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ジョン・バルビローリ(Sir John Barbirolli) |ヴォーン・ウィリアムス:グリーンスリーヴスによる幻想曲
ヴォーン・ウィリアムス:グリーンスリーヴスによる幻想曲
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1954年6月5日録音
Vaughan Williams:Fantasia on "Greensleeves"
交響曲は知らなくても・・・
ヴォーン・ウィリアムスについては既にボールト指揮による「交響曲全集」をアップしてあります。交響曲という形式が終焉を迎えた20世紀という時代に9曲もの交響曲を残したと言うことで「隠れたシンフォニスト」などと言われたりします。
しかし、そう言う彼の本線である交響曲を聞いたことがなくても、この弦楽合奏を主体とした二つの幻想曲なら聴いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
ヴォーン・ウィリアムズは20世紀の作曲家としては珍しく穏やかで美しい旋律ラインを持った音楽を書いた人というイメージがあります。そう言うイメージにピッタリなのがこの「トマス・タリスの主題による幻想曲」この「グリーンスリーヴスによる幻想曲」であり、とりわけ「トマス・タリスの主題による幻想曲」は彼に作曲家としての成功をもたらした作品です。
グリーンスリーヴスによる幻想曲
おそらく、ヴォーン・ウィリアムスにとっては不満でしょうが、彼の作品の中ではもっとも有名な作品です。何故ならば、その「有名」さの大部分がイングランドの古い歌「グリーンスリーヴス」に依存しているからです。
この作品はもともとはオペラ「恋するサー・ジョン(Sir John in Love)」の第3幕の間奏曲としてかかれたものであり、さらにその間奏曲をラルフ・グリーヴズ(Ralph Greaves)が編曲して独立させたのが「グリーンスリーヴスによる幻想曲」です。楽器編成は弦楽合奏を主体としながらそこにハープとフルートが追加されています。
とは言え、その編曲はヴォーン・ウィリアムス自身も気に入ったようで、1934年に本人の指揮で初演されています。
と言うことで、この作品の著作権関係が心配になったのですが、調べてみると編曲者である「ラルフ・グリーヴズ」の権利も既に消滅していました。
イギリス訛りがバルビローリの一つの本性となっている
イギリスという国には不思議な愛国心があるようです。
思い出すのは、イギリスのグラモフォン誌が世紀末に20世紀を代表する指揮者を読者対象のアンケート調査で決めたところ、フルトヴェングラーをおさえて第1位になったのはバルビローリでした。おそらく、こんな結果が出るのはイギリスだけでしょう。
しかし、もう一つこの時思い出したのは、イギリスの指揮者はイギリスの作曲家を大いに支援すると言うことです。その典型はビーチャムとディーリアス、ボールトとヴォーン・ウィリアムズでしょうか。
そう考えてみると、バルビローリも当然の事ながらイギリスの作曲家の作品を多く録音していますが、特定の誰かを強く推すという態度は取っていません。
しかし、彼の演奏するヴォーン・ウィリアムスを聞いていてふと気づいたことがあります。
それは、彼のヴォーン・ウィリアムスにはボールトのようなスコットランドの原野を吹きすさぶ風のような厳しさはありませんし、スタインバーグのようなスコアに託された響きを完璧なバランスで再現する事も目指していません。当然の事ながらオーマンディのような甘さとも少し違います。そして、これってなんだろうと考えて思いついたのは、イングランドが持っているローカリティです。
そう言えば、ヴォーン・ウィリアムズは熱心にイギリスの各地方に根付いていた民謡やキャロルを集めてまわった人でした。もちろん、彼の作品にはそのような民謡が剥き出しのままで登場することはないのですが、バルビローリの演奏で彼の作品を聞くと、その作品が持っているイングランド訛りのようなものが感じられるのです。
そして、ともすれば美しく旋律線を歌い上げるバルビローリのことを「ミニ・カラヤン」のように言う人もいるのですが、それは大きな間違いであることの証左の一つがそこにあるように思われました。
おそらく、バルビローリの体の中にはそう言うイギリスの風土が持つローカリティが染み込んでいるのでしょう。そして、そのローカリティは日本人が共感しやすい親しみやすさと美しさを持っていることは間違いありません。蛍の光や庭の千草などはほとんど日本の歌曲かと思えるほどに私たちの生活に溶け込んでいます。
また、ホルストの「木星」などを聞くと「ああ、これってイギリス版ド演歌だな」と思ったりするのですが、そう言うイギリス訛りがバルビローリの一つの本性となっているのでしょう。
もちろん、厳しい気候風土のイギリスにはボールト的な厳しさもあるのですが、おそらくイギリス人にとってもバルビローリ的な優しさと美しさ、そして親しみやすさの方がより身に添うのでしょう。
そう考えれば、グラモフォン誌でバルビローリこそが20世紀を代表する最高指揮者だと選び取ったイギリスの人々の判断は、身贔屓と言うだけでなく、それだけ彼らの心に深く共感させる音楽を彼が提供していたと言うことなのでしょう。
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