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ドリーブ:バレエ組曲「シルヴィア」

ピエール・モントゥー指揮 ボストン交響楽団 1953年12月30日~31日録音



Leo Delibes:Sylvia Ballet Suite [1.Prelude et Les Chasseresses]

Leo Delibes:Sylvia Ballet Suite [2.Intermezzo et Valse lente]

Leo Delibes:Sylvia Ballet Suite [3.Pas des Ethiopiens]

Leo Delibes:Sylvia Ballet Suite [4.Chant bacchique]

Leo Delibes:Sylvia Ballet Suite [5.Pizzicati]

Leo Delibes:Sylvia Ballet Suite[6.Cortege de Bacchus]


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ハッピー・エンドかアン・ハッピー・エンドか

このバレエ作品はチャイコフスキーに絶賛されながらも長く忘れ去られていたのですが、1952年にフレデリック・アシュトンの振付で再演される事で復活しました。
最初の振り付けとそれに伴うストーリーがどのようなものだったのかは分からないので確たる事は言えないのですが、アシュトンの振り付けは物語を非常にシンプルで分かりやすいハッピー・エンドの物語にしていることは事実です。

このバレエの軸となる登場人物は狩りを好み純潔を尊ぶニンフであるシルヴィアと、そのシルヴィアに恋心を抱く狩人のアミンタの二人です。
そこに、シルヴィアが仕える狩りと貞節の女神ディアナ、シルヴィアを連れ去って誘惑する狩人のオリオン、そして愛の神エロスが脇を固めます。

第1幕では、こういうお話の約束としてシルヴィアとアミンタは出会って恋におちるのですが、ディアナの教えに従って純潔を尊ぶシルヴィアはアミンタを拒否します。そして、愛の神エロスも巻き込んでいざこざが起こるのですが、そのいざこざの中でアミンタは胸に屋矢受けて命を落とし、それを嘆き悲しむシルヴィアはオリオンに連れ去られてしまうのです。

続く第2幕では、オリオンが酒や財宝でシルヴィアを誘惑するのですがシルヴィアはそれら全てをはねつけて拒否します。そして、逆に酒オリオンに酒を飲ませることで前後不覚にしてしまいます。
一方、エロスの神の力によって生き返ったアミンタはシルヴィアを連れ戻すためにディアナの神殿に向かいます。

最後の第3幕では、エロスの神に助けられたシルヴィアはディアの神殿でアミンタと再開します。しかし、そこへシルヴィアを取り戻そうとオリオンが乗り込んできてアミンタに決闘を申し込みます。
しかし、その様な乱暴な行為を怒ったディアの女神はオリオンを打ち倒し、さらにはシルヴィアとアミンタの愛も貞節に背くものとして引き裂こうとします。
そこへエロスの神が再び現れて、若き日にディアナが愛した青年のことを思い出させます。
そして、その思い出は頑ななディアナの心を解き放ち、ついにはディアナの神意によって二人は幸せに結ばれて幕がおります。

こう書いていても恥ずかしくなるほどに(^^;単純明解な、ハリウッド版の恋愛映画のようなストーリーです。
多くの人は眉間にしわを寄せるために劇場に行くのではないのですから、埋もれていた作品を復活させるためにはこれくらいのシンプルさとハッピーさが必要だったのでしょう。

しかし、この「シルヴィア」がバレエ作品の定番として定着してくると、もう一歩踏み込んだ演出と振り付けがしたくなるのも「芸術家」の性でしょう。
最近では、パリ・オペラ座で上演された「ジョン・ノイマイヤー」の振り付けが新局面を切り開いています。

そこでは、この単純なハッピーエンドの物語はかなり「苦く」なっています。

まず、貞節を司る狩りの女神ディアはかつて美しい牧人を愛したことがあり、それを封印するために彼を永遠の眠りにつかせた過去を持っていることになっています。
さらに、アシュトン版ではシルヴィアはオリオンに連れ去られたことになっているのですが、ノイマイヤー版ではオリオンの魅力に抗しきれずに自らディアナとアミンタを捨てて、自らオリオンのもとにおもむくことになっているのです。

そして、ディアナはそんな彼女のもとを訪れて再び貞節を誓わせようとするのですが、シルヴィアはそれを拒否してさらに享楽の世界に溺れていくのです。

こうなると、ハリウッド版恋愛映画ではなくて、ドロドロの昼メロの世界に近づいていくことになります。
そして、ノイマイヤー版ではそこから一気に年月が流れ去って、髪に白いものが交じるようになったアミンタが登場して、未だ消えぬシルヴィアへの思いを吐露するのです。
そして、冬枯れのわびしい景色の中で、旅姿のシルヴィアとアミンタは再開を果たすのですが、かつてのように愛し合うことが出来ないことを悟ったシルヴィアはアミンタを残して去っていくのです。

このあたりから昼メロの世界が一気にシリアスな物語へと転調していきます。

ディアナはそんなアミンタに再び矢を向けようとするのですが、エロスの神はその手から矢を奪って去っていきます。
深い孤独の中でディアナはかつて愛した若い牧人の手を取ろうするのですが、彼女に付き従うニンフ達の声が聞こえてきたので、彼女は意を決したようにその手を離してしまいます。
ディアナは永遠の狩猟と貞節の女神として森の中に一人立ちつくして幕はおりるのです。

