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シュミット=イッセルシュテット(Hans Schmidt-Isserstedt)|シューベルト:交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」 D.944
シューベルト:交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」 D.944
ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 1959年3月3日~4日録音
Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [I. Andante ? Allegro, ma non troppo - Piu moto]
Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [II. Andante con moto]
Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [III. Scherzo. Allegro vivace - Trio]
Schubert:Symphony No.9 in C major, D.944 "The Great" [IV. Allegro vivace]
この作品はある意味では「交響曲第1番」です。

天才というものは、普通の人々から抜きんでているから天才なのであって、それ故に「理解されない」という宿命がつきまといます。それがわずか30年足らずの人生しか許されなかったとなれば、時代がその天才に追いつく前に一生を終えてしまいます。
シューベルトはわずか31年の人生にも関わらず多くの作品を残してくれましたが、それらの大部分は親しい友人達の間で演奏されるにとどまりました。彼の作品の主要な部分が声楽曲や室内楽曲で占められているのはそのためです。
言ってみれば、プロの音楽家と言うよりはアマチュアのような存在で一生を終えた人です。もちろん彼はアマチュア的存在で良しとしていたわけではなく、常にプロの作曲家として自立することを目指していました。
しかし世間に認められるには彼はあまりにも前を走りすぎていました。(もっとも同時代を生きたベートーベンは「シューベルトの裡には神聖な炎がある」と言ったそうですが、その認識が一般のものになるにはまだまだ時間が必要でした。)
そんなシューベルトにウィーンの楽友協会が新作の演奏を行う用意があることをほのめかします。それは正式な依頼ではなかったようですが、シューベルトにとってはプロの音楽家としてのスタートをきる第1歩と感じたようです。彼は持てる力の全てをそそぎ込んで一曲のハ長調交響曲を楽友協会に提出しました。
しかし、楽友協会はその規模の大きさに嫌気がさしたのか練習にかけることもなくこの作品を黙殺してしまいます。今のようにマーラーやブルックナーの交響曲が日常茶飯事のように演奏される時代から見れば、彼のハ長調交響曲はそんなに規模の大きな作品とは感じませんが、19世紀の初頭にあってはそれは標準サイズからはかなりはみ出た存在だったようです。
やむなくシューベルトは16年前の作品でまだ一度も演奏されていないもう一つのハ長調交響曲(第6番)を提出します。こちらは当時のスタンダードな規模だったために楽友協会もこれを受け入れて演奏会で演奏されました。しかし、その時にはすでにシューベルがこの世を去ってからすでに一ヶ月の時がたってのことでした。
この大ハ長調の交響曲はシューベルトにとっては輝かしいデビュー作品になるはずであり、その意味では彼にとっては第1番の交響曲になる予定でした。もちろんそれ以前にも多くの交響曲を作曲していますが、シューベルト自身はそれらを習作の域を出ないものと考えていたようです。
その自信作が完全に黙殺されて幾ばくもなくこの世を去ったシューベルトこそは「理解されなかった天才の悲劇」の典型的存在だと言えます。しかし、天才と独りよがりの違いは、その様にしてこの世を去ったとしても必ず時間というフィルターが彼の作品をすくい取っていくところにあります。この交響曲もシューマンによって再発見され、メンデルスゾーンの手によって1839年3月21日に初演が行われ成功をおさめます。
それにしても時代を先駆けた作品が一般の人々に受け入れられるためには、シューベルト?シューマン?メンデルスゾーンというリレーが必要だったわけです。これほど豪華なリレーでこの世に出た作品は他にはないでしょうから、それをもって不当な扱いへの報いとしたのかもしれません。
男性的に引き締まった響き
なるほどなぁ、と呟いてしまいます。
何が「なるほど」なのかと言えば、数少ない録音を聞いただけでその人のことが全て分かったようなつもりになってはいけないと言うことです。
イッセルシュテットと言えば、まず思い浮かぶのが60年代の後半にウィーンフィルと組んで録音したベートーベンの交響曲全集です。
もう一つは、これもまたウィーンフィルとバックハウスとのコンビで録音した
ベートーベンのピアノ協奏曲全集でしょう。
さて、それ以外でイッセルシュテットの録音って何があったけ?という感じになってしまうのが悲しいのですが、しかし、そうなってしまうがゆえに、この二つの録音だけでイッセルシュテットという指揮者の全体像が語られてしまうことになるのです。
しかし、考えてみれば19世の最後の年(1900年)に生まれ、若くして幾つかの歌劇場のシェフに就任し、戦後は北ドイツ放送交響楽団の創設と育成を託され、ウィーンフィルやベルリンフィルなど100を超えるオーケストラで指揮棒を振ったほどの男のことを、僅か二つの録音で見切ろうとする方が間違っているのです。
「激しい熱気を漲らせるというよりも整理整頓したもので、常に温和な格調を保っている。」などと評した評論家もまたそれと同じ愚を犯しています。
彼の音楽がいかに熱気に漲ったものであったかは、前回紹介し
たモーツァルトのジュピターを聞いてみれば誰もがすぐに了解するはずです。
しかし、あれってライブでのことだから、スタジオ録音になればいつもの「穏健」なイッセルシュテットに戻るんじゃないですか、と思う人もいるはずです。
ですから、次は是非ともこのシューベルトを聞いてください。
ここで聞くことのできる「ザ・グレイト」は「歌う人」であるシューベルトが書き連ねた交響曲の最後に位置する「ラストシンフォニー」ではありません。イッセルシュテットがこの作品の中に見いだしたのは、そう言う前段階を踏み越えて、漸くたどり着いたベートーベン的な「ファーストシンフォニー」としての「ザ・グレイト」でした。
音楽は横に流れるよりは縦に構成する方に意識が集中しています。
そこには「穏健」なイッセルシュテットではなくて、男性的に引き締まった響きで音楽を積み上げて構築していくイッセルシュテットが存在しています。
録音に恵まれなかったイッセルシュテットにとっては、ベートーベン以外では数少ないステレオによるセッション録音です。
イッセルシュテットという名前に微温的で無難な音楽を思い浮かべる方には是非とも聞いてもらいたい一枚です。
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