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カラヤン(Herbert von Karajan)|チャイコフスキー:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a
チャイコフスキー:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a
カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年1月録音
Tchikovsky:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a 「Scene」
Tchikovsky:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a 「Valse - Act I」
Tchikovsky:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a 「Danse des petits cygnes - Act II」
Tchikovsky:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a 「Introduction & Danse de la reine des cygnes - Act II」
Tchikovsky:組曲「白鳥の湖」 Op. 20a 「Danse hongroise - Czardas」
初演の大失敗から復活した作品

現在ではバレエの代名詞のようになっているこの作品は、初演の時にはとんでもない大失敗で、その後チャイコフスキーがこのジャンルの作品に取りかかるのに大きな躊躇いを感じさせるほどのトラウマを与えました。
今となっては、その原因に凡庸な指揮者と振り付け師、さらには全盛期を過ぎたプリマ、貧弱きわまる舞台装置などにその原因が求められていますが、作曲者は自らの才能の無さに原因を帰して完全に落ち込んでしまったのです。
今から見れば「なぜに?」と思うのですが、当時のバレエというものはそういうものだったらしいのです。
とにかく大切なのはプリマであり、そのプリマに振り付ける振り付け師が一番偉くて、音楽は「伴奏」の域を出るものではなかったのです。ですから、伴奏音楽の作曲家風情が失敗の原因を踊り手や振り付け師に押しつけるなどと言うことは想像もできなかったのでしょう。
初演の大失敗の後にも、プリマや振り付け師を変更して何度か公演されたようなのですが、結果は芳しくなくて、さらには舞台装置も破損したことがきっかけになって完全にお蔵入りとなってしまいました。
ところが、作曲者の死によって作品の封印が解かれた事によってそんな状況が一変したのは皮肉としかいいようがありません。
「白鳥の湖」を再発見したのは、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」の振り付けを行ったプティパでした。(くるみ割り人形では稽古に入る直前に倒れてしまいましたが)
おそらく彼は、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」ですばらしい音楽を書いたチャイコフスキーなのだから、その第1作とも言うべき「白鳥の湖」も悪かろうはずがないと確信していたのでしょう。しかし、作曲自身が思い出したくもない作品だっただけに生前は話題にすることも憚られたのではないでしょうか。
ですから、プティパはチャイコフスキーが亡くなると、すぐにモスクワからほこりにまみれた総譜を取り寄せて子細に検討を始めます。そして、当然のことながら、その素晴らしさを確信したプティパはチャイコフスキーの追悼公演でこの作品を取り上げることを決心します。
追悼公演では台本を一部変更したり、曲順の変更や一部削除も行った上で第2幕のみが上演されました。結果は大好評で、さらに全幕をとおしての公演も熱狂的な喝采でむかえられて、ついに20年近い年月を経て「白鳥の湖」が復活することとなりました。
この後のことは言うまでもありません。
この作品は19世紀のロシア・バレエを代表する大傑作と言うにとどまらず、バレエ芸術というもののあり方根底から覆すような作品になった・・・らしいのです。(バレエにはクライのであまり知ったかぶりはやめておきます。)
ただ、踊りのみが主役で、音楽はその踊りに対する伴奏にしかすぎなかった従来のバレエのあり方を変えたことだけは間違いありません。
<お話のあらすじ>
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
序奏
オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロッドバルトが現れ白鳥に変えてしまう。
第1幕 :王宮の前庭
今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が集まり祝福の踊りを踊っている。そこへ王子の母が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶように言われる。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。
第2幕 :静かな湖のほとり
白鳥たちが泳いでいるところへ月の光が出ると、たちまち娘たちの姿に変わっていった。その中でひときわ美しいオデット姫に王子は惹きつけられる。彼女は夜だけ人間の姿に戻ることができ、この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。それを知った王子は明日の舞踏会に来るようオデットに言う。
第3幕 :王宮の舞踏会
世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔の娘オディールが現われる。王子は彼女を花嫁として選ぶが、それは悪魔が魔法を使ってオデットのように似せていた者であり、その様子を見ていたオデットの仲間の白鳥は、王子の偽りをオデットに伝えるため湖へ走り去る。悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向かう。
