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コルトー(Alfred Cortot)|ショパン:ポロネーズ 変イ長調「英雄」作品53(Chopin:Polonaise No. 6 in A flat major, Op. 53 "Heroic")
ショパン:ポロネーズ 変イ長調「英雄」作品53(Chopin:Polonaise No. 6 in A flat major, Op. 53 "Heroic")
アルフレッド・コルトー:1933年7月4日録音(Alfred Cortot:Recorded on july 4, 1933)
Chopin:Polonaise No. 6 in A flat major, Op. 53 "Heroic"
雄々しさと憂愁

ポロネーズの起源はよく分かっていませんが、おそらくこれもまた原型はポーランドの農民の儀式や労働の場における踊りだったろうと思われます。それが、やがて上流階級に浸透していく中で3拍子の中庸の速度でもって歩くように行列をつくって踊る音楽として発達し、やがては宮廷において堂々としたリズムが特徴的な器楽曲として定着していったものと思われます。そして、その様に定形化したポロネーズは国外にも広まり、ヨーロッパ各国の作曲家も積極的にそのスタイルを取り入れた作品を書くようになっていきました。
しかし、ポーランドの作曲家にとっては、大国による領土分割という悲劇の中で、ポロネーズは特別な意味を持たざるを得ませんでした。そして、ショパンもまたその様な特別な意味を持った音楽としてのポロネーズに子供時代から親しみ、実際に彼が初めて書いた作品はポロネーズであったと伝えられています。(7歳の時のト短調)
しかし、それらのポロネーズはいわゆる舞曲的な性格が強いもので、後の成熟したショパンの手になるポロネーズとは佇まいが随分と違います。
ショパンは少しずつ曲の規模を拡大し、リズムも定型のものではなくてより自由なリズムへと変化していきます。
そして、それらは全て、民族の精神を生の形で描き出すのではなくて、より自らの民族的主張を具現化した芸術的な高みへと引き上げようとしたものでした。
より具体的に言えば、ロシアの圧政に苦しめられたポーランドの憂愁と、それを打ち破ろうとする雄々しさを表現しようとするものだったと言えます。
マズルカもまた民族的な楽曲ですが、ポロネーズはそう言うショパンの民族的主張を真正面に据えていると言えます。
ですから、ショパンのポロネーズと言えば一般的に以下の7曲です。
作品番号順に1番から7番というナンバーも割り振られています。
- ポロネーズ第1番嬰ハ短調, Op.26-1
- ポロネーズ第2番変ホ短調, Op.26-2
- ポロネーズ第3番イ長調, Op.40-1「軍隊」
- ポロネーズ第4番ハ短調, Op.40-2
- ポロネーズ第5番嬰ヘ短調, Op.44
- ポロネーズ第6番変イ長調, Op.53「英雄」
- ポロネーズ第7番変イ長調, Op.61「幻想」
ポロネーズ「英雄」, Op.53
ショパンのポロネーズを大きく二分すれば、ポーランドの雄々しさを表現するような強靭なリズムを持つものと、帝政ロシアの支配下にある苦難のポーランドを描いた憂鬱さに満ちたものに分けられると述べた人がいました。そうすれば、この「英雄ポロネーズ」とよばれることの多いこの作品は前者の代表と言っていいでしょう。
軍隊ポロネーズも同じ方向性を持つのですが、明らかにこの作品の方がはるかに作品の規模が拡大され、たようなリズム表現と楽想の変化に富んでいます。
それ故に、この作品は掛け値なしにショパンの最高傑作の一つと言っていいでしょうし、古今東西の数あるピアノ作品の中でも屈指の名作と言えるでしょう。
長い前奏の後に登場する華やかで力強い第1主題はこの上もなく輝かしいものです。さらに、中間部における左手のオクターヴ連打の上にメロディーが現れる部分では、そのオクターブ連打がかなりの技術が求められます。
それは、この作品が持っているヴィルトゥオーゾ的な効果がもっとも発揮されている場面だと言えます。
そして、第1主題が再現されて、最後は短いコーダで華々しく締めくくられます。
ショパンはこの作品にタイトルをつけることを拒否していたようなのですが、おそらくは彼の弟子たちの間でいつしか「英雄ポロネーズ」という呼び方が定着していったようです。
ショパンはどう思うかはしれませんが、決して悪いネーミングとは思いません。
テンポ・ルパートの何たるかを知っている演奏
ギオマール・ノヴァエスの演奏について考え抜いた演奏ということを述べた上で、以下のようなことを書きました。
