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マルグリット・ロン(Marguerite Long) |フォーレ:ピアノと管弦楽のためのバラード Op.19
フォーレ:ピアノと管弦楽のためのバラード Op.19
(P)マルグリット・ロン アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1950年10月30日録音 Faure:Ballade in F sharp major for Piano and Orchestra Op.19
冒頭の「Andante cantabile」を聞くだけでこの作品を聞く値打ちがある
若きフォーレによる華やかさも備えた作品であり、ともすれば「なんだかよく分からない」と言わざるを得ない晩年の作品とは一番遠く隔たった位置にある作品です。ところが世の中には、「わかりにくい=高尚」とでも言うようなスノッブな思いこみでも擦り込まれているのか、この作品をのことを「初期の未熟さと才能の萌芽が同時に示された作品」などと書いている人もいるのです。
私などは、冒頭のしみじみとした、どこか過ぎ去りし日々に思いを巡らせるようなメロディを聴くだけで、もう十分に心が満たされるのですが、それだけでは不十分なんでしょうか。
1877年の暮れに、フォーレはサン=サーンスの「サムソンとデリラ」の初演を見るためにヴァイマールに出かけるのですが、この時サン=サーンスの紹介によってフランツ・リストの知遇を得ます。そして、その縁もあってか、1882年にフォーレにはチューリヒにリストを訪ねてこの「バラード」を見てもらっています。
伝えられる話では、リストはピアノに向かい曲の冒頭を弾き始めたのですが、5~6ページ進むと「指が足りない」と言い出して演奏をやめてしまいます。そして、続きはフォーレに弾かせたのですが、「指が足りない」と言われたフォーレは非常なプレッシャーを感じながら続きを演奏したと後年の対談で語っています。
このエピソードのためにか、この作品はリストですら手こずらせたと言うことで演奏至難な作品と言われることもあるのですが、それは誤解です。
ピアニストにとっては易しい作品でないことは事実ですが、とんでもない難曲というわけでもないようです。
おそらく、リストが「指が足りない」と行ったのは、フォーレ特有の転調が理解できなかったものと思われます。そして、その事がフォーレの音楽を特徴づける最大の要因となっていくのですが、ここでは晩年ほどには「わけが分からない!!」と言う状態にはなっていません。
それでも、リストに「指が足りない」と言わせるだけの「晦渋」さはすでに健在だったわけであり、それ故にリストはこの作品をオーケストラ伴奏付きの作品に書き直すことをすすめます。
フォーレ自身もピアノ独奏曲としては煩わしいわりには演奏効果が上がらないと判断したようで、初演はオーケストラ伴奏版で行われました。
作品は通して演奏されるのですが、明らかに3つの異なる部分から出来ていることは容易に聞き取ることが出来ます。
冒頭の叙情的な旋律はフォーレが終生愛した音型でした。
4度から5度の下降跳躍の後に少しずつ上行していく音型は「比類なき叙情性」を感じさせますから、これを何度も多くの作品で活用したのです。そして、この「Andante cantabile」の部分を聞くだけで、この作品を聞く値打ちがあるというものです。
第一部(1~84小節 Andante cantabile→Allegro moderato)
エピソード(85~102小節 Andante)
第二部(103~159小節 Allegro)
エピソード(160~171小節 Andante)
第三部(172~264小節 Allegro moderato)
「緩」と「急」が交互に交錯しながら、最後は「Allegro moderato」で華々しく締めくくられるのもフォーレにしては珍しい音楽かもしれません。
ともすれば晦渋さが前面に出てしまうことの多いフォーレの音楽が、ここではそう言う影すらも感じさせない
ともすれば晦渋さが前面に出てしまうことの多いフォーレの音楽が、ここではそう言う影すらも感じさせない
なんの説明も必要もないほどに素晴らしい演奏です。
事あるごとに、「昔は良かった」と呟く年寄りの愚痴といわれようと、やはり、昔の演奏家は偉かったと言わざるを得ません。
シュナーベルのモーツァルトを聴いたときにも、つくづくと昔の演奏家は偉かったと感心したのですが、このマルグリット・ロンの演奏はそれ以上に感心させられます。
もちろん、その背景には、ロンとフォーレの深い結びつきがあったことは思い出しておく必要があります。何しろ彼女は「回想のフォーレ」という著述を残すほどに深い関係を築いていたのです。
しかし、それは交友があったから「お墨付き」が与えられているというようないい加減な話ではなくて、そう言う偉大な作曲家と五分につき合って論議できるほどの深い「知性」と「音楽性(いい加減な概念ですが)」を持っていたと言うことです。そして、そう言う交流のなかから生み出された作品分析は作品の外縁だけをなぞったような浅薄なアナリーゼとは全くレベルが異なります。
率直に言って、カサドシュとバーンスタインの演奏でこの作品を聞いたときには、音楽の流れが晦渋になってくると、演奏もまたどこへ向かおうとしているのかが曖昧になっているように感じるときがありました。
しかし、このロンとクリュイタンスとの演奏ではすべての音は意味ある流れの中で、あるべき場所に明確に位置づけられています。ですから、ともすれば晦渋さが前面に出てしまうことの多いフォーレの音楽が、ここではそう言う影すらも感じさせません。
こういうロンの演奏を聞くと、とかく晦渋さがあると言われるフォーレの音楽なのですが、その晦渋さの少なくない部分は演奏家の側に帰すべきかもしれないと思ってしまうほどです。
結局は、表面的なアナリーゼに基づいてピアノを正確に鳴らすだけでは、その奥に秘められているフォーレの真実には爪先すらもかからないのです。
それから、最後に付け足しみたいになってしまうのですが、クリュイタンスとバーンスタインでは、やはり「格」が違うようです。バーンスタインは音楽を威勢よく鳴らすことにかけてはすでに天下一品ですが、それを意味深く集中力を持って鳴らすとなると未だ道は通しという感じです。
バーンスタインとカサドシュの録音だけを聞いていたときにはそれほど不満も感じなかったのですが、こういう録音を聞いてしまうと、やはりこうでなくっちゃ駄目だよね!と不遜なことを感じてしまうのです。
そう言えば、歌舞伎なんかを見にいくと、「今日は良かった!」などと言おうものならば、年寄り連中から「先代をご存知でしたらね」などと憐憫のまなざしを向けられて嫌な思いをさせられるという話を聞いたことがあります。
しかし、そう言う嫌な思いも、こういう録音を聞かされるとそれなりの正当性はあるのかと思わざるを得ないのです。
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よせられたコメント 2020-11-09:小林正信 私は、この曲が大好きなのですが、最も好きな演奏は、カサドシュ&バーンスタインのものです。ロンの演奏は情緒纏綿として、バラードと言うタイトルにふさわしい解釈だと思いますが、カサドシュの過度な感情移入をしない演奏からは、天上的な清浄さを感じ取ることが出来、何度聴いても飽きることがありません。
もっとも、指揮者のバーンスタインの方が落ちるということは、否定できません。薄味すぎるというかやる気がないというか。。けれど、これも良いように取れば、余計な自己主張をしないことでカサドシュの澄み切った音楽の邪魔をせず、控えめに寄り添っているということも出来るかと思います。
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