第4幕 :もとの湖のほとり
破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子はかなわぬまでもと跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。
『ウィキペディア(Wikipedia)』よりの引用終わり
私などは問題を感じないのですが、どうも世の女性達にはこの「エンディング」がいたって評判が悪いようです。
実は、妻と「白鳥の湖」を見に行ったときに、彼女はこのエンディングをはじめて知って「激怒」されました。「男というのはいつもこんな身勝手な奴ばかりだ!」とその怒りはなかなか静まりませんでした。
私などはこれで身勝手だと言われれば、ワーグナーの楽劇などを見た日にはライフルでも撃ち込みたくなるのではないかと懸念してしまいます。
ただし、ポピュラリティが全く違いますし、「白鳥の湖」の公演ともなれば女性が圧倒的に多いのです。
と言うことで、劇場側もこのストーリーは営業上まずいと思ったのでしょう。エンディングで悪魔の呪いがとけて二人は結ばれて永遠の愛を誓ってハッピーエンドで終わる演出もメッセレル版(1937年)以降よく用いられるようになっているそうです。
この変更は物語の基本構造に関わることなので、そんなに安易に変更していいものかと思うのですが、女性達の怒りにはさからえないと言うことなのでしょう。(当然のことながら、原典版のエンディングが許せないと怒っている男性には未だ私は出会ったことがありません。)
誰れが聞いても絶対にココロひかれる演奏
カラヤンとチャイコフスキーはとても相性がいいようですね。
チャイコフスキーと言えば、その旋律は素晴らしいが作品の構造が弱いと言うことで常に「二流作曲家」扱いをされてきました。
カラヤンも音楽を美しく歌い、美しくオケを響かせることに関しては素晴らしいが、精神的な深みに欠けると言うことで、コアなクラシックファンからは常に「ダメ指揮者」のレッテルを貼られ続けてきました。
でも、考えてみれば、私たちが音楽を聞いてまず最初にココロひかれるのは「構造」でもなければ「精神性」でもありません。音楽聞いて、「あぁー、いいな!」と思うのはまず、「旋律」です。作曲家が美しい旋律を作り、それを演奏家がこの上もなく美しく歌い上げれば、誰が聞いてもそれはココロふるわせるものになるはずです。
それに対して、音楽から「構造」を聞き取ってココロふるわせるには訓練がいります。つまりは、一定の「能力」がもとめられます。さらに言えば、音楽から「深い精神性」をくみ取ってココロふるわせるには「能力」を超えた「超能力」が求められます。
何しろ、この「超能力」さえ獲得できれば、どんなにヨタヨタで技術的に破綻した演奏でもココロふるわせることができるのですからたいしたものです。(ちなみに、戦後のクラシック音楽界を席巻した「現代音楽」を聞いてココロふるわせるには、「超能力」を超えた「魔界の力」が必須です。)
その意味で言えば、カラヤンもチャイコフスキーも、音楽を聞く上で、聞き手に対して訓練も能力も強制しないタイプの音楽家だったように思います。ですから、この両者の相性はとてもいいのです。
どれくらい相性がいいのかというと、たとえば、カラヤンは「悲愴」を7回も正規録音しています。これは、同一指揮者による同一作品の録音回数ととしてはギネス記録でしょう。
同じく、この三大バレエの組曲版も繰り返し録音しています。
そして、50年代のフィルハーモニア管、60年代とのウィーンフィル、70年代のベルリンフィルと聞き比べてみると、どんどん耽美的になっていくのが手に取るように分かります。最後のベルリンフィルとの演奏などを聴くと、ちょっと「危ない」領域にまで踏みこんでいるのではないかと思わせられます。
でも、どれを聞いても素敵です。クラシック音楽というものに距離感や抵抗感を抱いている人でも、これを聞けば絶対にココロひかれるものがあるはずです。カラヤンとチャイコフスキーという組み合わせには、間違いなくそう言う力があります。
個人的にはこの59年に録音されたフィルハーモニア管との演奏がもっとも好ましく思えます。しかし、今のユング君は返す刀で、その後のカラヤンはダメになったなどとは言いません。
何故に、彼がこの地点に立ち止まることを潔しとせずに、後年「カラヤン美学」と言われるような演奏様式を築き上げていかざるを得なかったのかが少しずつ理解できるようになってきたからです。
そう言う視点から眺めてみれば、この59年に録音された「白鳥の湖」と「眠れる森の美女」の組曲版はカラヤン美学のスタート地点を示すものであり、70年代の演奏は「到達点」を示すものだといえます。言葉をかえれば、カラヤンが「ドイツのトスカニーニ」から「カラヤン」に変わっていった軌跡の始点と終点を示しています。
その意味では、この59年に「くるみ割り人形」だけが録音されなかったのは残念なことでした。52年には3つの組曲をまとめて録音しているのですから、59年にも同様であってもいいように思うのですが、調べてみると、事はそれほど簡単ではないようです。
カラヤンは「白鳥の湖」と「眠れる森の美女」は必ずセットで録音しています。
1. 52年(PO)
2. 59年(PO)
3. 65年(VPO)
4. 71年(BPO)
オケも録音年もピッタリとあっています。
ところが、「くるみ割り人形」の録音は以下のようになっています。
1. 52年(PO)
2. 61年(VPO)
3. 66年(BPO)
4. 82年(BPO)
微妙にずれています。三大バレエと呼ばれるだけに、三つそろっていないと営業的にまずいので、あとから仕方なしに録音したような風情が感じ取れます。真偽の程は分かりませんが、でも聞いてみると、「くるみ割り人形」が一番上手くいっていないように聞こえることも事実です。
きっと、カラヤンは「くるみ割り人形」があまり好きではなかったのでしょう。
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よせられたコメント
2012-07-04:大畑 禎男
- 有名な曲で知っていましたが、曲の制作の背景を知ってもっと深くクラッシクに関心が深まりました。
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