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リスト:「ドン・ジョヴァンニ」の回想, S418(Liszt:Reminiscences de Don Juan, S.418)

(P)シューラ・チェルカスキー:1953年録音(Shura Cherkassky:Recorded on 1953)



Liszt:Reminiscences de Don Juan, S.418


とにかく難曲!!

まさにリストの名人芸を炸裂させるために存在するような作品です。
要求される演奏技巧は幅広い跳躍、オクターヴの連続、急速な三度重音、アルペジオやスケールなど多岐にわたるそうです。

そして、同時にオペラのよく知られたメロディをもとに創られた、いわゆる「オペラ・パラフレーズ」の代表作と言っていいでしょう。
とにかく、ピアニストにとっては難曲です。

ブゾーニは「ピアニズムの頂点をなすものとして、象徴的な意味を持つ」と述べています。
そう言う理由からでしょうか、ブゾーニが1918年に校訂した時に、経過的なパッセージのカットを含む大小の変更が施しています。ブゾーニ盤とよばれるらしいのですが、多少なりとも演奏しやすくしたのでしょうか・・・?

作品は、オペラの第二幕、墓地にて騎士長がドン・ジョヴァンニに警告する場面の音楽("Di rider finirai pria dell'aurora")から始まります。そして、オペラの終盤に騎士長が食事の席に現れる場面の音楽("non si pasce di cibo mortale")が用いられ、重苦しい雰囲気で音楽は進んでいきます。
しかし、その後はオペラ第一幕の有名な二重唱「お手をどうぞ」("La ci darem la mano")が登場して雰囲気が一転します。そして、カデンツァをはさみつつ、この主題による二つの変奏が続いて華やかさを増していきます。
そして、最後は第一幕のドン・ジョヴァンニのアリア「シャンパンの歌」("Fin ch'han dal vino")が軽快に現れ、華麗なコーダで幕を閉じます。


徹底したマイペース

それにしても凄いピアニストであったと感心せざるを得ません。

ホロヴィッツも基本的にピアノの芸人だと思うのですが、チェルカスキーこそは骨の髄まで「芸人」に徹したピアニストでした。
聞くところによると、彼のコンサートは全てのプログラムが終わってからのアンコールこそが本番だという人がいました。19世紀末から20世紀初頭に書けて書かれた名人芸を披露する作品(師であるホフマンやゴドフスキーなど)を次から次へと機嫌良く演奏するのが彼の常でした。

メインのプログラムでさえ、その場の雰囲気と自らの感興の趣くままに演奏したのですから、そのアンコールたるや、まさにその時の心の趣くままに自由に演奏したのでした。

聞けば分かることですが、テンポは常に動き続けます。それは、大きなテンポ・ルバートだけでなく、微妙なコントロールを施すことで音楽が単調になることを防いでいます。
それは、ピアノとフォルテを強調しながら、細部においては微妙なアーティキュレーションを施すのと考え方は同じかもしれません。

つまりは、動的に大きな変化を与えることで聞き手の注意を引くという芸人的要素を基本としながら、その内実においては極めて精緻なコントロールを施すことで「がさつなだけの音楽」に終わることを拒否しているのです。

声部感のバランスにしても、時にはドキッとするように内声部を浮き立たせたりするのですが、それもまた、非常にバランスの取れたコントロールが維持されているから効果があるのです。
そう言えば、誰かチェルカスキーのノクターンを称して「ぬめぬめした蛇の皮の」ようだと書いていました。それは、まさにその様にコントロールされたバランスのなせる技です。

ただし、こう書いた人はきっと都会暮らしで実際に蛇などは触ったことがない人でしょうね。(^^;
蛇の皮は実際に触ってみればヒンヤリとして、すべすべしていて実に気持ちのいいものなのです、・・・どうでもいいことですが・・・(^^v

そして、こういう演奏が可能な根っこには、疑いもなくチェルカスキーの体に染み込んだ19世紀的ヴィルトゥオーソがあったことは間違いありません。

またひとは彼のことを不良老人」とも呼びました。
自分にとって興味のあることは耳を傾けるが、そうでないものに全てスルーしてしまう困った爺さんだったようです。
ただし、そのスルーの仕方が天才的で、興味のないことを聞かれると実に上手に別の話題にすり替えて、自分にとって話題にしたいことに話を切り替えたそうです。

例えば、「ショパンのピアノ・ソナタについてお話を伺いたいのですが」と話をふると、すかさず「ショパンっていうと、おもしろい話があってね、ひとつはジョークなんだが」と切り替えてしまうのです。

アメリカの田舎の家族が大金を手にしたけど、使い道がわからなくて、毎週水曜日に人を招いて豪華なディナーを開いたんだよね。
しばらくしたら、主人の耳にみんなが彼の奥さんをバカにしているという噂が伝わり、彼は妻に余計なことはいわないようにと釘を刺した。
ところが、その夜のディナーで、「ショパンはお好きですか」と聞かれた奥さんは、「ああ、彼なら2週間前、8番のバスのなかで見かけたわ」と答えてしまう。
それを聞いた主人は、テーブルの下で妻の膝を蹴った。
そして怒りの目を向けた奥さんに、「バカ、8番のバスはもう走っていないのを知らないのか」といったんだ。


これでははぐらかされた方も怒る気にもなれず、結局はチェルカスキーのペースで全てが進んでしまうのです。

しかし、そんな生き方の背景には、ピアノを演奏することに己の人生の全てをかけた「徹底」がありました。
住まいはホテルと定め、身の回りの品と楽譜だけを抱えて世界中を演奏して回ったのが彼の人生でした。

それは、自家用ジェット機にスポーツカー、綺麗な奥さんに豪邸、そして夏は高級リゾート地で優雅に避暑という生き方とは真逆のものでした。
しかし、チェルカスキーにとってその様な「贅沢」はピアノを演奏する上での邪魔者でしかなかったのでしょう。

衣食住の全てはホテルに任せ、彼の手元にあるのは楽譜だけという生活だったのです。
そして、この「徹底」こそが彼のマイペースな生き方とマイペースな音楽を支えたのかもしれません。

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