クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|オーマンディ(Eugene Ormandy)|チャイコフスキー:スラヴ行進曲, Op.31

チャイコフスキー:スラヴ行進曲, Op.31

ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1964年4月27日録音



Tchaikovsky:Slavonic March, Op.31


スラブ民族を讃える行進曲

1876年にセルビアとモンテネグロはヘルツェゴヴィナ蜂起を支援するためオスマン帝国に対し宣戦を布告します。しかし、オスマン軍は速やかにこの両国を打ち破り、さらにはブルガリアにおける反オスマン反乱も鎮圧してしまいます。
こうなると、その戦いをロシアが引き継ぐのが数世紀にわたる「露土戦争」のパターンなので、ロシアはオーストリア=ハンガリー帝国と秘密協定を結んで中立的立場をとることを約束させると、1877年にこの戦争に介入することになります。

ロシアとトルコは16世紀以降数え切れないほどの戦争を繰り返しているのですが、一般的に「露土戦争」と言えばこの1877年から1878年にかけて行われたこの戦争のことを指します。
ロシアはこの20年前の、いわゆる「クリミア戦争」でトルコに敗れるという失敗を経験をしているので、この時の戦争ではバルカン半島のスラブ民族独立のための戦争であるという大義名分を掲げて、汎スラヴ主義的心情に訴えるという手法をとりました。

そのため、ロシア国内でも戦争協力の動きが巻き起こり、ニコライ・ルビンシュテインが負傷兵のための基金募集のために演奏会を企画したり、その呼びかけにチャイコフスキーもすみやかに応えたりしたのです。
そして、そう言う流れの中でスラブ民族を讃える行進曲が書かれることになるのです。

チャイコフスキーはスラブ民族を鼓舞する意味も込めて、戦争の中心となっているセルビアやその近くの地方の民謡を主題として用い、最初は「ロシア・セルビア行進曲」と名づけたのですが、出版に際しては現在の「スラブ行進曲」と変更されました。

最初は重々しい歌で始まり、その歌は楽器を変えて何度も登場します。
やがてスラブの民謡が次々と登場することで戦闘はますます激しさを増し、最後は壮大なクライマックスの中でスラブ民族の勝利をたたえて音楽は閉じられます。


華麗で美しく、そして楽しく

吉田大明神が、オーマンディを文化の「保守者(キーパー)}と断じたの影響はこの国では大きいでしょう。オーマンディを高く評価する人はこの国では決して多くはありません。

しかし、オーマンディとフィラデルフィア管が作り出す音楽の平均点は決して低くはないと思います。
おまけに、このコンビのレパートリーは非常に広いので、たまには違う音楽を演奏しろよ!と言いたくなってしまた今は亡きクライバーさんなんかとは真逆の存在です。
これほどの多様性に満ちた音楽をこれほどのクオリティで、はずれ無しに演奏できるというのは凄いことです。

しかし、時の流れの中で振り返ってみれば、どうしてもこのコンビでなければ!とか、是非ともこのコンビでの録音で聞いてみたい!と言えるような録音はほとんど見あたらない様に思っていました。そういう風に書いたことも記憶にあります。
しかし、昨今の精緻で透明感に溢れてはいるものの、どこか蒸留水のように無色無臭な音楽が増えてくると、オーマンディとフィラデルフィア管が作り出す響きは非常に貴重な存在ではないかと思うようになってきました。

例えば、今ここで聞いてもらっている一連のチャイコフスキー作品のように、どれを聞いても華麗で美しく、そして楽しさに溢れた音楽作りは十分に魅力的なのです。
さらに言えば、その造形はきわめて真っ当でありスタンダードであって、どこにも奇をてらったところはないのですなのです。(序曲19812年での大砲の乱れうちはやり過ぎかもしれませんが・・・^^;)
当然の事ながら、スタンダードに徹してここまで聞かせるというのは、例えばアバドなんかもそう言う側面があったのですが、結構大変なことなのです。(何もしていないように見えて、聞き進んでいくうちに胸が熱くなってくる。)

吉田大明神は、同じように独裁政治体制を敷いてオケに君臨したオーマンディとセルを較べて「創造者(クリエーター)」と「保守者(キーパー)」の違いを指摘したのですが、そこからさらに時を経てみれば、オーマンディがつくり出したフィラデルフィアサウンドは、十分に「創造者(クリエーター)」たる資格があるように思われてくるのです。

確かに、セルとオーマンディでは方向性が全く違っていましたから、セルの側に肩入れをすれば吉田秀和の言葉は見事なまでに正鵠を得ていたのかもしれません。
しかし、音楽が持っている多様性を幅広く受容する気になれば、もっと有り体に言えば、あれこれ難しいことは考えないでただ美しく華やかな音楽を楽しみたいだけなんだと開き直ってみれば、それはまたオーマンディにはあってセルにはなかった貴重な資質だったことに気づくのです。
とりわけ、こういう華やかさを追求したチャイコフスキーの管弦楽作品ならば、オーマンディの魅力が十分に堪能できるのではないでしょうか。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



4661 Rating: 5.9/10 (140 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2021-07-10:エラム





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-10-13]

ワーグナー;神々の黄昏 第2幕(Wagner:Gotterdammerung Act2)
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)

[2025-10-12]

ワーグナー;神々の黄昏 第1幕(Wagner:Gotterdammerung Act1)
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)

[2025-10-11]

ワーグナー;神々の黄昏 プロローグ(Wagner:Gotterdammerung Prologue )
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)

[2025-10-08]

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67(Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年8月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on August, 1961)

[2025-10-06]

エルガー:交響的習作「フォルスタッフ」, Op.68(Elgar:Falstaff Symphonic Study, Op.66)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1964年6月1日録音(Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on June 1, 1964)

[2025-10-04]

ブラームス:弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調 Op.67(Brahms:String Quartet No.3 in B-flat major, Op.67)
アマデウス弦楽四重奏団 1957年4月11日録音(Amadeus String Quartet:Recorde in April 11, 1957)

[2025-10-02]

J.S.バッハ:幻想曲 ハ短調 BWV.562(Bach:Fantasia and Fugue in C minor, BWV 562)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-09-30]

ベートーベン:合唱幻想曲 ハ短調 Op.80(Beethoven:Fantasia in C minor for Piano, Chorus and Orchestra, Op.80)
(P)ハンス・リヒター=ハーザー カール・ベーム指揮 ウィーン交響楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団 (S)テレサ・シュティヒ=ランダル (A)ヒルデ・レッセル=マイダン (T)アントン・デルモータ (Br)パウル・シェフラ 1957年6月録音(Hans Richter-Haaser:(Con)Karl Bohm Wiener Wiener Symphoniker Staatsopernchor (S)Teresa Stich-Randall (A)Hilde Rossel-Majdan (T)Anton Dermota (Br)Paul Schoffler Recorded on June, 1957)

[2025-09-28]

エルガー:コケイン序曲 Op.40(Elgar:Cockaigne Overture, Op.40)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年5月9日&8月27日録音(Sir John Barbirolli:The Philharmonia Orchestra Recorded on May 9&August 27, 1962)

[2025-09-26]

ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60(Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major ,Op.60)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1962年1月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on January, 1962)