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Home|ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)|ワーグナー:「タンホイザー」序曲

ワーグナー:「タンホイザー」序曲

ハンス・スワロフスキー指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1951年11月9日録音



Wagner:Tannhauser Overture


男の身勝手

オペラのストーリーというのは男の身勝手というものが前面に出ているものが多いのですが、その最たるものがワーグナーでしょう。そのワーグナーの中でも、とりわけ「酷い」なあ・・・!!と感心させられるのがタンホイザーです。
誰かが似たようなことを書いていたような気がするのですが、このお話を現代風に翻案してみればこんな風になります。

『都会に出て行って風俗のお店通いに狂ってしまった男とそんなアホ男を田舎でひたすら待ちわびる純情な娘、そしてそんな娘に密かに心を寄せる堅気の田舎青年・・・というのが基本的な人間関係です。

この男、一度は改心したかのように見えて田舎に戻ってきます。ところが、村の祭りで例の堅気の青年が「徳」だの「愛」だのとほざくのを聞いて心底うんざりしてしまって、「やっぱり町の風俗の姉ちゃんが一番だ!」なんどと叫んでしまいます。

驚いたのは村の衆であり、とりわけその純情娘の親や親戚から総スカンを食って再び村にはおれなくなってしまいます。
しかし、それでも世間知らずの純情娘はそのアホ男のことが忘れられず、必死で彼のことをとりなします。

仕方がないので、一族の連中は、「そんならハローワークに言ってまともな仕事について堅気の生活をするなら許してやる。(ローマ法王の許しを得るなら許してやる)」といいます。
男は仕方なくハローワークに通うのですが(ローマ巡礼)、基本的に考えが甘いので上手く職を得ることなど出来るはずもなく「世間の連中はどうせ俺のことなんか何も分かってくれないんだ!やっぱり俺には風俗の姉ちゃんが一番だ!!」と叫んで男は再び都会に出て行こうとします。

ところが、嫌と言うほど裏切り続けられたにもかかわらず、その純情娘はそれでもアホ男のことを忘れられず、最後は自分の命を投げ出して彼を救ってくれるのです。
さすがのアホ男もその娘の献身的な愛のおかげでようやくにして目覚め、おまけに、世間の人もその娘の心を思ってアホ男を許します。』

・・・という、男の身勝手を絵に描いたようなお話です。

あらためて指摘するまでもないことですが、このアホ男とは疑いもなくワーグナー自身のことです。
彼は己のアホさ加減と身勝手さを嫌と言うほど知っていました。
でも、そんなあほうな自分でもいつか命をかけてでも愛して救ってくれる純情な女性が現れることを本気で信じていたのもワーグナーという男でした。


ギリギリのラインを狙っている

ヨハン・シュトラウスのワルツなどを紹介したときにも感じたのですが、スワロフスキーという人にはウィーンの伝統を根っこにしっかりと保持しながら、その上でスワロフスキーならではの造形を見せてくれます。
その特徴は、同時代の巨匠たちのワーグナー演奏と較べてみればはるかに明晰であると言うことです。
クナッパーツブッシュのような有機生命体がのたうつような演奏は特別としても、それでも同時代の巨匠たちのワーグナー演奏は基本はその方向性にありました。ワーグナーが理想としたバイロイトの歌劇場のオーケストラピットは蓋で覆われているように、ワーグナーは自らの音楽は全ての楽器の響きが渾然一体となる事を望んでいたことは間違いありません。

それ故に、例えばセル&クリーブランドカンナの明晰きわまる演奏は、逆説的な言い方になるかもしれませんが、セルという男の徹底した主観性に基づいた演奏だと言えます。ただし、セルの音楽の根っこにはウィーンの伝統がありますから、その主観性は分かるべき事は熟知した上での造形でした。
同じようにドラティのワーグナーもまた精緻を極め、まるでワーグナーのミニチュア作品だと思ったものです。

しかし、スワロフスキーの明晰さはそう言う徹底したものではありません。
それはもう実に「いい案配」と言うべきか、セルのように光と影をクッキリと描き出して、細部の細部までさらけ出すような事はしなくて、その様な明暗に微妙な濃淡をつけることによってワーグナーの音楽が持つ重さとスケールの大きさを保持しています。

つまりは、ウィーンの劇場において「ワーグナーというものはこういうふうに演奏するものだ」という継承の枠の中に己を留まらせながら、その中でギリギリのラインを狙っているという感じなのです。
それはオケが馴染みのウィーン交響楽団ではなくてチェコ・フィルであっても同様です。

下手をすれば「中途半端」になる恐れがあるのかもしれませんが、私は十分に楽しんで聞くことができました。

この演奏を評価してください。

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