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メンゲルベルグ(Willem Mengelberg)|スッペ:序曲「詩人と農夫」
スッペ:序曲「詩人と農夫」
ウィレム・メンゲルベルク 指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団 1932年5月11日録音
Suppe:Poet And Peasant, Overture
オペレッタの序曲と言われるのですが、じつは正体不明の音楽です
![](../Jacket_record/Willem_Mengelberg/Willem_Mengelberg_1.jpg)
スッペの作品と言えば、こんな風に書かれるのが一般的です。
存命中はウィーンを中心に指揮活動を展開し、100を超えるオペレッタやバレエ音楽を作曲しました。
実はウィーンでオペレッタを作曲した最初の人はこのスッペであって、「ウィーンオペレッタの父」と呼ばれることもあります。しかし、彼の死後、それらの作品のほとんどは忘れ去られ、現在では演奏される機会はほとんどありません。
おそらくは、「詩人と農夫」や「軽騎兵」序曲などで一般によく知られているくらいです。
しかしながら、実際はヨーロッパの劇場ではけっこうしぶとく上演される機会があるようです。気楽な一夜の楽しみとしては十分なクオリティは持っていると言うことなのでしょう。
「軽騎兵」序曲に代表されるように、オーケストラの威力を誇示するにはピッタリの音楽もたくさん書いているので、大衆受けする能力にも溢れていたと言うことです。
そんなスッペの人気曲の一つがこの「詩人と農夫」です。
そして、この作品もまたオペレッタは忘れ去られたものの「序曲」だけは今もコンサートで取り上げられますと言われるのですが、実のところを言えばその正体が実に曖昧なのです。
なぜならば、本体のオペレッタの方は「忘れ去られる」どころか「楽譜」そのものが残っていないのです。
そして、残っているのがこの「序曲」と「ワルツ」だけなので、この作品はオペレッタではなくて「詩人と農夫」という「劇」につけられた付随音楽だったのではないかという人もいます。
ところが、そうだったとしても、その肝心の「詩人と農夫」なる「劇」のストーリーすらも不明なのです。
創作年代を見てみると、彼が本格的にオペレッタを書き始める前の作品なので、今では全く忘れられ散逸してしまった劇作品に対して習作的に音楽をつけたものだったのかもしれません。
全体は6つの部分に分かれた「接続曲」というスタイルをとっているのですが、耳に心地よい魅力的な旋律やオケが豪快になる場面などがふんだんに用意されていて、聞くものの心をとらえる術に長けたスッペの姿がはっきりと刻み込まれています。
原典尊重の絶対性を信じて突っ走ってきた先にあらわれた「世界の価値」を問い直す
ある方からいただいたコメントをお借りすれば「小曲はその短い中で仕上がっているだけに演奏する側の力量もハッキリ出る」と言えます。そして、その力量というのは交響曲のような大曲を演奏するときの力量とはまた違う面があるようです。
それは、最初の一瞬において作品が持っている世界に聞き手を誘っていく能力と言っていいのかもしれません。
そう言えば、「藤圭子」や「ちあきなおみ」などという歌い手は、そう言う世界に聞き手を引きずり込む術に長けていました。
「十五、十六,十七と 私の人生暗かった」とか「いつものように幕が開き 恋の歌うたうわたしに」と歌い出すだけで、そこに全く新しい世界を描き出す力を持っていました。そして、そう言う歌い手もまたほとんど亡んでしまったように思えるのです。
おそらく、今の偉い指揮者なんかはスッペの「詩人と農夫」みたいな作品は馬鹿にして見向きもしないでしょう。
そして、ここでもまた演歌の世界と同じように、メンゲルベルクのように演奏できる指揮者はもう一人もいないことは確かです。そして、その事は「天下の変人」と言われたビーチャムでさえも、このメンゲルベルクと較べてみればあれこれと不満を覚えてしまうほどなのです。
その不満とは何かと問われれば、おそらくそれは「薄さ」という言葉で表現できるでしょうか。「表現」そのものが薄くて、さらにはこれが決定的なのですが、オケの響きがコンセルトヘボウとは較べようもなく薄いのです。
ただし、その「薄さ」は人によっては「上品」だと感じるムキもあるでしょう。
裏返せば、メンゲルベルクは「下品」と言うことになります。
しかし、この「下品」さの何と素敵なことでしょう。
そうは思われないでしょうか?
メンゲルベルクという人の音楽を今という時代に聞くという行為は、ひたすら楽譜に忠実に、そして、作曲家の意志に忠実に従うことこそが絶対に正しいのだと信じて突っ走ってきた先にあらわれた「世界の価値」を問い直すことなのでしょう。
もちろん、それで良かったという人もいれば、いやいや、味気ない世の中になったものだとぼやく人もいるでしょう。
どちらが正しいかなどという論議は不毛ではあるのですが、しかし、クラシック音楽と言えども芸の世界である以上は、とても大切な片側の世界を失ってしまっていることだけは否定できないようです。
それから、最後になりましたが、1932年録音のメンゲルベルク盤の音の良さには驚かされました。
TPP11の発効に伴って来年からは新しくパブリックドメインの仲間入りをする音源がなくなってしまうのですが、既にパブリックドメインになっている音源だけでも当分の間は楽しい時間が過ごせそうです。
この演奏を評価してください。
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