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ハイドン:ピアノ三重奏曲第39番 ト長調, Hob.XV:25「ジプシー」

(Cell)パブロ・カザルス:(P)アルフレッド・コルトー (Vn)ジャック・ティボー 1927年6月20日録音



Haydn:Piano Trio in G major, Hob.XV:25 [1.Andante]

Haydn:Piano Trio in G major, Hob.XV:25 [2.Poco adagio cantabile]

Haydn:Piano Trio in G major, Hob.XV:25 [3.Rondo all' ongarese: Presto]


ピアノ三重奏曲の分野でも多くの仕事を成し遂げていた

ハイドンが交響曲や弦楽四重奏曲という古典派の中核をなすような楽曲形式を作りあげていったことは周知の事実です。しかし、ピアノ三重奏曲の分野でも多くの仕事を成し遂げていたとは意識の外になっていました。
ハイドンの交響曲や弦楽四重奏曲というのは、単独の作品だけを見ていたのでは彼の業績の大きさを見失ってしまいます。大切なことは、彼の生涯においてそれらのジャンルをいかに育て上げていったのかを俯瞰しないと、ハイドンの本当の凄さは見えてこないのです。

その事は、この1,2年、彼の初期や中期の交響曲や弦楽四重奏曲をまとめて聞き、その育っていく様を少しは感じ取れたことで痛感させられました。
そして、その様な仕事をピアノ三重奏曲の分野でも行っていたと言うことは、あらためてハイドンの懐の広さとチャレンジ精神の旺盛さ教えられて、驚かされてしまいます。

最初はバロック時代のトリオ・ソナタというジャンルから派生した形式を古典派のピアノ三重奏曲というスタイルにまで育て上げていったのは間違いありません。
そして、その営為は生涯にわたっておよそ45曲ほどの作品を残すことによって成し遂げられているのです。ただし、ピアノ三重奏曲と言う分野は交響曲や弦楽四重奏曲と較べれば傍系のジャンルなのでそれほど注目されることは少ないと言うことなのでしょう。

それ故に、ハイドンのピアノ三重奏曲はそれほど認知度は高くありません。
そんな中で、最もよく取り上げられるのがこの通称「ジプシー」とよばれる作品です。

この作品はハイドンがロンドンに滞在中に書かれたものですから、エステルハージ家から離れて自由な音楽活動を開始した中での作品です。

第1楽章はピアノの易しいメロディがすぐに聞くものの耳をとらえます。そして、ヴァイオリンとの対話も魅力的です。
続く第2楽章はどこか郷愁を誘うようなうな素朴さに溢れていて、最後の楽章はピアノ、ヴァイオリン、チェロが活気に溢れた音楽を繰り広げます。
この最終楽章の活気に溢れた様子から、「ジプシー・ロンド」とよばれるようになったようです。
確かに、ジプシー調の旋律があちこちで聴かれるのですから、適切なネーミングと言えます。そして、それらの旋律の多くは古いハンガリーの旋律集のなかにも見つけられるものだそうです。


一つの「奇蹟」

ユーザーの方より、カザルス・トリオの録音が一つもアップされていないようなのですが・・・と言う指摘をいただきました。
そんな馬鹿なことはないだろうと思って確認したところ、本当に一つもアップしていないことに気づきました。いやぁ、穴はあるものですが、ここまでの大穴が開いているとは我ながら感心するというか、呆れるというか、驚かされました。

と言うことで、急遽彼らの録音を探し出してきて準備を始めた次第です。
それにしても、パブロ・カザルス、アルフレッド・コルトー、ジャック・ティボーと言うのは、信じがたいほどの顔ぶれです。まさにそれは一つの「奇蹟」だったと言ってもいいでしょう。

このトリオが結成されたのは1905年という事ですから、最年長のカザルスで32歳、最年少のコルトーは25歳だったはずですから。まさに血気溢れる若者のトリオだったと言えます。そして、この顔ぶれはその後30年近く続いたのですから、強烈な「我」というか、「個性」というか、「我が儘」というか、そう言ういろんなものを持っている超一流のソリストたちがかくも長きにわたって活動を継続したというのもまた奇跡的なことだったと言えます。
一例を挙げれば、100万ドルトリオと言われたハイフェッツ、ルービンシュタイン、フォイアマンの組み合わせではハイフェッツとルービンシュタインの間で諍いが絶えず、チェリストのフォイアマンが必死で間に入ってなだめたと言われています。そして、フォイアマンの急死によって新しく参加したピアティゴルスキーも二人の諍いの仲裁に翻弄されたと言うことです。

しかし、パブロ・カザルス、アルフレッド・コルトー、ジャック・ティボーと言う組み合わせが30年も続いてくれたおかげで、後年の私たちはそれなりのクオリティで彼ら演奏を「録音」という形で聞くことができたのです。そして、そのおかげでこのトリオの凄さを「伝説」としてではなく実際の「音」として経験できると言うことです。
これを「幸せ」と言わずして何といいましょう。ただし、その様な神に感謝したくなるほどの録音を20年以上も放置をしていたのですから、まさに愚かさもきわまりで、何をかいわんやです。

ただし、彼らの録音については多くの人が語り尽くしていますから、今さら何も付け加える必要はないのですが、あらためて彼らの録音を聞き直してみて一つだけ気づいたことがありますのでその事だけを記しておきます。

それは、この組み合わせは年長者のカザルスに敬意を表してなのか「カザルス・トリオ」とよばれるます。そのために、音楽の主導権もまたカザルスにあるように語っている人は少なくありません。
しかし、彼らの録音をあらためて聞き直してみて、私が魅力を感じたのはカザルスではなくて、コルトーの歌心溢れたピアノと、それに対して素晴らしい閃きで絡んでくるティボーの方です。

カザルスはそう言う二人を裏方としてドッシリと支えているというのが私の率直な感想です。そして、この音楽的雰囲気が、つまりはリーダー格のカザルスがコルトーとティボーの自由闊達な演奏をニコニコと眺めながら、音楽面では裏方にまわってそんな二人を支えると言うスタイルこそが、このコンビが長く続いた理由だと確信したのです。とりわけ、コルトーの歌心ふれるピアノが強く心に残ります。もっとも、シューマンのようにヴァイオリンに比重がかかっている場合ではティボーが最高のパフォーマンスを披露してくれています。

おそらく、ナチスの台頭と、それに対するコルトーの融和的な姿勢がなければ、さらに長くこのコンビは活動を続けたはずです。
そう考えれば、ここにも思わぬ戦争の影が差していたと言うことがいえるのかもしれません。

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