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ワルター(Bruno Walter)|モーツァルト:フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
モーツァルト:フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1954年12月2日録音
Mozart:フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
フリーメイソンの音楽
![](../Jacket_record/No_Image.jpg)
モーツァルトはその晩年にフリーメイソンに加入したことはよく知られています。ただし、その詳細はフリーメイソンの秘密性のためにあまり詳しいことは分かっていませんが、1784年12月14日に「善行ロッジ(分団)」の「徒弟」として入会が認められたことは間違いないようです。そして、翌年の春にはウィーンを訪れた父のレオポルドにも入会を勧め、フリーメイソンもその入会を認めています。モーツァルトはこの結社の分団における様々な儀式のために音楽を書いていて、「フリーメイソンの音楽」とも呼ぶべき一つのジャンルを作り上げています。とりわけ、入会して間もない頃は熱心に書いたようで、その中でもっとも名高いのがこの「フリーメイソンのための葬送音楽」です。
この葬送音楽はモーツァルトが作品カタログに「同志メクレンブルクと同志エステルハージの死去に際してのフリーメイソンの葬送音楽」と記しているので、その作曲の経緯がよく知られています。同志メクレンブルクとはメクレンブルク=シュトレーリッツ大公のことで、同志エステルハージとはエステルハーツィ・フォン・ガランタ伯爵のことで、ともに貴族であり、当時のウィーンのメイソンにおける重要人物でした。メクレンブルク大公は85年の11月6日に亡くなり、その翌日にエステルハージ伯爵が世を去ったのですが、この両者の追悼式が彼らが所属していた「授冠の希望ロッジ(分団)」で17日に行われました。
モーツァルトはこの追悼式のために数ヶ月前に作曲した「親方の音楽」から声楽部をカットして葬送音楽に仕立てあげたのがこの作品です。音楽は驚くほどの厳粛さと悲痛さに満ちていて、最晩年のレクイエムを思い起こさせるほどです。まさにロマン派好みのモーツァルトであり、モーツァルトを代表する有名作としての地位を確立したのもうなずけます。
ワルターのベストはニューヨークフィルとのモノラル録音にあり!!
ワルターといえば一昔前はモーツァルト演奏のスタンダードでした。彼が没したあとにはその地位にベームが「就任」したわけなのですが、そのモーツァルト演奏の素地も、ワルターのもとで修行したミュンヘン歌劇場時代に培ったものでした。
それから時は流れ、古楽器による演奏が一世を風靡する中で、モダン楽器による大編成のオケでモーツァルトを演奏するなんてことは時代錯誤も甚だしいと思われるようになってしまいました。
たしかに、ベームによる交響曲全集を聴くと「鈍重」という言葉を否定しきれませんし、ワルター最晩年のコロンビア響との演奏においても事情は同じです。古楽器演奏は必ずしも好きではないユング君ですが、それでもその洗礼を受けてしまった耳には、彼らの演奏はあまりにも反応が鈍いと思わざるをえません。
問題は低声部の強調にあるのだろうと思います。
とりわけワルターは低声部をしっかりと響かせます。その結果として、土台のしっかりとした厚みのある壮麗な響きを実現しています。
しかし、低声部を担当する楽器というのは小回りはききません。そう言う小回りのきかない鈍重な楽器を強調すれば、それはオケ全体の機能性にとっては大きなマイナスとならざるを得ません。これが、セルとクリーブランドのような「鬼の集団」ならばクリアするのでしょうが、その様なやり方はワルターが好むところではありません。
しかし、ワルターが現役として活躍した50年代前半のモノラル録音を聴くと、同じように低声部はしっかりと響かせながらも、決して「鈍重」なモーツァルトとは感じません。オケはモダン楽器の特性をいかした壮麗な響きを保持しながら、ワルターの棒に機敏に反応しているように聞こえます。結果として音楽は「鈍重」になることなく生き生きとした活力に満ちています。
おそらく、ここに「現役」の指揮者として活動している時と、「引退」した指揮者の「昔語り」との違いがあるのでしょう。
ワルターは戦前のSP盤の時代から、最晩年のステレオ録音の時代まで数多くのモーツァルト演奏を録音として残しています。別のところでも書いたことですが、その長い活動の中で演奏スタイルを大きく変えていったのがワルターの特長です。
そして、その長い活動の中の「昔語り」に属する演奏が、ワルターを代表する業績として世間に広く流布して、それでもって彼の評価がされるようになったということは実に不幸なことでした。これは、ニューヨーク時代のモノラル録音のリリースに積極的でなかったSONYの責任が大きいのですが、それもまたコロンビア響とのステレオ録音を売らんがための戦略だったとすれば悲しいことです。
しかし、幸いなことに、ワルターのモノラル録音のほぼすべてがパブリックドメインの仲間入りを果たしました。今後、ネット上で広く流布することを通してワルターへの再評価が進めばこれほど嬉しいことはありません。
なお、モノラル録音の時代にもオケが「コロンビア交響楽団」となっているものがありますが、これは最晩年のステレオ録音のために特別に編成された「コロンビア交響楽団」とは全く別の団体です。
その実態は明確ではありませんが、おそらくはニューヨークフィルのメンバーを主体にしてそこにメトのメンバーが加わった臨時編成のオケだったと思われます。ちなみに、ステレオ録音を担当した「コロンビア交響楽団」の方はロサンジェルスフィルを主体とした50人程度の小規模なオケだったと言われています。
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