれてしまった原因にもなっているのでしょう。
ただし、その責任の半分は、ネームバリューに寄りかかって安易な録音を促したレコード会社にあるとして、残りの半分はそんな申し出を受け入れたアラウ本人にもあります。そんな類の録音を聞かされるたびに、「誰か止めるやつはいなかったのか!」などと思ってしまいます。

ですから、この50年代に録音されたガリエラ&フィルハーモニア管との録音などは、LP時代に既に姿を消してしまって、その後はCD化されることもなく、中古レコード屋をかけずり回っても滅多に出会うことはないという「レア盤」の仲間に入ってしまいました。
そんなレア盤がこのようにふたたび日の目を見ることになったのは、今さら言うまでもなく、隣接権が消滅して「パブリックドメイン」となったからです。
そして、そのおかげで、アラウの全盛期の凄さをだれもが簡単に確認することができるようになりました。

80歳を超えてから録音したデイヴィス盤と比べると、これはまるで別人です。音楽そのものに素晴らしく勢いがあり、アラウのピアノも冴え冴えとした響きで「気品」の高さを感じさせてくれます。そして、この演奏は確かにアラウのピアノが素晴らしいのですが、それと同じくらいにガリエラの指揮も秀逸です。
実に颯爽としていてオケを十分にならしきりながら、決してソリストの邪魔にはなっていません。
ソリストの邪魔にはなっていないが、とりあえずオケがバックで鳴っていますというタイプ(これが一番多い!!)、またはソリストのことなんかあまり気にせずにオケを鳴らしきっているというタイプ(いわゆる指揮者が巨匠だったときに多い!!)は結構いますが、こういうガリエラのような指揮者は本当に貴重な存在です。
このガリエラという指揮者は、この時代に多くの有名ソリストの伴奏指揮者として多くの録音を残していますが、今ではほとんど忘れ去られた存在となっています。
そう言う意味で、アラウにとってもガリエラにとっても、彼らの最良のパフォーマンスがふたたび日の目を見ることになったことは喜ばしいことです。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



1474 Rating: 5.2/10 (215 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2011-07-17:セル好き





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2026-08-04]

メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ第1番 変ロ長調, Op.45(Mendelssohn:Cello Sonata No.1, Op.45)
(Cell)ルートヴィヒ・ヘルシャー:(P)ハンス・アルトマン 1959年発行(Ludwig Hoelscher:(P)Hans Altmann Published in 1959)

[2026-08-02]

ディーリアス:別れの歌(Delius:Songs of Farewell)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 ロイヤル・コーラル・ソサエティ 1964年4月22日~23日録音(Sir Malcolm Sargent:Royal Philharmonic Orchestra Royal Choral Society Recorded on April 22, 1964)

[2026-07-30]

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番 ト短調, Op.40(Rachmaninov:Piano Concerto No.4 in G minor, Op.40)
(P)レナード・ペナリオ:アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1964年10月3日録音(Leonard Pennario:(Con)Rene Leibowit London Symphony Orchestra Recorded on October 3, 1964)

[2026-07-29]

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番 嬰ヘ短調, Op.1(Rachmaninov:Piano Concerto No.1 in F-sharp minor, Op.1)
(P)レナード・ペナリオ:アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1964年10月2日録音(Leonard Pennario:(Con)Rene Leibowit London Symphony Orchestra Recorded on October 2, 1964)

[2026-07-27]

バルトーク:ピアノのための組曲 Sz.62 Op.14(Bartok:Suite for Piano, Op.14)
(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月19日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 19, 1951)

[2026-07-25]

エルガー:「ゲロンティアスの夢」第2部 (Elgar:The Dream Of Gerontius, Op. 38 Part2)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 (T)リチャード・ルイス (MS)マージョリー・トーマス (Br)ジョン・キャメロン ハダースフィールド合唱協会 1954年11月4日~6日録音(Sir Malcolm Sargent:Liverpool Philharmonic Orchestra (T)Richard Lewis (MS)Marjorie Thomas (Br)John Cameron Huddersfield Choral Society Recorded on November 4-6, 1954)

[2026-07-24]

エルガー:「ゲロンティアスの夢」第1部 (Elgar:The Dream Of Gerontius, Op. 38 Part1)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 (T)リチャード・ルイス (MS)マージョリー・トーマス (Br)ジョン・キャメロン ハダースフィールド合唱協会 1954年11月4日~6日録音(Sir Malcolm Sargent:Liverpool Philharmonic Orchestra (T)Richard Lewis (MS)Marjorie Thomas (Br)John Cameron Huddersfield Choral Society Recorded on November 4-6, 1954)

[2026-07-22]

J.S.バッハ:カンタータ第202番「いまぞ去れ、悲しみの影よ」 (結婚カンタータ)BWV.202(J.S.Bach:Weichet nur, betrubte Schatten, BWV 202)
カール・ミュンヒンガー指揮 (S)シュザンヌ・ダンコ (Ob)フリッツ・フィッシャー (Vn)ヴェルナー・クロツィンガー (Cemb)ジェルマン・ヴォーシェ=クレール シュトゥットガルト室内管弦楽団 1953年録音(Karl Munchinger:(S)Suzanne Danco (Ob)Fritz Fischer (Vn)Werner Krotzinger (Cemb)Germaine Vaucher-Clerc Stuttgarter Kammerorchester Recorded on 1953)

[2026-07-20]

ベートーヴェン:魔笛の主題による12の変奏曲, Op. 66(Beethoven:12 Variations on Ein Madchen oder Weibchen from Mozart's Die Zauberflote in F Major, Op. 66)
(Cello)モーリス・ジャンドロン (P)ジャン・フランセ 1966年11月録音(Maurice Gendron:(P)Jean Francaix Recorded on November, 1966)

[2026-07-17]

サンマルティーニ:チェロ・ソナタ ト長調(Sammartini:Cello Sonata in G major)
(Cello)レナード・ローズ:(P)レオニード・ハンブロ 1953年5月11日~12日録音(Leonard Rose:(P)Leonid Hambro Recorded on May 11-12, 1953)