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ベートーベン:交響曲第4番


メンゲルベルグ指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1940年4月25日録音


北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女

北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。

そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。

最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)

改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています

ナチス侵攻前のベートーベン・チクルス


メンゲルベルグという人は二つの顔を持っていました。(・・・その様に私には見えます)

一つはポルタメントを多用して濃厚な表情をつけ、テンポも大きく揺らして(崩して?)演奏するメンゲルベルグです。一般的にメンゲルベルグといってイメージされるのはこのタイプの演奏です。
しかし、彼の録音をあれこれと聞いていくと、もう一つの顔に行き当たります。それは、早めのテンポをしっかりと維持しながら、強めにアタックをつけて迫力満点に演奏をするメンゲルベルグです。

そして、崩しの達人のように言われるメンゲルベルグなのですが、実際に聞いてみると後者のような演奏の方が多いことに気づかされます。とりわけ、ここでお聞きいただいているベートーベンチクルスの録音は、後者のメンゲルベルグの特徴がよくあらわれた演奏だと言えます。
もちろん、4番や7番の第2楽章のように濃厚な表情をつけているところもありますが、全体としてみれば至極まっとうな演奏のように聞こえます。(この二つの楽章は、さすがメンゲルベルグ!!と思わせるほどに魅力的です。特に4番の第2楽章は素晴らしい!!)
また、部分的にはピチカートをつけているのではないかと言うほどに強くアクセントをつけて、作品が持つ推進力をよりいっそう際だたせようとしています。そのために、非常に健康的なベートーベンと聞かせてもらったという感想が残ります。ただし、そういうベートーベンならば代替品はいくらでもありますから、4番や7番の第2楽章意外はレア物としての価値は低いと言わざるを得ません。

しかし、やはりメンゲルベルグですから、強めのアタックとたたみかけるような迫力だけで作品全体を押し切ってはいません。
それは、あちこちですでに書いているのですが、細部優先という彼の本性です。ですから、彼が「素敵だ!」と思う細部に行き当たると、それをどうしても聞き手に対して提示したくなってしまう「欲望」を抑え切れず、突然にテンポを落としたり、彼ならではの表情をつけたりしてしまうのです。

問題はそれをどのように評価するかです。
メンゲルベルグをこよなく愛する人たちは、そこにこそ彼の魅力があるといいます。
確かに、それが一発勝負のライブならば十分に魅力的で説得力もあっただろう思われます。その意味では、メンゲルベルグという人は基本的には劇場の人だったといえるのでしょう。
しかし、録音されたものとして何度も聞き返してみると、突然のテンポの変化や濃厚な表情付けは恣意的なものに聞こえ、煩わしささえ覚えてしまうことも否定できません。全体としてみれば、快調なテンポで順調に事は運んでいるのに、なぜに突然その様な異物が挟み込まれるのかが理解できないのです。

では、お前はどうなんだ?と聞かれれば、残念ながら後者の立場であることを告白せざるを得ません。
しかし、一部の根強いメンゲルベルグのファンからは「是非とも9番だけでなく、残りの作品もアップしてほしい」という要望がありますし、1番、2番、7番あたりはけっこういいのではないかと思う面もありますので、意を決して(^^;残りの全曲をアップすることにしました。
しかし、クラシック音楽初心者で、初めてそれらの作品を聞くと言うときにはあまり適した演奏ではないということは理解しておいて下さい。

なお、このベートーベンチクスルがどのような経緯で計画されたのかは、あれこれ調べてみたのですがよく分かりませんでした。演奏会のプログラムは以下の通りなのですが、これらは全て録音されることを前提としていたようで、1・2・7・9番のように、うまくいった物は(?)、この時代のもとしてはかなり良質な音質で楽しむことが出来ます。
しかし、第3番に関しては、録音時に何らかの事故があった模様で、ノイズが盛大に入り込んでいます。また、4番も冒頭部分の音質が芳しくありません。(3分程度でしょうか)また、5番・6番・8番に関しても、ドア一枚隔てて聞いているようなこもった音質なのも残念です。

ちなみに、最後の第9の演奏会がナチス侵攻前の最後の演奏会となっていますから、かなりの緊迫感の中で行われた演奏会であり録音だったことはうかがわれます。

1940年4月14日
交響曲第1番 ハ長調
交響曲第3番 変ホ長調<英雄>
1940年4月18日
交響曲第5番 ハ短調<運命>
交響曲第8番 ヘ長調
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
1940年4月21日
交響曲第2番 ニ長調
交響曲第6番 ヘ長調<田園>
1940年4月25日
交響曲第4番 変ロ長調
交響曲第7番 イ長調
1940年5月2日
交響曲第9番 ニ短調<合唱付>

ナチスはこの最後の演奏会の8日後の5月10日に空挺部隊をオランダ各地に降下させて侵略を開始します。13日にはオランダの王室と政府はロンドンに逃れ、15日にオランダはドイツに降伏します。
そして、政治音痴のメンゲルベルグはゲッペルスの要請を受けて、ドイツ支配下における指揮活動をベルリンフィルへの客演で再スタートします。
オランダにとっては宝とも言うべきメンゲルベルグが、ナチスドイツの首都であるベルリンで演奏会を行うと言うことが、どのようなメッセージを世界を発信するかを彼は最後まで理解できなかったようです。フルトヴェングラーは、ナチスが侵略した国では絶対に指揮活動を行いませんでしたが、その辺の政治的無頓着さが戦後の二人の運命を分かつことになったのかもしれません。


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