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フォーレ:「ペレアスとメリザンド」組曲 Op.80

エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 1961年2月録音



Faure:Pelleas et Melisande Suite, Op.80 [1.Prelude]

Faure:Pelleas et Melisande Suite, Op.80 [2.La Fileuse]

Faure:Pelleas et Melisande Suite, Op.80 [3.Molto adagio]

Faure:Pelleas et Melisande Suite, Op.80 [4.Sicilienne]


今度はあれが生きる番だ

「ペレアスとメリザンド」はベルギーの劇作家モーリス・メーテルリンクによって19世紀末に書かれた戯曲なのですが、その悲劇性故にか多くの作曲家にインスピレーションを与えたようで、フォーレやドビュッシー、シェーンベルクなどが作品を残しています。
その中で、このフォーレの作品はイギリスで英語によって上演されたときに、その劇付随音楽として依頼されたものです。

ただし、その依頼を受けたときにフォーレはかなり多忙だったようで、オーケストレーションについては弟子のシャルル・ケクランに委ねています。
そして、その数年後にフォーレはその付随音楽から「前奏曲」「糸を紡ぐ女」「メリザンドの死」の3曲を選び出した「組曲」に仕立て直し、あわせてにオーケストレーションも2管編成のオーケストラ曲として手を加えました。
しかし、初演時の聴衆の反応は悪くなかったのですがフォーレ自身は不満が大きかったようで、さらに「シシリエンヌ」「メリザンドの歌」の2曲を加えた5曲編成としています。

ただし、この最後の「メリザンドの歌」には声楽が必要なので、実際のコンサートでは経費節約のためにカットされることも少なくないようです。ただし、「シシリエンヌ」を追加したのは正解で、今ではこの曲だけが断トツに有名になっています。

なお、メーテルリンクの「ペレアスとメリザンド」は、異本的には「トリスタンとイゾルデ」と同じようなテーマを扱っているようです。
ただし、メリザンドは突如現れた謎の女性であり、そのメリザンドに一目惚れをするのは少しばかり年を重ねた男やもめの王太子ゴローです。そして、不義をはたらくのはそのゴローの息子であるペレアスという設定になっています。

そして、木陰の闇で抱き合い愛を語るペレアスとメリザンドをゴローは切り捨てるのですが、ペレアスは亡くなりメリザンドは負った傷とペレアスを失ったショックで赤子を産み落とします。
そして、ゴローはメリザンドにペレアスとの不義の有無を問い続けるのですが、メリザンドは「許さなければないようなことは、思い浮かばない」との言葉を残して亡くなってしまいます。

メリザンドの死に泣き崩れるゴローに対して父親である王のアルケルは赤子をゴローに示して、「今度はあれが生きる番だ」と諭して幕がおります。


美しい響きはより作品に魅力を添える

アンセルメの演奏を聞くとき、そのオーケストラの響きのバランスの良さにはいつも感心させられます。ただし、肝心の来日公演の時には余り出来がよくなかったようで、あのバランスの良さはDeccaによる「録音マジック」のおかげだと言われたものです。
しかし、あの来日公演はアンセルメが亡くなる直前のもので、本来の力とはかけ離れたものでした。来日公演は1968年の6月、亡くなったのは翌年の2月20日でした。

確か、カルショーが書いていたと思うのですが、オーケストラのバランスを整えるのは指揮者の仕事であって、録音エンジニアの仕事ではないとアンセルメは常にいっていたそうです。
つまりは、指揮者がオーケストラを完全にコントロールすることによって完璧な響きをつくり出し、録音エンジニアはその響きをあるがままにとらえることだけが役割だという信念があったのです。

アンセルメによるボレロやラ・ヴァルスを聞くと、造形の確かさや響きの美しさに感心させられます。特に響きに関しては、私がフランス音楽と聞いてイメージする薄味な響きではなくて十分に艶のある豊かな響きであることが魅力的です。
いわば、香水の香りが漂う様な響きだといえるのかもしれません。そして、それもまたもう一つのフランス的な美学です。

しかし、その響きには艶があっても決してボッテリとした響きにはなっていません。その艶やかで美しい響きはオーケストラのバランスの良さによってスコアを眼前に見るがごとくの明晰さにあふれた響きにもなっています。
これはもう、驚くべきバランス感覚です。
そして、それはあまり演奏される機会の多くないフォーレの管弦楽曲においても全く変わりません。
そして、フォーレであれば、その艶やかな美しい響きはより作品に魅力を添えます。

アンセルメという指揮者は音楽の中にいらぬ「ドラマ性」を持ち込みません。
彼は、スコアに書かれている音楽の姿を精緻に、そしてその造形を損なうことのない様にすれば、その音楽に作曲家が託したドラマ性は自ずから聞き手に伝わると確信をしていたのです。ただし、それはいつも極上の響きによって実現されていました。

ですから、こういうアンセルメの演奏を聞いてしまうと、それ以外の指揮者の多くは作品を分かりやすく伝えようとして、あれこれと小細工を施していることに気づかされます。
もっとも、その小細工が小細工でなく、本来のドラマ性をクッキリと浮かび上がらせるものならばそれはそれで納得はいくのですが、そう言う演奏は余り多くないですね。

そして、アンセルメがフランス音楽のスペシャリストと言われるのは、その様なアンセルメの方向性が持つ正当性ゆえ故だと言えるでしょう。
おそらく、クリュイタンスなどとは異なっていても、これもまた正当なフランス的なDNAを持っていた指揮者だと言っていいでしょう。

この演奏を評価してください。

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