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カザルス(Pablo Casals)|ヘンデル:オンブラ・マイ・フ(Handel:Ombra mai fu)
ヘンデル:オンブラ・マイ・フ(Handel:Ombra mai fu)
(Cello)パブロ・カザルス:1915年1月15日録音(Pablo Casals:Recorded on January 15, 1915)
Handel:Ombra mai fu
美しいメロディ
ずいぶん前の話ですが、ガスパール・カサドのチェロによる「オン・ブラ・マイフ」を紹介したときに次のように書いていました。
「さて、ヘンデルといえばメサイアですが、このラルゴ(オン・ブラ・マイフ)によってオペラ作曲家というもう一つの顔に出会うことができました。今では劇場で彼のオペラが上演されることはほとんど無くなってしまいましたが、実に多くのオペラを書いた人でした。(そのへんがオペラを1曲も書かなかったバッハと好対照です。)
実は私もヘンデルのオペラを全曲通して聞いたことは一度もありません。オペラ作曲家としてのヘンデルの「認知されない度」は大変なものがあります。(^^;」
古楽器による演奏が隆盛を極めたおかげで、「今では劇場で彼のオペラが上演されることはほとんど無くなってしまいました」という部分は少しは訂正が必要なようです。古楽器演奏というムーブメントがそう言う埋もれていた作品にも日の光を当てたという事実は認めざるを得ません。
とは言え、ヘンデルのオペラは依然としてマイナーな作品であり続けるでしょうから、今後も「オン・ブラ・マイフ」や「忠実な羊飼い」のメヌエット、さらには「リナルド」の中のアリア「私を泣かせてください」あたりでオペラ作曲家としてのヘンデルが認知されるという現状に大きな変わりはないでしょう。
そして、いつも思うことですが、バッハにしてもヘンデルにしても、そしてヴィヴァルディあたりもそうなのですが、バロック時代の音楽は本当にメロディラインがきれいです。もしかしたら、人間が考え出せる美しいメロディというのは、その大部分がこの時代までに出尽くしているのかもしれません。
ショパンの詩的閃きは別格としても、ロマン派のメロディーメーカーと言われたドヴォルザークにしてもチャイコフスキーにしても、そのメロディラインにはどこか「重さ」みたいなものを感じてしまいます。それと比べれば、バロックの時代のメロディはどれもこれも自然で軽やかです。
そして、そう言う素敵なメロディラインを聞くたびに、ロマン派という時代は作曲家にとってはしんどい時代だったんだなと思いますし、それ以後の時代がある意味で「メロディ」と決別していった理由も何となく分かるような気がします。
カザルスの古き響き
大阪狭山市でアナログレコードを聞き合う集まりが毎月開催されています。毎月、顔なじみとあれこれおしゃべりできる時間は本当に貴重です。もちろん、持ち寄ったアナログ・レコードを聞くのも楽しみですが・・・(^^;
その集まりで少し前の話なのですが、SP盤でカザルスの古い録音を聞く機会がありました。
これが、想像以上に素晴らしくて、帰ってきてから聞かずにしまい込んでいたカザルスのアコースティック・レコーディングの復刻盤CDを引っ張り出して来てあれこれと聞いてみる日々が続きました。
1910年代の録音は間違いなく機械吹き込みですが、音源のSP盤の状態が非常にいいのでしょう、実に魅力的な音楽を聞かせてくれました。SP盤も1925年以降は電気吹き込みに変わるのですが、明らかに音の雰囲気は変わります。機械吹き込みという極めて原意的な録音法が持つ実に不思議なえもいわれぬ魅力があります。
その後、20年代のものも聞き進めているのですが、カザルスの20年代の録音はほぼ全て25年以降のものです。
厳しい人によると、カザルスは20年代の中頃には衰えが出始めると指摘していますので、まさに機械吹き込みによる録音こそがカザルス最盛期の演奏といえるのかもしれません。
今から見ればまさに化石のような録音ですが聞く価値は十分にあると確信しました。
どこで聞いた話なのかは忘れてしまいましたが、さらに言えば今となってはそのはなしの真偽も定かではないのですが、カザルスは「楽譜に書かれていないように演奏することが大切だ」みたいな事を語っていたそうです。もちろん、私の全くの思い違いの可能性は高いです。
しかし、こういう1910年代の古い録音を聞いていると、もしもこの言葉が本当ならば、彼が言わんとしたことは分かるような気がします。
「楽譜通りに演奏しない」というのは決して恣意的なデフォルメを要求しているわけではありません。そうではなくて、楽譜通りに何も考えずに機械にのように演奏することを諫めているのです。
カザルスの本質は「歌う人」です。そして、「歌う」事の本質をその人生をかけて探求した人だとも言えます。
彼は晩年指揮活動も行うのですが、その指揮の技術はお世辞にも誉められるようなものではなかったようです。
ですから、彼はリハーサルで己の音楽美学をオケのメンバーに口移しのようにして伝えました。その時、彼が常に語ったのは「歌って、歌って、自然に、愛らしく」であり、経過句や音階をも歌うべきことを強調したそうです。そう言えば、あのトスカニーニも歌うことを常に要求し、休止符さえも歌えと言ったというのは有名な話です。
おそらく、ここで紹介している古い録音での歌い方は古色蒼然たるものと映るかもしれません。しかし、その古き響きによる歌い回しの何と魅力的なことか!
「音符を音にするのではない、音符の意味を表現するのだ!」
おそらく、この言葉の方が「楽譜に書かれていないように演奏することが大切だ」という刺激的な表現よりはカザルスの本質をあらわしているのかもしれません。
こんな化石のような録音は聞きたくもないという方もおられるでしょうが、まあ、騙されたと思って一度は聞いてみてください。電気吹き込みの録音もある作品については比較のために療法紹介しておきます。
まあ、週に一回くらいのペースで紹介していければと思います。
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