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チャイコフスキー:イタリア奇想曲作品45

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1966年10月13日録音 

Tchaikovsky:Italian Capriccio in A major, Op.45




気力・体力ともに充実した時期の作品

メック夫人からの不思議な資金援助で音楽院の仕事から解放され、さらには不幸な結婚生活の失敗からも立ち直って、気力・体力ともに充実した時期の作品です。
作品は、通して演奏されるのですが、細かく見ていくと5つの部分に分かれます。

<第1部:アンダンテ・ウン。ポーコ・ルパート>
冒頭のトランペットのファンファーレが印象的です。この旋律は、チャイコフスキーがローマに滞在しているときに聞こえてきた騎兵隊のラッパの響きに由来していると言われています。やがて、イタリア民謡「美しい娘さん」の旋律もあらわれて、イタリアの南国的情緒が大きなクライマックスを迎えます。

<第2部:アレグロ・モデラート>
音楽は4拍子になって優美な雰囲気に変わります。ここは、結構しつこく強弱記号が書き込まれていて、それをどのように受け取ってどのように扱うのかは指揮者によってかなり差が出る場面でもあります。
音楽は、再び第1部の旋律が登場して第3部へと引き継がれます。

<第3部:プレスト>
管楽器がメインとなって印象的なタランテランの旋律を歌います。タランテランとはナポリ発祥の舞曲で、ここで音楽はまた6拍子に戻り快活に踊り出します。

<第4部:アレグロ・モデラート>
音楽3拍子になって落ち着きを取り戻し、第1部の民謡の旋律が重厚な響きで荘重に歌い上げられます。

<第5部:プレスト>
音楽は再び6拍子に戻って第3部のタランテランのの旋律が帰ってきます。ピアニシモで始まった音楽は次第に力をしていきクライマックスを迎えます。そして、その後に短い経過句を経て音楽は2拍子になって怒濤の終結に突き進んでいきます。

と言うことで、非常に分かりやすい構成、華やかなオーケストレーション、そして何よりも魅力的で美しい旋律が散りばめられているので、初演の時から絶賛されました。
なお、この作品はイタリア旅行の時に着想され、そのスケッチをもとに帰国後に完成されています。イタリア旅行の時のチャイコフスキーはそのあまりの刺激と魅力で舞い上がっていて、父の訃報に接しても帰国せず葬儀にも参加しないほどだったので、それはきわめて賢明な判断だったと言えます。

ベルリンフィルの鬼のような合奏能力を誇示するには十分すぎる録音


カラヤンはいつものように1966年の夏もサンモリッツで夏のバカンスを過ごし、それを8月23日で切り上げた後はすぐにワーグナーの「ワルキューレ」という大物の録音に取り組んでいます。
そして、その録音も9月中に目処をつけると、10月からはチャイコフスキーの録音を開始します。


  1. 弦楽セレナーデ ハ長調作品48:1966年10月6日

  2. 交響曲第4番ヘ短調作品36:1966年10月7、8、15日

  3. 幻想序曲「ロメオとジュリエット」:1966年10月12日

  4. 序曲「1812年」作品49:1966年10月12日(12月29日)

  5. スラヴ行進曲作品31:1966年10月13日

  6. イタリア奇想曲作品45:1966年10月13日

  7. バレエ「くるみ割り人形」組曲作品71a:1966年10月13日(12月26日)



これらは既にフィルハーモニア管やウィーンフィルとの間で録音している作品ばかりです。
そう言うチャイコフスキーの作品をこの時期にまとめて録音するというのは、漸くにして満足のいくレベルにまで育て上げたベルリンフィルという楽器の性能を思う存分発揮してみたかったのでしょう。

もちろん、こういう作品は「売れ筋」ですからレーベル側からの要望もあったことでしょう。
そして、カラヤンはそう言う要望をはるかに上回るクオリティで演奏し、録音してみせたのです。

なお、何曲かは12月に少し録りなおしているのですが、それはこの直前の8月から9月にかけて録音したワルキューレを年末に録りなおしているので、その流れの中で不備を感じる部分を手直ししたのでしょう。

それにしてもカラヤンという男は実に周到な準備を行う男であり、こういう一見すれば無味乾燥な録音クレジットの背後から、彼が一貫して隠そうとしてきた「努力」の後がにじみ出てきます。
おそらく、彼はサンモリッツで夏の休暇を優雅に過ごしているようにみせながら、その影で秋からの録音の準備を周到に行っていたはずです。

例えば序曲「1812年」にドン・コサック合唱団を使った「合唱」を導入することなどは、その場の思いつきで出来ようはずがありません。

とは言え、これらの録音は、それ以前にウィーンフィルなどを使って録音したレコードに対して圧倒的な優位性を主張できるものでないことも事実です。ただし、それはこの一連の録音がつまらないというのではなくて、既に録音されたウィーンフィルやフィルハーモニア管との録音の完成度が極めて高かった事の裏返しなのです。

どなたかが指摘されていたのですが、カラヤンという男はレコードカタログのトップに「カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」の録音が掲載されていなければ我慢できない人だったようです。ですから、こうして周到に準備を行って手際よく仕事をこなしていかなければ、その「野望」を実現する事は不可能だったのです。

しかし、そう言う「野望」に基づく周到な録音というのは、悪くすれば「ルーティンワーク」に陥ってしまう危険性を内包しています。
あくまでも私見ですが、最後に録音されたであろう「くるみ割り人形」の組曲ではそう言う雰囲気が漂っているような気がします。

とは言え、全体としてみれば見事なまでに完成度の高い演奏であり、ベルリンフィルの素晴らしい合奏能力を誇示するには十分すぎる録音です。
そして、50年以上が経過した今という時代から眺めてみてもその事を痛感するのですから、この演奏と録音を60年代という同時代に体験すれば、多くの人は打ちのめされるような驚きを感じたはずです。

音楽作品に対する評価というのは「音楽史」の流れの中で為されるのが常識です。
例えば、モーツァルトのピアノ作品に対して、「僅か5オクターブの音域の中で完結してるこぢんまりとしたつまらぬ音楽だ」と言えばそれはもう「阿保」です。

しかし、「演奏」という行為に関しては「演奏史」のようなものを念頭に置いて論じるという意識は希薄でした。
それは、演奏というものが作品のように「形」として残らないからでした。

それが、辛うじて「形」として残るようになったのは「録音」という技術が発明されたからなのですが、それも「歴史」を語れるほどの積み重ねを持つには至っていませんでした。

しかしながら、古い歴史的録音を漁っていて気がつくのは、1930年代以降の録音であれば、そこから十分に「演奏」の「形」を判断できるクオリティを持っていると言うことです。そして、この意見に同意してもらえるならば、あと10年もすれば「演奏」という行為にも「録音」という技術によって1世紀の積み重ねが実現することになります。
そして、100年という時間の積み重ねは、そこに「歴史」を見るには十分な厚みだと言えます。

オーケストラを徹底的に鍛え上げ、その結果としての合奏能力の凄みを前面に押し立てた演奏というのは、今という時代からそれを眺めるのと、60年代という同時代において眺めるのとでは、その衝撃の大きさは全く違ったはずなのです。
ですから、このような録音を取り上げて、上手いことは上手いけれども、今ならばこれくらい演奏できるオケは幾つかあるよね・・・等という言い方は「演奏史」を無視した物言いだと言われる時代が来るべきなのかも知れません。

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