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クーセヴィツキー(Serge Koussevitzky)|チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64
セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 1943年11月6日録音
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [1.Andante - Allegro con anima]
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [2.Andante cantabile con alcuna licenza]
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [3.Valse. Allegro moderato]
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [4.Finale. Andante maestoso - Allegro vivace]
何故か今ひとつ評価が低いのですが・・・

チャイコフスキーの後期交響曲というと4・5・6番になるのですが、なぜかこの5番は評価が今ひとつ高くないようです。
4番が持っているある種の激情と6番が持つ深い憂愁。
その中間にたつ5番がどこか「中途半端」というわけでしょうか。
それから、この最終楽章を表面的効果に終始した音楽、「虚構に続く虚構。すべては虚構」と一部の識者に評されたことも無視できない影響力を持ったのかもしれません。
また、作者自身も自分の指揮による初演のあとに「この作品にはこしらえものの不誠実さがある」と語るなど、どうも風向きがよくありません。
ただ、作曲者自身の思いとは別に一般的には大変好意的に受け入れられ、その様子を見てチャイコフスキー自身も自信を取り戻したことは事実のようです。
さてお前はそれではどう思っているの?と聞かれれば「結構好きな作品です!」と明るく答えてしまいます。
チャイコフスキーの「聞かせる技術」はやはり大したものです。確かに最終楽章は金管パートの人には重労働かもしれませんが、聞いている方にとっては実に爽快です。
第2楽章のメランコリックな雰囲気も程良くスパイスが利いているし、第3楽章にワルツ形式を持ってきたのも面白い試みです。
そして第1楽章はソナタ形式の音楽としては実に立派な音楽として響きます。
確かに4番と比べるとある種の弱さというか、説得力のなさみたいなものも感じますが、同時代の民族主義的的な作曲家たちと比べると、そういう聞かせ上手な点については頭一つ抜けていると言わざるを得ません。
いかがなものでしょうか?
音楽に民主主義はいらない。
クーセヴィツキーのことを「素人」と貶したのはトスカニーニでした。
確かに、彼の音楽家としての出発点はコントラバス奏者であり、ピアノもまともに弾けなかったと言う話も伝えられています。指揮者を志したのはニキッシュの演奏に接して感激したからであり、スコア・リーディングに関しても全くの独学で身につけました。
こういう条件だといかに内面に優れた音楽性を持っていても指揮者として大成するのは難しいのですが、その困難を乗りこえる幸運を彼は持っていました。それは大富豪の娘を妻として得たことです。それはお金の心配をしないで音楽活動に専念できるというレベルのお金持ちではなく、自前でオーケストラを組織して指揮活動が出来たり、さらには自前の楽譜出版社を作って著名な作曲家に新作を次々と委嘱できると言うほどの「大富豪」だったのです。
そのおかげで、ラヴェル編曲の「展覧会の絵」から始まってバルトークの管弦楽のための協奏曲、メシアンのトゥーランガリラ交響曲、コープランドの交響曲第3番、オネゲルの交響曲第1番、プロコフィエフの交響曲第4番、ルーセルの交響曲第3番、ハンソンの交響曲第2番等など列挙するのも疲れるほどに重要な作品を後世に残してくれました。
そんなクーセヴィツキーですから、アメリカの名門オケであるボストン響の常任指揮者に就任しても「オレ流」を通したのは当然です。
クーセヴィツキーと言えば豪快な演奏が持ち味と言われるのですが、作品によっては結構振り幅が広くて、激情的な盛り上げを狙った入念な表情付けを行うことも少なくなかったようです。そして、作品や演奏の場によって音楽のスタイルが変わるあたりをトスカニーニは「素人」と断じたのでしょうが、それはかなり正当な評価だったと言えます。
しかしながら、そう言う気まぐれにつき合わされるオーケストラのメンバーは大変だろうと思われます。例えば、40年代のチャイコフスキーの4番から6番までの演奏を聞いてみると、豪快さよりは入念な表情付けの方に驚かされます。スコアなどはほとんど無視をしてテンポを動かし強弱のメリハリなどもつけたりしているのですから、そりゃあオケは大変です。
ところが、クーセヴィツキーはリハーサルでは一切妥協することなく、オケに対してもかなり居丈高で理不尽な言葉を発するのが常だったので、その関係は常に「最悪」だったと伝えられています。これが普通の指揮者なならば今後のことを考えればもう少し信頼感を築こうと努力するのですが、大富豪のクーセヴィツキーにしてみれば自分が気に入らなければいつでもやめてやるという姿勢で臨むことが出来たのです。
ですから、いかに厳しいリハーサルであっても常に筋が通っているトスカニーニなんかよりははるかにたちが悪かったと言えます。
ところが、困ってしまうのが、そう言う無茶を要求しながら、さらには素人くさい指揮であっても出来上がった音楽は魅力的なのです。それは、結局はクーセヴィツキーという男の中にすぐれた音楽が宿っていたからでしょうし、その事に彼自身も揺るぎない自信を持っていたはずです。
そして、こういう理不尽な仕打ちの上に成り立つ音楽は今後復活することは二度とありません。もしも、今の時代にクーセヴィツキーと同じような態度でリハーサルに臨めば、おそらく最初の1日でお払い箱となるでしょう。
そして、いつも思ってしまうのです。
音楽に民主主義はいらない。
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