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ハイドン:交響曲第88番ト長調「V字」

フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年12月5日録音



Haydn:交響曲第88番「V字」「第1楽章」

Haydn:交響曲第88番「V字」「第2楽章」

Haydn:交響曲第88番「V字」「第3楽章」

Haydn:交響曲第88番「V字」「第4楽章」


フィナーレをどうするか?

交響曲と言えばクラシック音楽における王道です。お金を儲けようとすればオペラなんでしょうが、後世に名を残そうと思えば交響曲で評価されないといけません。ところが、この交響曲というのは最初からそんなにも凄いスタンスを持って生まれてきたのではありません。もとはオペラの序曲から発展したものとも言われますが、いろんな紆余曲折を経てハイドンやモーツァルトによって基本的には以下のような構成をもったジャンルとして定着していきます。

* 第1楽章 - ソナタ形式
* 第2楽章 - 緩徐楽章〔変奏曲または複合三部形式〕
* 第3楽章 - メヌエット
* 第4楽章 - ソナタ形式またはロンド形式

いわゆる4楽章構成です。
しかし、ハイドンやモーツァルトの時代には舞曲形式の第3楽章で終わってしまうものが少なくありません。さらに、4楽章構成であってもフィナーレは4分の3とか8分の6の舞曲風の音楽になっていることも多いようです。
もう少し俯瞰してハイドンやモーツァルト以降の作曲家を眺めてみると、みんな最終楽章の扱いに困っているように見えます。それは、交響曲というジャンルに重みが加わるにつれて、その重みを受け止めて納得した形で音楽を終わらせるのがだんだん難しくなって行くように見えるのです。
その意味で、ベートーベンのエロイカはそう言う難しさを初めて意識した作品だったのではないか気づかされます。前の3楽章の重みを受け止めるためにはあの巨大な変奏曲形式しかなかっただろう納得させられます。そして、5番では楽器を増量して圧倒的な響きで締めくくりますし、9番ではついに合唱まで動員してしまったのは、解決をつけることの難しさを自ら吐露してしまったようなものです。
そう言えば、チャイコの5番はそのフィナーレを効果に次ぐ効果だとブラームスから酷評されましたし、マーラーの5番もそのフィナーレが妻のアルマから酷評されたことは有名な話です。さらに、あのブルックナーでさえ、例えば7番のフィナーレの弱さは誰しもが残念に思うでしょうし、8番のあのファンファーレで始まるフィナーレの開始は実に無理をして力みかえっているブルックナーの姿が浮かび上がってきます。そして、未完で終わった9番も本当に時間が足りなかっただけなのか?と言う疑問も浮かび上がってきます。いかにブルックナーといえども、前半のあの3楽章を受けて万人を納得させるだけのフィナーレが書けたのだろうとかという疑問も残ります。

つまり、ことほど左様に交響曲をきれいに締めくくるというのは難しいのですが、その難しさゆえに交響曲はクラシック音楽の王道となったのだとも言えます。そして、交響曲は4楽章構成というこの「基本」にハイドンが到達したのはどうやらこの88番あたりらしいのです。
というのも、ハイドンはこの時期に4分の2で軽快なフィナーレをもった作品を集中的に書いているのです。常に新しい実験的な試みを繰り返してきたハイドンにとって一つのテーマに対するこの集中はとても珍しいことです。
ああ、それにしてもこの何という洗練!!そういえば、この作品を指揮しているときがもっとも幸せだと語った指揮者がいました。しかし、この洗練はハイドンだけのものであり、これに続く人は同じやり方で交響曲を締めくくることは出来なくなりました。その事は、モーツァルトも同様であり、例えばジュピターのあの巨大なフーガの後ろにハイドンという陰を見ないわけにはいかないのです。


一筆書きのハイドン・・・?

フルトヴェングラーの奥さんの話ですが、彼がその生涯で満足できた録音というのは数えるほどしかなかったそうです。記憶は曖昧なのですが、トリスタンやシューベルのグレイト交響曲と並んでこのハイドンの88番交響曲、通称「V字」があげられていたことだけは確かです。
実は、この「V字」の録音は当初予定には入っていませんでした。予定されていたのは、シューベルトのグレイトでした。しかし、上で述べたようにグレイトの録音は彼自身をも満足させるほどの素晴らしい結果となり、おまけに時間も余ったために何かもう一つ録音しようというノリになり、そこで急遽取り上げられたのがこの「V字」なのです。ですから、これはもう仲間内の楽しみとして演奏されたようなもので、そう言う貴重な一瞬がこのような形で記録として残ったことはこの上もない幸運だったといえます。
当然のことながら、これは入念に作品解釈が施され、それに従って入念に作り込まれた録音ではありません。おそらくはライブのような一発録りではなかったようですが、実態はそれに限りなく近いものです。嫌、ライブであってもそれは録音を前提としているならそれまでに入念にリハーサルはされるでしょうから、それよりもはるかにフルトヴェングラーとオケの素の姿が記録されています。
そう言う意味では一筆書きのハイドンみたいな演奏なのですが、その自由で寛いだ雰囲気がこの作品には実にピッタリな感じがします。とりわけ第3楽章のメヌエットはまるでドイツの陽気なビアホールを連想させてくれます。

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