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カイルベルト(Joseph Keilberth)|ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調, Op.68(Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68)
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調, Op.68(Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団 1951年録音(Joseph Keilberth:Berlin Philharmonic Orchestra Recorded on 1951)
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [1.Un poco sostenuto - Allegro]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [2.Andante sostenuto]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [3.Un poco allegretto e grazioso]
Brahms:Symphony No.1 in C Minor, Op.68 [4.Piu andante - Allegro non troppo, ma con brio - Piu allegro]
ベートーヴェンの影を乗り越えて

ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。
彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。
この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。
確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。
彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。
しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。
私は、若いときは大好きでした。
そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
それだけ年をとったということでしょうか。
なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。
これを見逃していたとは…
カイルベルトと言えば「質実剛健にして武骨と言っていいほどの音楽づくり」という言葉が思い浮かぶので、ずいぶん古い人のように思えていました。しかし、振り返ってみればカラヤンと同年生まれで、1965年と1966年には単身で来日してN響の指揮台に立っています。
私が思い込んでいたほどに「古い人」ではなったのですね。
そんなカイルベルトの経歴を見てみればバンベルク響との関係が大きな比重を占めています。
バンベルク響のことを語る上で第2次大戦後の「ドイツ人追放」のことは切り離すことはできません。特にチェコでは1945年から1947年にかけてチェコスロバキア国籍のドイツ人およそ260万人が追放されました。
バンベルク響の前身は1940年にドイツ系住民によってプラハで結成されたドイツ・フィルハーモニー管弦楽団でした。当然のことながら、そのオーケストラは「ドイツ人追放」によって空中分解してしまうのですが、やがてドイツに流れ着いた団員が集まってオーケストラを結成します。
それがバンベルク響でした。
ですから、バンベルク響といえば「難民オーケストラ」だとよく言われます。
そして、そのバンベルク響を生涯にわたって面倒を見続けたのがカイルベルトでした。確かに、ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の結成時にフルトヴェングラーの推薦で首席指揮者を引き受けたことも理由の一つでしょうが、それ以上に深い思い入れがあったのでしょう。
1949年にカイルベルトは首席指揮者を引き受け、1968年に舞台で倒れて亡くなるまで面倒を見つづけました。
それだけに、1968年にバンベルク響と来日してくれたことは日本の聴衆にとっては幸いだったと言えるでしょう。
そんなカイルベルトがスタジオ録音で残してくれたブラームスの交響曲は以下の通りです。
- ブラームス:交響曲第1番 ハ短調, Op.68 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団 1951年録音
- ブラームス:交響曲第2番 ニ長調, Op.73 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ベルリン・フィルハーモニ管弦楽団 1962年録音
- ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音
- ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98 ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1960年録音
モーツァルトの交響曲ではすべてバンベルク響と録音していたのですが、ブラームスに関してはベルリン・フィルが大きな位置を占めています。実際、演奏会ではベルリン・フィルとも密接な関係を築いていたようですし、ドイツの国民オペラと言うべき「魔弾の射手」の全曲録音もベルリン・フィルとのコンビでした。
しかし、面白いのは同じベルリン・フィルとの録音でも1番と2番ではずいぶんと景色が異なる事です。もっとも、1番だけは1951年のモノラル録音なので同列に論じてはいけないのかもしれませんが、それを考慮に入れてもたたずまいがずいぶんと異なります。
1番のほうはいかにもドイツの田舎オケらしい「質実剛健にして武骨」なブラームスに仕上がっているのですが、2番のほうは造形が確かなだけでなく、絶妙なフレージングによる表情付けと、それをさらに引き立てる素晴らしい音色が聞くものを魅了します。そして、思わず私の脳裏を横切ったのは、フルトヴェングラーが指揮したベルリンフィルというのは本当はこういう響きだったのではないかという思いでした。
フルトヴェングラーという人は「録音」という行為にとことん否定的で、そのためもあって音質的には非常に貧しいものしか残っていません。まだしもと思えるのは最後の録音となった「トリスタンとイゾルデ」くらいでしょうか。
それだけに、カイルベルトとベルリンフィルによるブラームスの2番を聞くとき、思わずそういう妄想を抱いてしまうのです。
そして、ベルリン・フィルとの2番を聞いてしまうと、バンベルク響の3番も、ハンブルク・フィルの4番も、いささか色あせて聞こえてしまいます。
もちろん、悪い演奏とは思いません。
歌わせ上手なカイルベルトの要求にこたえて、歌うべきところは美しく歌いあげています。しかし、ベルリンフィルの2番を聞いた後ではその響きにどうしても不満が残ります。もちろん、ドイツの地方オケならではの魅力にあふれていることは認めますが、あの響きを聞いてしまうと贅沢な要求であることはわかっていながらも、ついそのようなことを思ってしまうのです。
おそらく、実演で聞けば十二分に楽しめることでしょうし、後のカラヤン統治下ですっかり面変わりしたベルリンフィルよりはよほど興味を惹かれる演奏なのかもしれません。
それにしても、これほど興味深い録音を今まで見逃していたことに、我ながらあきれてしまいました。その欠落を指摘いただいた方には心より感謝したいと思います。
それから、最後に蛇足ですが、あれこれ思い浮かべてみると、カイルベルトベルリンフィルによる第2番は、もしかしたらこの作品のベストの一つと言っていいのかもしれないと思い当たりました。かえすがえすも、ご指摘いただいた方に感謝です。
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