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アイザック・スターン(Isaac Stern)|J.S.バッハ:ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060R
J.S.バッハ:ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060R
(Vn)アイザック・スターン:レナード・バーンスタイン指揮 (Ob)ハロルド・ゴンバーグ ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1966年2月7日録音
Bach:Concerto for Violin and Oboe in C minor, BWV 1060R [1.Allegro]
Bach:Concerto for Violin and Oboe in C minor, BWV 1060R [2.Adagio]
Bach:Concerto for Violin and Oboe in C minor, BWV 1060R [3.Allegro]
聞き手としてはオーボエを含んだ形で聞きたい

この作品は自筆譜が失われていて、もっとも古い筆写譜はバッハの女婿であったヨハン・クリストフ・アルトニコルの手になるもので、おそらくは18世紀前半に作成されたものと考えられています。ただし、その筆写譜から分かることは、この作品が二つの旋律楽器と弦、そして通奏低音からなる協奏曲だと言うだけで、はたしてその二つの旋律楽器は何だったのかはよく分からないのです。
そこで、取りあえずはその二つの旋律楽器をチェンバロが担当するという形で演奏されることが多かったので「2台のチェンバロのための協奏曲」とされ、「BWV 1060」という番号も与えられていました。
確かに、この作品を二台のチェンバロで演奏すると、対位法の人であるバッハらしい音楽の構造が浮かび上がり、それがもたらす繊細な響きも悪くはありません。
しかし、それと引き替えに音色の変化が乏しくなると言うことも指摘されていました。
また、この二つの旋律楽器に与えられている旋律の性格がいささか異なっていて、とりわけ第2ソロには歌謡的な性格が強いので、この作品を単純に2台のチェンバロで演奏する事への疑問を強くしていました。
そこで、この作品にはチェンバロ以外の楽器で演奏されることを想定してたのではないかとして、1920年代にマックス・シュナイダーが「2台のヴァイオリンのための協奏曲」として復元し、さらにはマックス・ザイフェルトが「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」として復元を行いました。
そして、現在では、おそらくこの内のどちらかが「原曲」に近いのではないかと考えられるようになっているのですが、演奏効果なども考えるとオーボエとヴァイオリンで演奏する方がより自然で魅力なので、新バッハ全集ではそちらの方に「1060R」という番号を与えて「原曲」としているようなのです。
さらに、そう判断する背景には、この作品が晩年のバッハに相応しい魅力に溢れていること、そして、この作品をオーボエで演奏するとなるとそれなりの名手が必要となり、それが可能となるのは晩年のケーテン時代(1717年~1723年)だと判断される事も大きな根拠となっています。
しかしながら、バッハは若い頃から十分すぎるほど成熟していたので、外観だけで成熟度というものを判断するのは難しくて、それ以前のヴァイマール時代(1708年~1717年)の作品という可能性は捨てきれないのです。
そうなると、この独奏楽器にオーボエを使うのは難しいので2台のヴァイオリンで演奏された可能性も否定できないのです。
ただし、バッハが書いたもっとも美しい旋律の一つもいえるのがこの「Adagio」楽章であり、その旋律の魅力を最大限に引き出してくれるのは明らかにオーボエです。
ですから、聞き手としてはややこしい考証などは脇においても、「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」として聞きたいというのが正直なところです。
バーンスタインとスターンの気質が被さりあって、とんでもなく「大トロ」のバッハになってしまっている
バーンスタインのバッハ録音はとても少ないので驚かされます。
その数少ない中に「マタイ受難曲」という大物もあるのですが、それがまた、大幅にカットされた英語による歌唱というスタイルなので、果たしてそれを「バッハ録音」と言っていいものか躊躇ってしまいます。
それ以外ではヴァイオリンやオーボエのコンチェルトを3曲、そして、グールドとのコンチェルトを1曲だけ残しているだけです。
- Concerto No. 1 in D Minor for Harpsichord & Orchestra, BWV 1052(Glenn Gould):57年録音
- Concerto No. 2 in E Major for Violin & Orchestra, BWV 1042(Isaac Stern):66年録音
- Concerto in C Minor for Oboe, Violin & Strings, BWV 1060(Isaac Stern & Harold Gomberg):66年録音
- Concerto in D Minor for 2 Violins & Orchestra, BWV 1043(Yehudi Menuhin & Isaac Stern):76年録音
こうして残された数少ないセッション録音を眺めていると、スターンをソリストとして招いた協奏曲が大部分を占めていることに気付かされます。
穿ちすぎた見方かも知れませんが、そうなってしまった背景には彼が一番最初にバッハを録音したグールドとの57年録音が大きな影響を与えているのではないかと思われます。
何故ならば、その最初の録音でグールドという光と出会うことで、バーンスタインのバッハの驚くほどの「古さ」があからさまになってしまったからです。
ですから、それ以後は、資質的に違和感を感じないスターンとの共演が増えたのではないでしょうか。
ただし、その事が結果として「時代錯誤」としか言いようのないバッハを生み出すことになってしまいました。
私は常日頃、ピリオド演奏による青白い音楽の悪口ばかりを書いているのですが(^^;、それでも、これはさすがに古いと言わざるを得ません。
グールドとのコンチェルトに限って言えば、そのグールドのピアノのおかげでそこまでの「古さ」からは免れているのですが、スターンとの演奏となると、お互いの気質が被さりあって、とんでもなく「大トロ」のバッハになってしまっているのです。
何しろ、スターンという親分さんは、セル&クリーブランド管と組んで録音したモーツァルトでも、「モーツァルトって後期ロマン派か!!?」と突っ込みを入れたくなるほどに濃厚でねちっこいヴァイオリンを聞かせてくれました。
バーンスタインと言えば、直線的でパワフルなニューヨーク時代、濃厚でねちっこいウィーンフィルを中心とした客演の時代と二分されるのですが、こういう録音を聞いていると、彼の本性はこの濃厚でねちっこい方だったのではないかと思ってしまいます。
バッハという音楽家はどこまで行っても対位法の人でした。
何本ものラインが精妙に絡まり合いながら一つの世界を描き出していくのがバッハの音楽です。
ところが、ここではその横に流れていくラインが縦に積み直されています。
この分厚くてボッテリとしたバッハは半世紀前に持っていってもそれほど違和感を感じずに受け入れられることでしょう。
そして、バーンスタインほどの才能がバッハに関してはどうしてこうなってしまったのかは不思議と言うしかありません。
彼ほどの才人であっても相性というものがあるのでしょうか。
そして、70年代以降はほとんどバッハには手を出さなかったのですが、それこそがバーンスタインならでは見識だったのかも知れません。
なお、ここでオーボエの独奏をつとめている「ハロルド・ゴンバーグ」は、1940年代から70年代にかけてニューヨークフィルの首席オーボエ奏者をつとめた伝説のオーボエ奏者でした。こういう演奏を聞くと、彼が50年代に現代音楽を中心としたプログラムを押しつけてきたミトロプーロスと厳しく対立し、トロプーロス反対運動の中心人物になったことも分かるような気がします。
つまりは、この3人、スターンにバーンスタイン、そしてゴンバーグはピタリとベクトルが一致しているのです。
それもまた、楽しからずや、なのです。
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