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クルト・レーデル(Kurt Redel)|パッヘルベル:カノン
パッヘルベル:カノン
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1961年録音
Pachelbel:Canon in D major
あまりにも有名なバロック作品

バロック音楽の中では、ヴィヴァルディの四季とアルビノーニのアダージョ、そして、このパッヘルベルのカノンが抜群の知名度を誇っています。おそらく、クラシック音楽などというものに全く関心がない人でも、これらの作品ならば耳に馴染んでいて、どこかで何度かは聞いたことがあるはずです。
ただし、こんなにも有名な作品を残しているのに、これ以外の作品となると、今度はよほどのクラシック音楽ファンでも思い出すのは難しいでしょう。まあ、ヴィヴァルディならば探せば四季以外の作品を自分のコレクションから見いだすことはできるでしょうが、アルビノーニやパッヘルベルとなれば、思い出すことはかなり困難なはずです。
ちなみに、有名な「アルビノーニのアダージョ」はアルビノーニの名前をかたった別人の偽作であることが確定していますが、この「カノン」の方は間違いなくパッヘルベルの手になる作品です。
この「カノン」と称される作品は「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」と呼ばれる作品集の第1曲です。
作品名の通り、チェロとコントラバス、そしてチェンバロによる通奏低音を下支えとして3声のヴァイオリンが追いかけっこをします。しかし、さすがにそれだけでは音楽的には単調となるので、そのカノンに続けて「ジーグ」が演奏されるので正確には「カノンとジーグ」とすべき作品です。しかし、現実にはカノンだけが単独で演奏されることが多く、この作品本来の姿である「カノンとジーグ」として演奏される機会は少ないようです。
後ろを見ながら前へと進んでいった人
カール・リヒターとクルト・レーデルはともにミュンヘンを活動の拠点として、ほぼ同じ時期に活動してたいことに気づいて不思議な感情を抱きました。
50年代の初め頃、カール・リヒターは無名の若者であり、ミュンヘンの街角で「僕たちと新しい音楽をやりませんか」と言いながらビラをまいては仲間を集めていました。それに対して、クルト・レーデルはすでにフルーティストとしての地位を築いており、1952年にはミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を創設して指揮者としての活動をはじめます。
しかし、両者の音楽感は対照的なものでした。
そして、言うまでもなく後世に大きな影響を与えたのはリヒターの峻厳にして厳格なバッハ演奏でした。そして、その演奏は後の時代にピリオド演奏という潮流が大きな影響力を持つようになっても、そして彼らがリヒターの演奏をどれほど批判しようとも多くの聞き手はリヒターを見捨てることはありませんでした。
それに対して、レーデルの音楽はリヒターと較べれば極めて保守的でした。
もっとも、保守的と言っても当時の巨匠たちが常識としていた重厚長大な演奏と較べれば、それは疑いもなくこの時代における古楽復興の一翼を担うものでした。しかし、おそらく、そう言う50年代の古楽復興のムーブメントの中にレーデルの演奏をおいてみれば、それはもっとも保守的な部類にはいると言わざるを得ないでしょう。
彼らは60年代にエラートを中心として熱心に録音活動を行い多くの賞も取ってその時代においては一定の支持を得ていました。しかし、時代が過ぎるにつれて彼らの存在は遠ざかり、いつしかほとんどの人の記憶からは消え去ってしまいました。現在では、デジタル化されてCDとなっている録音は彼らの業績から見ればごく僅かであり、その多くがすでに廃盤となってしまっているようです。
しかし、この世知辛い世の中において、今一度彼らの演奏を聞くと、そのゆったりとした穏やかな音楽の作り、そして何よりも低声部にそれなりの厚みを持たせたふくよかな響きは、苛立ちささくれだった気持ちを鎮めてくれます。
そして、ひたすら前ばかりを見つめて突き進んできた「今」のあり方に対する一つの疑問を提起してくれるような気がします。
ここで紹介している録音は中古レコード屋さんの300円均一コーナーに投げ込まれていた一枚です。収録されていたのは以下の6曲です。
- パッヘルベル:カノン ニ長調
- パッヘルベル:シャコンヌ ヘ短調
- J.S.バッハ:アリア(管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068より)
- J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調, BWV 565
- J.S.バッハ:幻想曲とフーガ イ短調, BWV 904
- J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
パッヘルベルはともかくとして、バッハに関して言えば緩い音楽と言われても仕方がないでしょう。しかし、その「緩さ」がなんだか妙に魅力的に思えてくるのです。
バッハのオルガン曲の編曲も色彩の豊かさよりはオルガンが持つ響きを管弦楽に置き換えたようで聞いていて心が落ちつきます。有名なアリアもこうやってふくよかな響きで歌い上げてくれた方が一つの救いとなるような気がするのです。
そう言えば、ポール・ヴァレリーがこんな事を言っていました。
湖に浮かべたボートをこぐように人は後ろ向きに未来へ入っていく。目に映るのは過去の風景ばかり、明日の景色は誰も知らない
レーデルとはまさに後ろを見ながら前へと進んでいった人なのかもしれません。
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よせられたコメント
2021-09-23:joshua
- レコードの微かな針音ではじまり、たちまちプレイヤー達を目の前にして聞くような音圧を感じました。セッションでも、これならライブに匹敵するかな、と。ミニチュアサイズの精細録音に慣れきった耳には矢張り新鮮。また、コンサートに足を運んだり、あわよくばアマオケの演奏活動に戻ったりできたらなあ。この前のクレンペラーのシューマンにしても、オケのそばで、その時、フィラデルフィアの聴衆のひとりとして聴けていたらなぁ、という思いはCDより断然、LPレコードなんでしょう。そうですね、レンジでチンの食事にすっかり慣れたところに、目の前で腕のいい料理人と話しをしながら手作りを頂いた気分(未体験ですが)、と例えますかね。
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