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ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調, Op.104

(Cello)ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ:ボリス・ハイキン指揮 モスクワ放送交響楽団 1957年録音



Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [3.Finale. Allegro moderato]


アメリカとボヘミヤという異なった血が混じり合って生まれた史上類をみない美人

この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。

そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。

それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。


  1. 第1楽章[1.Adagio]:
    ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
    序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
    その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
    さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
    再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。

  2. 第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
    メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
    中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
    やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。

  3. 第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
    自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
    低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
    やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
    そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。




凄い、凄すぎる!!

中古レコードをネットであれこれ検索していて出会ったのがこの一枚です。おそらくは20代後半から30代前半という雰囲気の録音だったので、そんな若い時代のロストロポーヴィチの録音ってあったんだと言うことですぐに入手しました。
レコードはドヴォルザークとサン=サーンスの協奏曲がカップリングされていて、オーケストラはともにモスクワ放送交響楽団です。

後で、調べて分かったのですが、サン=サーンスの方は1953年の録音なので、ロストロポーヴィチが26歳、ドヴォルザークは1957年録音なので30歳の時の演奏と言うことになります。
この時代のロストロポーヴィチは1956年に「第10回プラハの春音楽祭」でバッハの無伴奏チェロ組曲の全曲苑素などをして、まさに頂点に向かってまっしぐらに駆け上っていく時代でした。

そして、そういうロストロポーヴィチの凄さがひしひしと伝わってくるのがドヴォルザークの協奏曲です。いやはや、ここでのロストロポーヴィチは「凄い、凄すぎる!!」の時と事に尽きます。
指揮者のボリス・ハイキンと言う人は殆ど未知の指揮者なのですが、これがまた、実に癖のある伴奏をつけるのです。

ウィキペディアで調べてみると
1936年、活動の場をモスクワからレニングラードに移し、ボリショイ劇場の指揮者に転出したサムイル・サモスードの後任としてレニングラード・マールイ劇場の指揮者に就任した。同時にレニングラード音楽院での教授も始めるようになる。マールイ劇場では、ムソルグスキー、チャイコフスキー、リムスキー=コルサコフなどのロシア・オペラの古典を指揮するとともに、同時代のソビエト作曲家の新作初演をいくつか手掛けている

等と記されているので、当時のソ連では名の知れた実力者指揮者と目されていたようです。

ドヴォルザークの協奏曲はチェロの独奏が登場するまでにかなり長い前奏部分があるのですが、これがもう実に癖のある演奏なのです。いささか言葉が不適切かもしれませんが、変な色気のある性悪女がロストロポーヴィチに言い寄ってくるような雰囲気なのです。しかし、その誘いをロストロポーヴィチは最初の一音できっぱりとはねつけてしまいます。
それは雄渾にして気迫に満ちた佇まいで、ボリス・ハイキンのどこか崩れたような風情とは真逆の大道を歩んでいきます。しかし、このボリス・ハイキンと言う人はそれでもオレの言うことに従えと言わんばかりに変化球を投げつけてくるのですが、ロストロポーヴィチはそう言う誘いには一切目をくれることもなく己の道を突き進んでいきます。
その力強さ、潔さは惚れ惚れとさせられます。

それは、オケとソリストが火花を散らすというようなものではなく、「貴方が何をしようとこれが私のドヴォルザークなのです」という主張を微塵の揺らぎもなく貫いていくので、なんだかオケがだんだんと可哀想になってきます。そして、その事が逆にロストロポーヴィチの凄さをよりはっきりと際だってくるのです。

まさか、ロストロポーヴィチの凄さを際だたせるためにボリス・ハイキンは幇間に徹したのでしょうか。流石にそれはないでしょうね。

それと比べれば、サン=サーンスの方は極めて真っ当な演奏です。
ただし、この4年の開きは大きいようで、ドヴォルザークの時の様な聞き手を圧倒するような「凄み」はありません。とは言え、それはドヴォルザークの時が凄すぎるのであって、これはこれで、普通に聞けば立派な演奏です。
指揮者のグレゴリー・ストリャーロフもまた私にとっては全く未知の人なのですが、こちらの方は実に真っ当に、ソリストを支える方向で献身しています。それ故に、かえって彼の持てる技巧を極限まで引き出す必要もなかったのか、実に余裕たっぷりに全曲を弾ききっています。

惜しむらくは、中古レコードも盤質は今ひとつ良くないのが残念です。いろいろ頑張ったのですが、これが音質的には限界です。ご理解あれ。

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2022-09-19:大津山 茂


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