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Home|アンチェル(Karel Ancerl)|リスト:交響詩「前奏曲」S.97

リスト:交響詩「前奏曲」S.97

カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1964年12月録音



Liszt:Symphonic Poem "Les Preludes"


人生は死への前奏曲

交響詩という形式はリストの手になるものと言われています。それだけに「フン族の戦争」などというけったいな題名のついた作品をはじめとして実にたくさん作曲しています。しかし、その殆どはめったに演奏されることはないようで、録音もあまりお目にかかりません。
そんな中で、唯一ポピュラリティを獲得しているのがこの「プレリュード(前奏曲)」です。

これはフランスの詩人ラマルティーヌの「詩的瞑想録」に題を得たものだと言われています。ものの本によると(^^;、リストはスコアの扉にこのように記しているそうです。

「人生は死への前奏曲でなくて何であろうか。愛は全ての存在にとって魅惑的な朝である。しかし運命は冷酷な嵐によって青春の幸福を必ず破壊してしまう。傷つけられた魂は孤独な田園生活にその慰めを見いだすが、人はその静けさの中に長くいることに耐えられない。トランペットの警告がなりわたるとき、すべての人は自分自身の意義を求めて再び闘いの中心に飛び込んでゆく」

こう言うのを読むと、何か人生で辛いことがあったのかな、などと思ってしまいますが、調べてみるとこれが作曲されたときは、2番目の愛人となったヴィトゲンシュタイン侯爵夫人との同棲生活に入って、もっとも幸せの絶頂にいたころなんですね。
でも、考えてみるとこれは当然のことで、不幸のどん底にいる人が「人生は死への前奏曲である・・・・」なんて言って曲作りをするなんて不可能です。

自分がそういう不幸とは一番遠いところにいるからこそ、逆にこのようなテーマで曲作りが出きるのだと言えます。
そして同時に、こういう大仰な物言いの中から、いわゆる「ロマン派的な価値観」が垣間見られるような気がします。


アンチェルにとってのザッハリヒカイトは音楽の本質に迫るための結果であったのかもしれません

アンチェルの業績を振り返るときに、このような小品の録音はそれほど大きな位置は占めないでしょう。
しかしながら、小品というものはその短い時間の中で完結しているが故に、それを演奏する人の本質的な部分がより凝縮してあらわれるものです。

アンチェルは、敢えて分類するならばザッハリヒカイトなスタイルを踏襲した指揮者と言えるでしょう。
しかしながら、それはトスカニーニからライナー、セルへと繋がっていく系譜とよく似通ってるように見えながら、その本質的な部分において全く異なるようなものを持っているような気もします。
それは、トスカニーニやライナー、セルがヨーロッパに出自をもちながらも、長いアメリカでの活動を通して全く新しいスタイルを確立していったと言うことが影響しているのかもしれません。

しかしながら、それではドイツの「ミニ・トスカニーニ」と言われた若い時代のカラヤンと似ているのかと言えば、それもまた随分と異なります。

アンチェルの音楽を聞いていて、いつも感心させられるのはその純度の高さです。
いや、トスカニーニ以降のザッハリヒカイトの流れというのは、ロマン主義的歪曲を排除することによって音楽の純度を高めることだったのですから、それは当然と言えば当然のことだったのかもしれません。ですから、より正確に言えば、彼らが指向する純度と、アンチェルが指向した純度とでは本質的な部分において違いがあると言うことなのです。

そこで気づくのは、トスカニーニしてもライナーにしてもセルにしても、彼らはまず音楽のアンサンブルを極限まで高めることからスタートしたと言うことです。作曲家の意志に忠実に、楽譜に忠実にと言うことであれば、まずは忠実に演奏できるように徹底的にオケを鍛えることが必要だったのです。
もちろん、彼らはそれで事足れりなどとは思ってはいなかったのですが、とにもかくにも、その事が完璧に実現できなければ一歩も前に進まなかったのです。
それは、セルが手兵のクリーブランド管について「私たちは他のオケならばリハーサルを終える時点からリハーサルを開始する」と豪語したことを思い出させます。

おそらく、若い時代のカラヤンも同様だったと思うのですが、彼らはまずは音楽の外形からアプローチを開始したのです。例えてみれば、それは外堀から埋め立てていって本丸に至ろうとするアプローチだったのかもしれません。
話が脇にそれますが、彼ら以降に星の数ほど生み出された「楽譜に忠実な演奏」の少なくない部分がつまらないのは、そうやって何とか外堀を埋めただけで作業をやめているからです。

しかし、アンチェルが実現した「純度」を吟味してみれば、そのアプローチをは全く異なるものだった事に気づきます。
彼は何よりも音楽の本質を直感的に把握し、そこからスタートしたように見えるのです。
そして、その本質的なものを磨き上げ純度を高めるためにオケのアンサンブルを要求しているように聞こえるのです。

トスカニーニ達にとってザッハリヒカイトというアプローチが音楽の本質に迫るための手段であったとするならば、アンチェルにとってのザッハリヒカイトは結果であったのです。

もちろん、どちらが良いとか悪いとか言う話ではありません。
しかし、そう言うアンチェルのアプローチがもたらす音楽には、彼以外では聞くことのできない魅力に溢れていることは間違いありません。
そして、そう言う魅力がストレートに伝わってくるのがこういう一連の小品の録音なのです。

ただし、このジャケット凄いな・・・は虫類が苦手な人はそれだけで手を引っ込めそうだと思うのですが(^^;

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