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ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調, Op15

(P)クリフォード・カーゾン:エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1953年5月19日~6月1日録音



Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [1.Maestoso]

Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [2.Adagio]

Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [3.Rondo. Allegro non troppo]


交響曲になりそこねた音楽?

木星は太陽になりそこねた惑星だと言われます。その言い方をまねるならば、この協奏曲は交響曲になりそこねた音楽だといえます。

諸説がありますが、この作品はピアノソナタとして着想されたと言われています。それが2台のピアノのための作品に変容し、やがてはその枠にも収まりきらずに、ブラームスはこれを素材として交響曲に仕立て上げようとします。しかし、その試みは挫折をし、結局はピアノ協奏曲という形式におさまったというのです。
実際、第1楽章などではピアノがオケと絡み合うような部分が少ないので、ピアノ伴奏付きの管弦楽曲という雰囲気です。これは、協奏曲と言えば巨匠の名人芸を見せるものと相場が決まっていただけに、当時の人にとっては違和感があったようです。そして、形式的には古典的なたたずまいを持っていたので、新しい音楽を求める進歩的な人々からもそっぽを向かれました。

言ってみれば、流行からも見放され、新しい物好きからも相手にされずで、初演に続くライプティッヒでの演奏会では至って評判が悪かったようです。
より正確に言えば、最悪と言って良い状態だったそうです。
伝えられる話によると演奏終了後に拍手をおくった聴衆はわずか3人だったそうで、その拍手も周囲の制止でかき消されたと言うことですから、ブルックナーの3番以上の悲惨な演奏会だったようです。おまけに、その演奏会のピアニストはブラームス自身だったのですからそのショックたるや大変なものだったようです。
打ちひしがれたブラームスはその後故郷のハンブルクに引きこもってしまったのですからそのショックの大きさがうかがえます。

しかし、初演に続くハンブルクでの演奏会ではそれなりの好評を博し、その後は演奏会を重ねるにつれて評価を高めていくことになりました。因縁のライプティッヒでも14年後に絶賛の拍手で迎えられることになったときのブラームスの胸中はいかばかりだったでしょう。

確かに、大規模なオーケストラを使った作品を書くのはこれが初めてだったので荒っぽい面が残っているのは否定できません。1番の交響曲と比較をすれば、その違いは一目瞭然です。
しかし、そう言う若さゆえの勢いみたいなものが感じ取れるのはブラームスの中ではこの作品ぐらいだけです。私はそう言う荒削りの勢いみたいなものは結構好きなので、ブラームスの作品の中ではかなり「お気に入り」の部類に入る作品です。


若きブラームスの覇気が聞くものの胸に迫ってくる

カーゾンはDeccaのカルショーにとっては盟友とも言うべき存在です。そんなカルショーが大陸のオーケストラ(コンセルトヘボウ管)を相手に録音した数少ない一枚がこのブラームスのピアノ協奏曲第1番です。
そして、面白いのはカーゾンのピアノの魅力を録音で捕らえるのは空を飛ぶ鳥を使えるよりも難しいと語りながら、カーゾンのことを「大惨事を鞄に入れて持ち歩いている」ピアニストだと言っていたことです。確かに、彼とのレコーディングにおいては、信じがたいほどに予期せぬトラブルが発生したようです。

そして、それはこのブラームスの録音でも発生しました。
問題は第3楽章の録音で、何故かカーゾンが冒頭のの8小節でなつっかえてしまったのです。カーゾンにしてみれば考えられないミスなのですが、スタジオ録音ではスルーできないミスですから録り直しとなるのですが、それまたミスってしまいます。ところが、三度目もつっかえてしまい、結局はその8小節を何度も弾き直すという、あまり有り難くない状態になってしまったのです。
そして、漸く無事に弾き終えることが出来た後に、カーゾンを含めてみんなでプレイバックを聞き直して確認しようとしたときに悲劇が起きました。なんと、録音エンジニアはその時誤ってプレイバックではなくて録音のスイッチを入れてしまったのです。つまりは、漸くにして無事に演奏が出来た録音を全て消去する結果になったのです。

カーゾンという人は、何故か不思議なくらいにこのような「惨事」を引き寄せる存在だったのです。
しかしながら、消してしまったものはもとに戻るはずもなく、やるべき事はただ一つ、もう一度演奏をやりなおしてそれを録音することです。

そして、不思議なことに、このやり直しでは演奏上のミスは全く起こらず、無事にここで聞くことができる音楽を紡ぎ出したのです。

さて、肝心のその演奏の方なのですが、カーゾンのブラームスと言えば、1962年にジョージ・セルと録音した一枚が有名で、このベイヌムとの録音はモノラルと言うこともあってあまり注目はされません。
確かに、セルがロンドン交響楽団から紡ぎ出す音楽は雄大であり、カーゾンもまた珍しくそう言うオケに対して勝負にいっています。それを名盤とよぶことに異議を唱える人はいないでしょう。

しかし、ベイヌムとコンセルトヘボウがつくり出す世界は、若きブラームスの覇気が聞くものの胸に迫ってきます。そして、そう言う覇気だけでなくコンセルトヘボウらしい重厚で艶やかな響きもこの時代ならではの極上の響きです。
そして、そう言うオケをバックにカーゾンらしい淡々とした佇まいのピアノが見事にマッチングしています。

さらに言えば、これは1953年の録音なので、Deccaといえどもステレオ録音とはならなかったのですが、それでもモノラル録音としては一つの完成形といるほどのクオリティを持っています。オケとピアノのバランスなどは奇蹟とも言えるほどに上手く仕上げています。
と言うことで、セルとの62年盤があったとしても、忘れてしまうには惜しい録音と演奏なのです。

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