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ブラームス:交響曲第1番

トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1951年11月6日録音




ベートーヴェンの影を乗り越えて

ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

 彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。


 この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

 確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
 しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

 彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
 音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

 しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
 嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
 好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

 ユング君は、若いときは大好きでした。
 そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
 かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
 それだけ年をとったということでしょうか。

 なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。

歌う人


 ドラマティックに演奏しようと思えば、いくらでもドラマティックに演奏できる作品です。しかし、下手をすると力みばかりが目立って鬱陶しくなってしまいます。作品そのものが既にある種の鬱陶しさを持っているのに、演奏までそれに輪をかけて鬱陶しくなってしまうと聞いている方はやりきれません。
 フルトヴェングラーやミンシュのように演奏したいという誘惑には誰しもかられるのでしょうが、凡人がなし得る業ではありません。さらに人間とは贅沢なもので、そう言うフルトヴェングラーやミンシュ(最近ではテンシュテット!)のようなすぐれものに対してでも、年を経るにつれてある種の「鬱陶しさ」を感じ始めて次第に聞く機会も減っていくという、ある意味では「実に困った」作品です。

 ところが、このトスカニーニの演奏にはそう言う「鬱陶しさ」まったく感じません。と言うことは、聞く人によっては「何もしていないじゃないか!」と言って物足りなさを感じてしまう事と裏表の関係にもなるのですが、年をとってしまったユング君には実に好ましく思える演奏であることを正直に告白しなければなりません。

 50年代のNBC交響楽団との演奏に関してはいろいろと疑問が呈されてきましたし、ユング君自身もトスカニーニを聞くなら30年代!と断言してきました。
 しかし、最近になっていろいろな復刻盤が出回るようになり、ガリガリの骨と皮だけの録音とは別物のような音質でよみがえってくると、少しばかり評価が変わってきました。
 確かに、どこかセカセカとしたテンポにはなじめない部分も残りますが、かつては骨と皮だけだった響きにしなやかな筋肉がまとわれてみると、今までは気づかなかった「歌」が浮かび上がってきます。そして、その歌はどこまでもしなやかで瑞々しく、とても80をこえた老人の手になるものとは思えません。
 おそらく、これほどまでにしなやかに歌いきったブラームスの1番は他には存在しないでしょう。
 そして、こういう演奏を聞くたびにトスカニーニの本質は「歌う人」だったんだと納得させられます。世間的には第4楽章の迫力を誉める声が多いのですが、ユング君にとっては2楽章のしなやかな歌がたまらなく魅力的です。


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