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ミュンシュ(Charles Munch) |ラヴェル:ボレロ
ラヴェル:ボレロ
ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1956年1月23日録音
Ravel:ボレロ
変奏曲形式への挑戦
この作品が一躍有名になったのは、クロード・ルルーシュ監督の映画「愛と哀しみのボレロ」においてです。映画そのものの出来は「構え」ばかりが大きくて、肝心の中味の方はいたって「退屈」・・・という作品でしたが(^^;、ジョルジュ・ドンがラストで17分にわたって繰り広げるボレロのダンスだけは圧巻でした。
そして、これによって、一部のクラシック音楽ファンしか知らなかったボレロの認知度は一気に上がり、同時にモダン・バレエの凄さも一般に認知されました。
さて、この作品なのですが、もとはコンサート用の音楽としてではなく舞踏音楽として作曲されました。ですから、ジョルジュ・ドンの悪魔的なまでのダンスとセットで広く世に知れ渡ったのは幸運でした。なにしろ、この作品を肝心のダンスは抜きにして音楽だけで聞かせるとなると、これはもう、演奏するオケのメンバーにとってはかなりのプレッシャーとなります。
嘘かホントか知りませんが、あのウィーンフィルがスペインでの演奏旅行でこの作品を取り上げて、ものの見事にソロパートをとちってぶちこわしたそうです。スペイン人にとっては「我らが曲」と思っている作品ですから、終演後は「帰れ」コールがわき上がって大変なことになったそうです。まあ、実力低下著しい昨今のウィーンフィルだけに、十分納得のいく話です。
この作品は一見するとととてつもなく単純な構造となっていますし、じっくり見てもやはり単純です。
1. 最初から最後まで小太鼓が同じリズムをたたき続ける。
2. 最初から最後まで少しずつレッシェンドしていくのみ。
3. メロディは2つのパターンのみ
しかし、そんな「単純」さだけで一つの作品として成り立つわけがないのであって、その裏に、「変奏」という「種と仕掛け」があるのではないかとユング君は考えています。変奏曲というのは一般的にはテーマを提示して、それを様々な技巧を凝らして変形させながら、最後は一段高い次元で最初のテーマを再現させるというのが基本です。
そう言う正統的な捉え方をすれば、同じテーマが延々と繰り返されるボレロはとうていその範疇には入りません。
でも、変奏という形式を幅広くとらえれば、「音色と音量による変奏曲形式」と見れなくもありません。
と言うか、まったく同じテーマを繰り返しながら、音色と音量の変化だけで一つの作品として成立させることができるかというチャレンジの作品ではないかと思うのです。
ショスタの7番でもこれと同じ手法が用いられていますが、しかしあれは全体の一部分として機能しているのであって、あのボレロ的部分だけを取り出したのでは作品にはなりません。
人によっては、このボレロを中身のない外面的効果だけの作品だと批判する人もいます。
名前はあげませんが、とある外来オケの指揮者がスポンサーからアンコールにボレロを所望されたところ、「あんな中身のない音楽はごめんだ!」と断ったことがありました。
それを聞いた某評論家が、「何という立派な態度だ!」と絶賛をした文章をレコ芸に寄せていました。
でも、私は、この作品を変奏曲形式に対する一つのチャレンジだととらえれば実に立派な作品だと思います。
確かにベートーベンなんかとは対極に位置する作品でしょうが、物事は徹すると意外と尊敬に値します。
管楽器の柔らかい音色が魅力です。
ミンシュはこの作品を4回スタジオ録音しているそうです。48年のパリ音楽院管弦楽団との録音は聴いたことがありませんが、後の3つは一応手元にあります。
今回アップしたのは1956年に手兵のボストン交響楽団と録音したもので、ミンシュは同じ組み合わせで1962年にもう一度録音しています。そして、最後の一枚はフランスが国威をかけて立ちあげたパリ管弦楽団の音楽監督して臨んだ一連の録音の中にふくまれます。
一般的には、最後のパリ管弦楽団との録音がミュンシュのベストといわれるのですが、アメリカのオケらしいパワフルなボレロを聴くことができるボストン交響楽団との録音も決して悪くはありません。
そして、この3種類の録音に共通するのは管楽器の柔らかい音色です。最初の静かな場面でのフルートやクラリネットの柔らかい音色は実に魅力的ですし、盛り上がっていく最後の場面でも決してバリバリと機械的に鳴り響くことはありません。
ただ、この「柔らかさ」という点では、確かに最後のパリ管との録音が一つ頭が抜けていることは確かです。このような音色はフランスのオケでないとなかなか出せるものではありません。
なお、どうでもいいことですが、この56年録音のリビング・ステレオは楽器の響きをクリアにとらえていて素晴らしいのですが、曲の冒頭と最後のクライマックスとの間のダイナミックレンジは比較的狭めに設定しています。昨今のハイテク録音のように極端に広いダイナミックレンジをとっていると、アンプのボリュームをどこに設定したらいいのかと頭を悩ますのですが、この録音ではその様な心配は必要はありません。
オーディオマニアには物足りないかもしれませんが、一般家庭のオーディオ機器では、このくらいの設定の方が気持ちよく音楽が聴けるのではないでしょうか。
それから、さらにどうでもいいことなのですが、ユング君のサイトは音源はたくさんあって解説もそれなりについているので便利なのだが、「音が悪い」とよく言われます。(^^;
しかし、「どうだ!!これなら文句はないだろう!!」(^^v
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よせられたコメント 2010-10-10:クライバーファン ミュンシュのボレロを聴いて(この演奏かまたはパリ管弦楽団との演)?、
こんなことをスビャトスラフ・リヒテルが書いているのを見つけました。
Charles Munch's Bolero.
A New Year present.
This tremendous ascent, this triumph of rhythm;
although I've heard it so often, it always feels as though it's the first time. And then for weeks you can't get it out of your head, thereby prolonging the pleasure.
Bravo, Monsieur Ravel!
この録音は解説にあるとおり冒頭の音量が比較的大きいですが、やはりボレロの冒頭はほとんど聞こえないぐらいでないと雰囲気が出ないのではと思います。
やはりこういう曲はデジタル録音のものが良いのでは?
ミュンシュ指揮のこの演奏、管楽器の音色が味も素っ気も無く、雰囲気ゼロのように思えます。(単に再生環境が劣悪なだけかも知れませんが)
そういう意味ではあのトスカニーニを僅かに彷彿とさせます。
せっかちに前進するあたりも似ているのではないでしょうか。 2020-03-06:サンセバスチャン リヒテルがコメントしているのは68年パリ管弦楽団の17分かかる演奏です。56年は定規ではかったような演奏で、68年は極度に遅いテンポで始まって物憂さから、圧倒的な高揚に向かいます。62年は15分20秒くらいです。56年はもの凄く明晰な演奏、録音で、68年はバレエのト書きを再現していると思います。
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