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ベートーベン:交響曲第5番ハ短調 作品67「運命」

ウィレム・ヴァン・オッテルロー指揮 ウィーン交響楽団 1958年2月23日~26日録音



Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [1.Allegro Con Brio]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [2.Andante Con Moto]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [3.Allegro]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [4.Allegro]


極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803?4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。


これほどにカラリと乾いた、スタイリッシュな運命の第3楽章は珍しいのではないでしょうか

1958年に、オッテルローは馴染みのウィーン響とベートーベンの5番を、そして手兵のハーグ・レジデンティ管弦楽団と8番を録音しています。一応はステレオ録音であるというのは有り難い話ですが、クオリティ的にはステレオという録音を開拓していったレーベル(「Decca」「RCA」「Mercury」など))と較べてはいけません。
しかし、それでも、(しつこく繰り返しますが^^;)、ベートーベンの音楽が持っている「巨大」さの追求ではなくて、その緻密な内部構造を明らかにすることに徹したオッテルローの音楽を楽しむには有り難い話です。

この5番の交響曲こそは、ベートーベンが「音楽」というジャンルにおいて、これ以上に冗長さを排除できないという己に課した枠の中で、さらには楽器に楽器を重ねていくというデュナーミクの拡大によって、誰もが想像することすら出来なかった「巨大」なるものが表現しうることを実証した音楽でした。
しかし、聞けば分かるように、冒頭部分からして、オッテルローはその様な「巨大」さからは距離を置いていることがすぐに了解できます。その方向性は、同じ時期に録音された第8番の交響曲と全く同じと言っていいでしょう。

ただし、8番という交響曲はベートーベンの交響曲系列の中においてみれば最初から「異質」な存在であり、それは最初から、中期の交響曲のような「巨大」さを意図した音楽でないことは明らかです。ですから、オッテルローのアプローチをに関してもそれほど強い違和感を覚えるものではありませんでした。
逆に、最初から、8番という交響曲に内包されているパワーに焦点を当てているがゆえに、その内包するパワーを生み出している構造のようなものを知的に分析して一切の乱雑さから解放されたスタイリッシュな形で表現した事が素晴らしい成果を生み出していたのでした。

しかし、ここでは「運命」という方が通りがよい第5番の交響曲です。そう言う音楽において、オーケストラが違うとはいえ、8番と同じアプローチで迫ればどのような音楽が仕上がるのかというのが、この録音を聞く一番の喜びです。
おそらく、一番の聞きどころは第3楽章です。
ほとんどの人は、当然の事ながら、この「暗」の部分をより暗く、そしてより不気味に表現することによって、最終楽章へとなだれ込んでいく「落差」の大きさによって「暗」から「明」への転換と言う効果を最大限に発揮しようとするのが普通です。

ところが、オッテルローはそう言うことにはほとんど興味がないように見えます。
おそらく、これほどにカラリと乾いた、スタイリッシュな運命の第3楽章は珍しいのではないでしょうか。なんの不気味さも漂わさないティンパニーの響きなどは、よほど強い意志でオッテルローがコントロールしたのではないかと思われます。しかし、それと引き替えによく日があたっているがゆえに、いつもは暗雲に閉ざされた細かい部分がよく見えます。

そして、それでもベートーベンという男は大したもので、その様なアプローチであってもやるべき事をきちんとやっていれば、この「暗」から「明」への転換は常に感動的です。そして、最終楽章になだれ込んでいっても、オッテルローは決して節度を失うことはなく、その積み重ねられていくくデュナーミクの拡大と言う内部構造を見事に描き出しています。
そして、その整然とした歩みの中から、次々と押し寄せる波頭のしぶきまでをも克明に描き出しながら最後の頂点をむかえるとき、なるほどこういう「運命」もまた良きかなと思ってしまうのです。(もちろん、これは「運命」ではないという人がいてもわたしは決して否定はしません^^;)

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