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Home|ヴォルフガング・サヴァリッシュ(Wolfgang Sawallisch)|チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1962年1月11日~13日録音

Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [1.Andante - Allegro con anima]

Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [2.Andante cantabile con alcuna licenza]

Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [3.Valse. Allegro moderato]

Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor, Op.64 [4.Finale. Andante maestoso - Allegro vivace]


何故か今ひとつ評価が低いのですが・・・

チャイコフスキーの後期交響曲というと4・5・6番になるのですが、なぜかこの5番は評価が今ひとつ高くないようです。

 4番が持っているある種の激情と6番が持つ深い憂愁。その中間にたつ5番がどこか「中途半端」というわけでしょうか。それから、この最終楽章を表面的効果に終始した音楽、「虚構に続く虚構。すべては虚構」と一部の識者に評されたことも無視できない影響力を持ったのかもしれません。また、作者自身も自分の指揮による初演のあとに「この作品にはこしらえものの不誠実さがある」と語るなど、どうも風向きがよくありません。
 ただ、作曲者自身の思いとは別に一般的には大変好意的に受け入れられ、その様子を見てチャイコフスキー自身も自信を取り戻したことは事実のようです。

 さてユング君はそれではどう思っているの?と聞かれれば「結構好きな作品です!」と明るく答えてしまいます。チャイコフスキーの「聞かせる技術」はやはり大したものです。確かに最終楽章は金管パートの人には重労働かもしれませんが、聞いている方にとっては実に爽快です。第2楽章のメランコリックな雰囲気も程良くスパイスが利いているし、第3楽章にワルツ形式を持ってきたのも面白い試みです。
 そして第1楽章はソナタ形式の音楽としては実に立派な音楽として響きます。
 確かに4番と比べるとある種の弱さというか、説得力のなさみたいなものも感じますが、同時代の民族主義的的な作曲家たちと比べると、そういう聞かせ上手な点については頭一つ抜けていると言わざるを得ません。
 いかがなものでしょうか?


ベイヌムの時代と較べれば随分と開放的な感じでオケが鳴っていると感じられます

録音クレジットだけを眺めていれば、一見なんの変哲もない一枚のように見えます。
サヴァリッシュという「売り出し中の有望若手指揮者」が、コンセルトヘボウというメジャーオーケストラを指揮して、チャイコフスキーの5番というメジャー作品を録音したと言うことです。一般的に言えば、なんの目新しさもない行為であり、それ故に、膨大に積み重ねられてきた過去の営みに対してどれほどの新しさを追加できるのかが問われるという、あまりにもあふれた光景です。

もっとも、この「ありふれた光景」は指揮者にとっては途轍もなくしんどいシチュエーションではあるのですが、その難しさにどのように向き合っているのかを見るだけで、その指揮者の志みたいなものが感じ取れてしまうことも事実です。
しかしながら、調べてみると、サヴァリッシュのチャイコフスキーというのは非常に珍しいのです。
これ以外ではフィラデルフィアの時代に「白鳥の湖」を録音しているのですが、その次がどうしても思い浮かびません。

しかし、考えてみればこれは不思議な話で、ドヴォルザークやスメタナの作品は良く取り上げているのですから、必ずしも彼のレパートリーはドイツ・オーストリア系に凝り固まっていたわけではありません。また、サヴァリッシュの最後のコンサートになったと言われている2005年のウィーンでの演奏会ではチャイコフスキーのピアノ協奏曲を取り上げています。

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 (P)ルドルフ・ブフビンダー (2005年4月27日ウィーン・ムジークフェライン大ホールにて)

ですから、サヴァリッシュ指揮によるチャイコフスキーの交響曲というのはなんの変哲もないように見えるのですが、実はきわめてレアな録音だと言えるのです。
さらに言えば、この交響曲が録音された1962年という年は、コンセルトヘボウにとっても非常に微妙な時期だったことを思い出す必要があります。

ベイヌムが1959年に急逝したのはコンセルトヘボウにとっては想像もしていなかった衝撃だったと思うのですが、ようやくにして「お国の伝統」に従ってハイティンクを音楽監督に据え、ヨッフムにサポートをお願いして新しいスタートを切ったのが1961年でした。
このサヴァリッシュの録音は、その様な、ようやくにして新しい一歩を踏み出した時期のコンセルトヘボウの姿が刻み込まれているのです。

サヴァリッシュの指揮にもよると思うのですが、ベイヌムの時代と較べれば随分と開放的な感じでオケが鳴っていると感じられます。
その意味では、ここにはメンゲルベルクの時代から積み重ねられてきた伝統が、新しい時代を迎えて変わりはじめつつある姿が刻み込まれているとも言えるのです。
サヴァリッシュのもとではスタイリッシュにキリリと引き締まっていることは事実なのですが、その引き締まり方はベイヌムが持っていた厳しさとは明らかに別物です。

そう感じてしまう背景には、きわめて開放的に鳴り響いている金管群が影響しているのかもしれません。
言葉は悪いのですが、ベイヌムという重しが取れて、伸び伸びと吹き鳴らしているという感じがしないでもありません。
もっとも、50年代の初め頃のベイヌムは「音楽は縦割りだ!」と言わんばかりに厳しく音楽を造形していたものが、亡くなる直前にはその様な厳しさは後退して、どちらかと言えば横へ流れる方向に変わってはきていましたから、その萌芽はあったのかもしれません。

また、月並みな表現で申し訳ないのですが(^^;、サヴァリッシはこの作品に今まで染み込んでいた垢のようなものを綺麗さっぱりと洗い流したようなアプローチでもって臨んでいます。
その意味では、刻み込まれた轍にそって進むだけのルーティンワークとは全く異なるアプローチです。

しかし、チャイコフスキーの音楽というのは、そうやってスコアに基づいて精緻に再構築しただけではどうにもならない部分があることも事実のようです。
いや、もう少し正確に言えば、このようにシャープに造形したサヴァリッシュの指揮で聞かせてもらうことで、その事に気づかさせてもらえたのです。
おかしな話かもしれないのですが、サヴァリッシュの指揮が見事であればあるほど、逆にこの作品が持っている構造的な弱さがさらけ出されてくるのです。

しかし、世の中にはこれと同じくらいに立派でも、その様な弱さを感じさせない演奏というものも存在します。
そう言えば、ムラヴィンスキーはチャイコフスキーの音楽をやるには、自らの生活そのものを音楽が持っているアトモスフィアに浸さなければいけないみたいなことを語っていました。
つまりは、チャイコフスキーの音楽には、その構造がよって立つ基盤としての独特な世界があるのであって、その世界への共感と没入が求められると言うのです。

もちろん、賢いサヴァリッシュがその事に気づかないはずはありません。
そして、気づいたからこそ、彼は二度とチャイコフスキーの交響曲に手を染めることはなかったのではないでしょうか。

気楽な聞き手としてはサヴァリッシュならではのチャイコフスキーがここにあることは事実なので、この方法論で少なくとも4番と6番くらいは録音を残してほしかったと思うのですが、賢すぎるというのは時には困ったものだと言うことなのでしょう。

この演奏を評価してください。

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