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ラロ:スペイン交響曲 ニ短調, Op.21

(Vn)ヘンリク・シェリング:ワルター・ヘンドル指揮 シカゴ交響楽団 1959年2月28日録音



Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [1.Allegro non troppo]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [2.Scherzando. Allegro molto]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [3.Intermezzo. Allegro non troppo]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [4.Andante]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [5.Rondo]


遅咲きの一発屋

ラロといえばスペイン交響曲です。そして、それ以外の作品は?と聞かれると思わず言葉に詰まってしまいます。
いわゆる、クラシック音楽界の「一発屋」と言うことなのでしょうが、それでも一世紀を超えて聞きつがれる作品を「一つ」は書けたというのは偉大なことです。

なにしろ、昨今の音楽コンクールにおける作曲部門の「優秀作品」ときたら、演奏されるのはそのコンクールの時だけというていたらくです。そして、そのほとんど(これはかなり控えめな表現、正確には「すべて」に限りなく近い「ほとんど」)が誰にも知られずに消え去っていく作品ばかりなのです。
クリエーターとして、このような現実は虚しいとは思わないのだろうかと不思議に思うのですが、相変わらず人の心の琴線に触れるような作品を作ることは「悪」だと確信しているような作品ばかりが生み出されます。いや、そのような「作品」でないとコンクールでいい成績をとれないがためにそのようなたぐいの作品ばかりを生み出していると表現した方が「正確」なのでしょう。

しかし、音楽はコンクールのために存在するものではありません。
当たり前のことですが、音楽は聴衆のために存在するものです。この当たり前のことに立ち戻れば、己の立ち位置の不自然さにはすぐに気づくはずだと思うのですが現実はいつまでたっても変わりません。相変わらず、「現代音楽」という業界内の小さなパイを奪い合うことにのみ腐心しているといえばあまりにも言葉がきつすぎるでしょうか。

ですから、こういうラロの作品を、異国情緒に寄りかかった「効果ねらい」だけの音楽だと言って馬鹿にしてはいけません。
クラシック音楽というのは人生修養のために存在するのでもなければ、一部のスノッブな人間の「知的好奇心」を満たすために存在するのでもありません。

まずは聞いて楽しいという最低限のラインをクリアしていなければ話にはなりません。

ただ、その「楽しさ」にはいくつかの種類があるということです。
あるものは、このスペイン交響曲のように華やかな演奏効果で人の耳を楽しませるでしょうし、あるものは壮大な音による構築物を築き上げることで喜びを提供するでしょう。はたまた、それが現実への皮肉であったり、抵抗であったりすることへの共感から喜びが生み出されるのかもしれません。
そして、時には均整のとれた透明感に心奪われたり、持続する緊張感に息苦しいまでの美しさを見いだすのかもしれません。

私はポップミュージックに対するクラシック音楽の最大の長所は、そのような「ヨロコビ」の多様性にこそあると思います。
そして、華やかな演奏効果で人の耳を楽しませるという、ポップミュージックが最も得意とする土俵においても、このスペイン交響曲のように、彼らとがっぷり四つに組んでも十分に勝負ができる作品をいくつも持っているのです。
そういう意味において、このような作品はもっともっと丁重に扱わなければなりません。

閑話休題、話があまりにも横道にそれすぎました。(^^;

ラロはスペインと名前のついた作品を生み出しましたが、フランスで生まれてフランスで活躍し、フランスで亡くなった人です。ただし、お祖父さんの代まではスペインで暮らしていたようですから、スペインの血は流れていたようです。

彼は、1823年にフランスのリルという小さな町で生まれて、その後パリに出てパリ国立音楽院でヴァイオリンと作曲を学びました。そして、20代の頃から歌曲や室内楽曲を作曲して作曲家としてのキャリアをスタートさせようとしたのですが、これが全く評価されずに失意の日々を過ごします。
その内に、作曲への夢も破れ、弦楽四重奏団のヴィオラ奏者という実に地味な仕事で生計を立てるようになります。

このようなラロに転機が訪れたのが、アルト歌手だったベルニエと結婚した42歳の時です。
ベルニエはラロを叱咤激励して再び作曲活動に取り組むように励まします。そして、ラロも妻の激励に応えて作曲活動を再開し、ついに47歳の時にオペラ「フィエスク」がコンクールで入賞し、その中のバレー音楽が世間に注目されるようになります。そして、そんな彼をさらに力づけたのが、1874年にヴァイオリン協奏曲がサラサーテによって初演されたことです。

