クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでベーム(Karl Bohm)のCDをさがす
Home|ベーム(Karl Bohm)|R.シュトラウス:交響詩「ドンファン」 作品20

R.シュトラウス:交響詩「ドンファン」 作品20

カール・ベーム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1963年4月録音



R_Strauss:Don Juan - Symphonic poem for Orchestra Op.20


シュトラウスの交響詩第1作

交響詩の歴史を振り返ってみると、ベルリオーズに源を発し、それをリストが引き継いで、リヒャルト・シュトラウスが完成させたといっていいでしょう。そんな、完成者シュトラウスの交響詩第1作となったのがこの「ドン・ファン」です。もっとも、作品そのものとしてはすでに「マクベス」が完成していたのですが、ビューローの忠告で改訂することとなったために、この「ドン・ファン」が最初の完成作品となったわけです。

ドン・ファン伝説はスペインで生まれたものですが、その後ヨーロッパ全体に広がっていき、ついにはあのモーツァルトでさえオペラの題材として取り上げるまでになります。もちろん、音楽の分野だけでなく、詩や戯曲にも幅広く取り上げられていくようになります。
言うまでもなく、ドン・ファンとは好色な貴族として描かれ、それは17世紀のスペイン宮廷の色と欲に満ちた権力者たちへの痛烈な皮肉・風刺として生み出されたものでした。
しかし、そのドン・ファン伝説は時代とともに次第に変容していきます。特に、19世紀に入って、ドイツの詩人レーナウが描いた「ドン・ファン」は、求めても求め得ない至高の女性を追い求める理想主義的な人物として描かれるようになります。ですから、レーナウの描くドン・ファンはモーツァルトのオペラのように地獄に落ちるのではなく、「薪は尽きたり。炉辺は暗く寒くなれり」と呟いて、一人寂しくこの世を去っていくことになります。

シュトラウスがその物語に共感して音楽化を思い立ったドン・ファンは、好色な貴族としてのドン・ファンではなく、レーナウが描く寂しい理想主義者としてのドン・ファンでした。ですから、モーツァルトのように華々しい「地獄落ち」でクライマックス!!・・・と言うことはなく、静かに消え入るように音楽は閉じられます。
専門家の言によると、シュトラウスの交響詩は「客観化」の時代から「主観化」の時代、そして最後に「普遍化」の時を過ぎて、次の「オペラ」の時代へと遷移していくそうです。何だか、よく分からない話ですが、要は、交響詩を作り始めた初期の時代は、作品と私生活の間にはあまり関連性がないと言うことです。

確かに、「死と変容」にしても、彼は死の危険を感じるような重病を経験したわけでもありませんし、この「ドン・ファン」にしても理想の女性を追い求めて破滅的な人生に陥る危険に遭遇したわけでもありません。
一説によると、この作品には、将来彼の妻となるパウリーネとの関係が投影していると言われますが、二人はこの後目出度くゴールインして終生幸福な結婚生活をおくるようになるのですから、あまり深読みは禁物かもしれません。
個人的には、後の自己顕示欲の塊みたいな「英雄の生涯」なんかを書くようになるシュトラウスよりは、音楽のドラマとしてスマートに、そして客観的に描ききった初期作品の方が好みです。


オケの隅々にまで己の意志を貫徹させているベームの姿が浮かび上がってきます

ベームとリヒャルト・シュトラウスの間には強い結びつきがありました。そして、彼の死後、その評価がどれほど低下しても、彼が残したリヒャルト・シュトラウスの歌劇、および管弦楽作品に関してはその価値を失うことはないでしょう。
特に、1963年にベルリンフィルを相手に録音した「祝典前奏曲」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」「ドン・ファン」「サロメの踊り」は注目に値します。それともう一つ、58年にもベルリンフィルと「ツァラトゥストラはこう語った」を録音していますね。
それらの録音は、レガート・カラヤンに染まりきる前のベルリンフィルの美質を最大限に生かした演奏と録音でした。

ベームの録音をまとめて聞いてみると、一つの特徴が浮かび上がってきます。
それは、どの録音を聞いても、オケの響きが透明で、なおかつしなやかな「剄さ」を持っていることです。「つよさ」というのは「強さ」ではなくて「剄さ」という漢字を当てたくなるような「つよさ」です。
「剄さ」とは体の奥底から大きなエネルギーとしてあふれ出していくようなイメージです。

その反面として、ベームの演奏するリヒャルト・シュトラウスからは、シュトラウスらしい官能性や艶のようなものは希薄です。いや、もっと正確に言えば、そう言うものは求めていけません。
ベームにとっては、相手がリヒャルト・シュトラウスであっても、その音楽は常に「男気」があふれているのです。

おそらく、オケからこのような響きを出すためにネチネチとした細かい指示を与え続け、その要求が満足できるまでしつこく粘り続けた事は間違いありません。
何故ならば、オケの精緻な響きで聞かせるベームのような指揮者にとって必要なのは細部の丹念な積み上げです。そういう指揮者にとって必要なのはネチネチとした細かい指示を与え続け、その要求が満足できるまでしつこく粘り続ける体力と精神的スタミナこそが重要です。
そして、その様なしつこいまでの注文に応えきれる高い機能を持ったオケがベームには必要でした。


ベームという人は基本的には腕利きの職人だったんだと思います。
そんな優れた職人の技が遺憾なく発揮されているのが、この一連の録音であることは間違いありません。
壮年期の覇気に満ちたこれらの録音では、オケの隅々にまで己の意志を貫徹させているベームの姿が浮かび上がってきます。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



3859 Rating: 4.6/10 (51 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-05-17]

リスト:ペトラルカのソネット104番(Liszt:Deuxieme annee:Italie, S.161 Sonetto 104 del Petrarca)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-05-15]

サン=サーンス:ハバネラ Op.83(Saint-Saens:Havanaise, for violin & piano (or orchestra) in E major, Op. 83)
(Vn)ジャック・ティボー (P)タッソ・ヤノプーロ 1933年7月1日録音(Jacques Thibaud:(P)Tasso Janopoulo Recorded on July 1, 1933)

[2024-05-13]

ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437(Johann Strauss:Emperor Waltz, Op.437)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-05-11]

バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119(Bartok:Piano Concerto No.3 in E major, Sz.119)
(P)ジェルジ・シャーンドル:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1947年4月19日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Eugene Ormandy The Philadelphia Orchestra Recorded on April 19, 1947)

[2024-05-08]

ハイドン:弦楽四重奏曲第6番 ハ長調 ,Op. 1, No. 6, Hob.III:6(Haydn:String Quartet No.6 in C Major, Op. 1, No.6, Hob.3:6)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2024-05-06]

ショーソン:協奏曲 Op.21(Chausson:Concert for Violin, Piano and String Quartet, Op.21)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッテ ギレ四重奏団 1954年12月1日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Guilet String Quartet Recorded on December 1, 1954)

[2024-05-05]

スカルラッティ:20のソナタ集(4)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

[2024-05-04]

スカルラッティ:20のソナタ集(3)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1939年1月9日,11日&12日録音(Wanda Landowska:Recorded on January 9,11&12, 1939

[2024-05-03]

スカルラッティ:20のソナタ集(2)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

[2024-05-02]

スカルラッティ:20のソナタ集(1)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)