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ベートーヴェン:「コリオラン」序曲, Op.62(Beethoven:Coriolan, Op.62)

イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 1959年11月25日録音(Igor Markevitch:Concerts Lamoureux Recorded on November 25, 1958)



Beethoven:Coriolan, Op.62


序曲と言っても、基本的にはコンサート用のプログラムとして創作されたようです。

この作品はコリンの戯曲「コリオラン」に触発されて作曲したと言われています。
コリオランとは、プルータークの英雄伝に登場する紀元前5世紀頃のローマの英雄です。日本ではなじみのうすい名前ですが、ショークスピアも「コリオレナース」として戯曲化していて、西洋ではそれなりに有名な人物のようです。

ベートーベンはこの作品をコリンに献呈し、コリンもそれを喜んで受け入れながら戯曲の上演でこの作品が使用された形跡はありません。
しかし、ベートーベンにとっての序曲とは、一部を除けば劇やオペラとしての序曲と言うよりは、「演奏会用の序曲」として演奏されることが一般的でしたから、実際の戯曲の上演で演奏されなかったと言っても決して不思議なことではありませんでした。
つまり、「序曲」と名前はついていても、基本的にはコンサート用のプログラムとして創作された作品でした。

この作品を特徴づけるのは頻繁に登場する全休止で、ベートーベンらしいドラマティックな性格を与えています。そのため、ベートーベンの数ある序曲の中では最も早い時期から聴衆に受け入れられた作品となったようです。


思い切り踏み込んでのフルスイング

こういう演奏を聞かされると、あらためてベートーベンというのは160キロを超えるような剛速球をビシビシと投げ込んでくる豪腕投手なんだなと納得させられます。
ベートーベンは常に演奏者に対して全力を投入することを求めるといった人がいました。誰の言であったのかは今となっては思いだせないのですが、大いに納得させられた指摘でした。

それは、オケの技術のレベルにかかわらず、ベートーベンは全力で立ち向かうことを要求すると言うことです。もちろん、それはオケだけに限った話ではなく、ピアニストやヴァイオリニストなどにもあてはまるのでしょうが、私がその言葉を実感として最も強く感じるのはオケの場合です。
おそらく、同じような経験をした人は多いと思うのですが、例えば技術的に少なくない課題を抱えるアマチュアのオケであっても、そこに全力を注ぎ込む意志と情熱があれば、不思議なほどに感動を与えてもらうことがあります。
逆に腕利きのプロのオーケストラがルーチンワークのように演奏してしまうと、表面的にはきれいで整っていても何故かその音楽は心の中に入ってこないという経験も少なからずしています。

おそらく、それは、ベートーベンの音楽には溢れるようなエネルギーとパッションが内包されているからでしょう。
ですから、演奏する者は技術の巧拙に関わりなく、思い切り踏み込んでフルスイングすることが求められるのです。

そして、ここでのマルケヴィッチとラムルー管は、ベートーベンという剛速球に対して、恐れることなく思い切り踏み込んで、渾身の力でフルスイングしています。そして、そのバットは見事にベートーベンの「芯」をとらえて場外にまで飛ばしてしまったかのようです。
マルケヴィッチとラムルー管が録音した序曲は以下の6曲です。

  1. ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番, Op.72a

  2. ベートーヴェン:「命名祝日」序曲, Op.115

  3. ベートーヴェン:「コリオラン」序曲, Op.62

  4. ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲,Op.72b

  5. ベートーヴェン:「エグモント」序曲, Op.84

  6. ベートーヴェン:「献堂式」序曲, Op.124


おそらくは、交響曲の全曲録音を目指す中でセッションが組まれたのでしょうが、メインディッシュの交響曲の添え物という扱いは全くしていません。
それどころか、交響曲の時に勝るとも劣らないほどの力を注ぎ込んでいます。そして、作品自体が交響曲と較べればその全体像が把握しやすいだけにベートーベンの音楽が内包するエネルギーとパッションの凄さが分かりやすく、そこに注ぎ込まれた熱量の大きさには圧倒させられます。

まあ、でも録音を終えた後のラムルー管のメンバーはへろへろになったことでしょう。

この演奏を評価してください。

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