そして、その翌年にこの「スペイン交響曲」が生み出され、同じくサラサーテによって初演されて大成功をおさめます。

彼はこれ以外にも、「ロシア協奏曲」とか「ノルウェー幻想曲」というようなご当地ソングのようなものをたくさん作曲していますが、これは当時流行し始めた異国趣味に便乗した側面もあります。
しかし、華やかな色彩感とあくの強いエキゾチックなメロディはそういう便乗商法を乗り越えて今の私たちの心をとらえるだけの魅力を持っています。


  1. 第1楽章:Allegro non troppo ソナタ形式

  2. 第2楽章:Scherzando. Allegro molto 三部形式

  3. 第3楽章:Intermezzo. Allegro non troppo 三部形式

  4. 第4楽章:Andante 三部形式

  5. 第5楽章:Rondo





ソリストは思う存分に己の音楽を披露することが出来ている

すでに紹介したことがあるのですが、シェリングと言う人は随分と変わった経歴を持ったヴァイオリニストでした。
第2次大戦前は、カール・フレッシュやジャック・ティボーに学び、1933年にはブラームスの協奏曲を演奏してソリストとしてデビューしています。しかし、戦争は彼の運命を大きくく変え、ナチスのポーランド侵略によって母国を追われた後は、その後学力を買われて、ポーランド亡命政府の通訳をつとめています。
もちろん、優れたヴァイオリニストだったのですから慰問演奏等も積極的に行い、そんな演奏会のためにメキシコを訪れたときに当地の大学で職を得ます。そして、戦後はメキシコ政府が多くのポーランド難民を受け入れたことに恩義を感じてメキシコに帰化し、メキシコのために演奏活動よりは教育活動に専念することになりました。

そんなシェリングに大きな転機となったのがルービンシュタインとの出会いでした。
ポーランド出身のヴァイオリニストが教授を務めているという話を聞いたルービンシュタインは、早速に彼の演奏を聞いてメキシコで音楽教師として埋もれてしまうような才能でないことをすぐに悟り、アメリカに帰るとその優れた才能を積極的に紹介していくことになるのです。
そして、それをきっかとして、彼の演奏が多くの人に知られるようになるともはやルービンシュタインの後押しも無用となり、50年代の後半からはミンシュやモントゥという巨匠たちと協奏曲の録音を行うようになっていきます。

ただし、ここで伴奏をつとめているワルター・ヘンドルはミンシュやモントゥと較べるといささか小粒に感じるれます。しかし、そのサポートは万全で、シェリングの師匠がカール・フレッシュやジャック・ティボーだったことを思い出せるような色気のあるヴァイオリンを聞かせてくれていることに気づかされました。
そう言えば、ワルター・ヘンドルはヤッシャ・ハイフェッツのお気に入りの指揮者として知られていました。そして、シベリウスの協奏曲を紹介したときに指揮者としてワルター・ヘンドルを起用したことに関して「底意地の悪い見方をすれば、そう言う己の魅力が、この凡庸きわまる大雑把なオケによって引き立つことを計算に入れていたのではないかと勘ぐりたくもなってくるほどです。」などとかいてしまっていました。

しかし、よく聞いてみると、ヘンドルほどにソリストを引き立てる才能というかスキルを持った指揮者はそうそういないことに最近は気づくようになりました。それは、60年代に幾つかの協奏曲を録音したドラティとなどと比較すればよく分かります。
ドラティの「合わせ上手」はソリストと音楽に対する価値観を共有して、その上でソリストとの共同作業で完璧なフォルムをつくり出すという「合わせ上手」でした。
それに対して、ヘンドルの「合わせ上手」は、ソリストが気持ちよくその技を披露できるように完璧な舞台を設えることに秀でた「合わせ上手」でした。

ですから、そう言う舞台装置があればこそ、ソリストは思う存分に己の音楽を披露することが出来ます。それ故に、聞き手は彼の師匠がカール・フレッシュやジャック・ティボーだったことを思い出すのです。
ちなみに、ヘンドルは1958年から、フリッツ・ライナーの補佐役としてシカゴ交響楽団の准指揮者をつとめています。
そう言う関係性も考えれば、これもまたある意味ではソリストと指揮者の理想的な姿の一つなのかもしれません。

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