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Home|マックス・ロスタル(Max Rostal)|ハインリヒ・ビーバー:パッサカリア ト短調

ハインリヒ・ビーバー:パッサカリア ト短調

(Vn)マックス・ロスタル:1958年録音



Biber:Passacalia in G minor


バッハ以前の無伴奏作品

バッハの無伴奏作品が余りにも偉大なためか、それ以外の無伴奏作品にはほとんど注目が集まりません。とりわけ、バッハ以前の無伴奏作品となるとほとんど見かけることはありません。
しかし、「パッサカリア」というスタイルはバッハの時代においては少し時代遅れと思われるほどのスタイルだったのですから、それ以前に無伴奏による「パッサカリア」作品が多数存在するのは当然です。しかし、なかなか日が当たりません。

ということで、パブリック・ドメインになっている録音の中から漸く探しあてたのがこのビーバーの「パッサカリア」です。

ビーバーはバッハよりもかなり古い世代の作曲家で、ザルツブルクの宮廷楽長などを務めていました。
また、ヴァオリニストとしても有名だったようで、その技量に合わせた優れた作品を次々と書き上げていったようです。

この「パッサカリア」は15曲のソナタ集からなる「ロザリオのソナタ」の締めくくりとして一番最後におかれています。
この「ロザリオのソナタ」は聖母マリアの生涯の秘蹟を讃えた曲集であり、モノトーンな音楽でありながら全体的には私的な祈りに満ちた音楽になっています。そして、その特徴が色濃く表出されているのがこの「パッサカリア」でしょう。

全体としては荘重とも言うべき音楽なのですが、それをヴァイオリン一挺で表現しきるのはかなり難しいように思われます。しかし、聞くところによると、ここのフレーズは中級クラスの技術があれば何とか処理できるようです。
もちろん、楽譜通り弾けたからと言って、それでどうなるものでもないことも明らかなのですが、逆に言えばそう言う作品の方がプロの演奏家にとっては厄介なのかもしれません。


演奏家としての名声はいらない

「マックス・ロスタル」という名前は私の視野には全く入っていなかったヴァイオリニストでした。
著作権法が改悪されるまでは保護期間が50年だったので、毎年1月1日を迎えるたびに膨大な数の録音がパブリック・ドメインになっていました。しかし、戦時加算という「敗戦国日本」へのペナルティ条項の見直しを求めることなく70年に延長しくれたおかげで(^^;、毎年追加されていた膨大なパブリック・ドメインを取り上げる必要がなくなりました。

クラシック音楽のパブリック・ドメインの世界を商店街に例えてみれば、大通りに面した場所に次々と新しいお店がオープンするような状態だったのが、その新規開店がぱったりと途絶えてしまったようなものです。
そうなると、今まではその大通りを外れた路地に足を踏み込むことがなかったのですが、新規開店がなくなるとあちらこちらの路地を訪ねることになります。そして、そう言う人通りの少ない路地にもなかなかの名店が存在していることに気づかされたのがこの数年の出来事だと言うことになります。

もっとも、「マックス・ロスタル」が大通りではなくて、そこから一本中に入った路地に店を構える存在なのかどうかは判断しかねますが、今までの私に視野には入っていなかったことは間違いありません。
この「マックス・ロスタル」の基本的な情報を紹介しておくと以下のようになります。

1905年にオーストリア帝国のテシェン(現在はポーランド領チェシェン)に生まれたユダヤ人です。
天才少年としてわずか6歳で公開の演奏会に登場し、その後はアルノルト・ロゼやカール・フレッシュに学び、22歳でオスロ・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター、24歳でベルリン音楽アカデミーの教授となって教育活動にも尽力します。
しかし、その後はナチスの台頭によってイギリスに亡命し、活動の拠点をロンドンに据えたので、一般的にはイギリスの演奏家として認識されることが多いようです。実際、大陸側ではあまり評価されていなかったディーリアスやウォルトンの作品を精力的に取り上げてその存在を広く知らしめています。
また、それ以外にも数多くの同時代の作曲家の作品を取り上げていて、多くの若手作曲家がコンサート・プログラムでその地位を獲得するのを助けた事も大きな功績でした。

しかし、自己批判力が強かったのか60代を前にして演奏活動の第一線からは身を引いたようで、晩年は教育活動に力を注ぎ数多くの優れたヴァイオリニストを世に出しています。

さて、肝心の演奏の方なのですが、これは一言で言えば「男前」に尽きます。
「ジェンダー」が語られる今の時代にどうかと思わぬわけではない表現なのですが、ソリストというものが持っている「目立ってなんぼ」という嫌らしさが全く感じられません。確かに美しい音色のヴィオリンですが、解釈そのものが生真面目なのか、媚びを売るような場面は全く見受けられません。
確かに、ヴァイオリンというのは蠱惑的な響きも魅力なのですが、そう言う演奏スタイルとは全く異なった地点にいるのがロスタルです。
聞くところによると、彼は演奏家としての名声には全くこだわることはなく、録音に関しても自由に振る舞えるマイナーレーベルの方を好んだようです。

つまりは、音楽を手段として社会的な名声を求める立場からは遠く離れ、ひたすら音楽そのものを愛し続けた人だったようです。
目の前の利益だけを求め、ひたすら世知辛い今の世にあって、こういうノーブルな音楽を聞かせてくれる「マックス・ロスタル」こそは、裏通りにひっそりと店を構えた名店中の名店と言っていいでしょう。

この演奏を評価してください。

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