「考えるな、感じろ!」とはブルー・スリーの言葉ですが、クラシック音楽の世界では真逆で「感じるな、考えろ!」が基本とならなければいけません。感じるがままに演奏してものになるほどこの世界は単純ではありません。
基本的にそれほど間違った捉え方ではないと思っています。
しかし、ふとコルトーの演奏が脳裏をよぎりました。
あの自由自在ともいうべき歌心に満ちたショパン演奏が脳裏をよぎるとき、あれってもしかしたらコルトーが楽譜を前にして感じたがままに演奏していたのではないだろうかという思いが否定しかねたのです。
確かにクラシック音楽の世界で感じるがままに演奏して独りよがりではなくて、その感性だけで聞き手を納得させるなどということは人間業をこえています。しかし、時にはそう言うとんでもない存在があったとしても不思議ではなく、そう言う化け物みたいな存在がコルトーだったのではないだろうかと思ってしまうのです。
しかし、その時、これまたふとと、内田光子の言葉がよみがえりました。
彼女はコルトーの演奏に対して「テンポ・ルパートの何たるかを彼ほどに知っている人はいない」と述べていました。
そして、彼の演奏を聞くたびに「この助平親父」と思うのですが、それでもその魅力には抗しきれないみたいなことを話していた記憶があります。
そうなんだ、コルトーは「テンポ・ルパート」の何たるかを知り抜いたピアニストだったのです。そして、その知り尽くした「テンポ・ルパート」を駆使してショパンの楽譜から溢れるほどの歌心を引き出すことが出来たのです。もしかしたら、彼は「考える」ということを意識しないレベルにまで、まさに本能レベルに近い領域で考え抜いていたのかもしれません。
そして、私たちにとってなによりも幸運だったことは、そう言う歌心に溢れたショパンの演奏を30年代の初め頃にまとまってコルトーが録音していてくれたことです。それは、疑いもなくコルトーの絶頂期におけるショパン演奏でした。
そして、さらに幸運だったのは、その一連の録音がSP番録音の真髄を伝えるほどの音質で、脂ののりきった時代のコルトーの演奏が大量に残されたことでした。
今もってその価値を失わない演奏と録音であり、その価値はさらに長きにわたって失われることはないでしょう。
本当な「永遠に失われることはない」と書きたいのですが、あまり軽々に「永遠」などと言う言葉は使わない方がいいでしょうから、控えめに「さらに長きにわたって失われることはない」にとどめました。
SP盤の時代でも驚くほど音質の素晴らしいものに時々出会うのですが、この30年代の前半に行われたコルトーの録音はその中でも極上の部類に分類されます。
おそらく、ブラインドで聞かされればモノラル録音時代のLP盤だと思うはずです。
そう言えば、金属原盤が戦災などをまぬがれて残されている場合があって、そう言う原盤から復刻したものはかなり音質がいいという話を聞いたことがあります。このコルトーの復刻盤もそう言う金属原盤からの復刻かと思ったのですが、あれこれ聞いていると少し違うのかなと思う部分があります。
それは、全体としてはほとんどノイズがのっていないのですが、人気があってよく聞かれる部分が来るとパチパチノイズがのるのです。
例えば、ショパンのピアノソナタだと葬送行進曲の部分にだけノイズがのります。ピアノ協奏曲の第2番だと第2楽章「Larghetto」にだけ、同じようにノイズがのるのです。さらには、「即興曲」の中でも一番の人気曲である「幻想即興曲」だけがパチパチノイズの量が多いのです。
おそらくは、そう言う人気曲ともなれば「未通針」に近いSP盤というのはあり得ないのでしょう。
音楽というのはやはり歌わなければ魅力は半減します。
いや、「歌ってこそなんぼ」の世界なのです。
しかし、どのように歌わせるかというのは、その人の中にどれだけの音楽力(おかしな言葉ですが)、つまりは「考え抜く力」があるかにかかってきます。残念ながら、未だもってこれだけ見事にショパンを歌ったピアニストは、極めて控えめに言ってもこの30年代のコルトーを含めて数えるほどしかいないでしょう。
最近は一つのミスタッチも無しにあっさりと(無表情に)仕上げるのが美徳のように思っているピアニストが多いようです。その背景には本当に考えることなく、ひたすら楽譜に対して正確に演奏する事しか考えていない人が少なくないからでしょう。または、考えがあまりにも足りなさすぎるのでしょう。
こういうコルトーの最盛期の演奏を聞いていると、嫌みな言い方になりますが、「あなたショパンとはそんなにも素っ気ない音楽を書いた人だと信じているのですか?」聞いてみたくなったりします。
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