おそらく、アシュトン版であるならば、舞台を一度見ただけでそのストーリーは容易に理解できるでしょう。
しかし、言葉を全く用いないバレエという表現形式でノイマイヤー版のストーリーを一度で理解するのは難しいでしょう。

それだけに、興業としてその様なチャレンジは勇気あるものと言えます。
しかし、その事は同時に、ドリーブの音楽にその様な多様な解釈を許容する厚みがあると言うことを証明してみせた試みだったとも言えます。


モノラルからステレオに録音のフォーマットが切り替わる分岐点に位置した歴史的録音

バレエ指揮者というのはコンサート指揮者と較べると一段落ちるように見られる傾向があります。しかし、例えばフィストラーリの手になるバレエ音楽などを聞いていると、いわゆるコンサート指揮者がつくり出す「立派なバレエ音楽」とは異なる魅力があることに気づかされます。
もちろん、モントゥーは偉大なコンサート指揮者なのですが、ディアギレフのロシア・バレエ団で指揮を担当したことがスタート地点でした。

とは言え、その業績は凄くて、ストラヴィンスキーの「春の祭典」や「ペトルーシュカ」、さらには、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」などの初演を担当したのですから、それはもう20世紀のバレエ音楽にとっては伝説的存在といえます。
おそらく、バレエ音楽というのはその様な劇場での経験がなければ表現できない何ものかがあるのでしょう。
ですから、このドリーブのバレエ音楽もまた、気品あふれるロマン性で彩っているなどと言うことを今さら付け加えるのは野暮というものでしょう。

ですから、ここでは演奏に関わる話はなしにして、録音に関わる話を取り上げたいと思います。

録音のクレジットを見ていると不思議なことに気づきます。


  1. コッペリア 「前奏曲とマズルカ」:1953年12月2日録音

  2. バレエ組曲「コッペリア」:1953年12月2日&4日録音

  3. バレエ組曲「シルヴィア」:1953年12月30日~31日録音



コッペリアは53年12月の2日と4日に録音をしています。シルヴィアの方は同じく12月の30日と31日に録音しています。
ところが、コッペリアの「前奏曲とマズルカ」だけが、12月2日に録音された別ヴァージョンが存在しているのです。そして、この別ヴァージョンの方は「ステレオ録音」なのです。

そして不思議な事に、同じ演奏を「ステレオ録音」と「モノラル録音」で録音したのではなくて、演奏そのものが異なるのです。ですから、最初に別ヴァージョンと書いた次第なのです。

こういう録音のフォーマットに関わる昔話をすれば、RCAはSP盤からLP盤に切り替わるときにColumbiaに大きく遅れをとってしまいました。
そして、その失敗を教訓に、今度はモノラル録音からステレオ録音に切り替わるときには同じ轍を踏まないように肝に銘じていました。

ですから、RCAはかなり早い時期からステレオによる実験的録音を始めていて、この1953年12月2日に録音されたコッペリアの「前奏曲とマズルカ」は、RCAにとっては現存するもっとも古いステレオ録音らしいのです。
冒頭部分に雑音が混じるのはマスターテープの保温状態が悪かったのかも知れませんが、それだけでなく、いかにステレオであってもいささか冴えない録音であることは否定のしようがありません。
とりわけ、別ヴァージョンの「モノラル録音」と較べることが可能なだけに、その違いは歴然としてしまいます。

ここからは全く想像ですが、おそらくは一番最初に実験的に「前奏曲とマズルカ」の録音を行ったのだろうと思います。
しかし、それをプレイバックして聞いてみれば、指揮者であるモントゥーは満足できなかったのでしょう。おそらく、録音スタッフもがっかりしたと思われます。

RCAの録音陣はこのコッペリアの組曲を全てステレオで録音するつもりでいたのかどうかは分かりません。
しかし、モントゥーにしてみれば、そんな海のものとも山のものとも知れない技術で自分の音楽が録音されることには疑問もあったでしょうし、プレイバックで聞いてみたステレオ録音もまたそのような疑問をさらに深める結果になったのでしょう。

結果として、その後の録音はモノラルで行われ、モノラル録音による完成形とも言うべき素晴らしい音質に仕上がっているのです。
いかにステレオ録音であっても、この当時の到達点では未だモノラル録音の牙城に迫るレベルにまでは達していなかったのです。

しかし、それ故に感心させられるのは、このレベルのステレオ録音の向こうに大きな可能性があることを見いだして、それをものにしていったたRCA録音陣の執念とセンスです。
ColumbiaにしてもEMIにしても、彼らはモノラル録音に執着しすぎてステレオへの移行では大きく遅れをとったと言われるのですが、このステレオとモノラルによる2種類の「前奏曲とマズルカ」聞けば、それもまたやむを得なかったのかなと思ってしまいます。

そして、有り難いのは、ステレオ録音による「前奏曲とマズルカ」が後年になってから商品としてリリースされたことです。
おそらく、ステレオという新しい技術に向かって無我夢中で取り組んでいた時代の証しとして捨て去るには忍びなかったのでしょう。
しかし、そのおかげで私たちは、モノラルからステレオに録音のフォーマットが切り替わる分岐点に位置した歴史的録音に接することが出来たのです。
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