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Home|アンダ(Geza Anda)|グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16

グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16

(P)ゲザ・アンダ:ラファエル・クーベリック指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1963年9月23日録音

Grieg:Piano Concerto in B minor, EG 120 [1.Allegro molto moderato]

Grieg:Piano Concerto in B minor, EG 120 [2.Adagio]

Grieg:Piano Concerto in B minor, EG 120 [3.Allegro moderato molto e marcato]


G! GisでなくG!

この作品はグリーグが初めて作曲した、北欧的特徴を持った大作です。1867年にソプラノ歌手のニーナと結婚して、翌年には女児アレキサンドラに恵まれるのですが、そのようなグリーグにとってもっとも幸せな時期に生み出された作品でもあります。
その年に、グリーグは妻と生まれたばかりの子供を連れてデンマークに行き、妻と子供はコペンハーゲンに滞在し、自らは近くの夏の家で作曲に専念します。

その牧歌的な雰囲気は、彼がそれまでに学んできた西洋音楽の重みから解放し、自らの内面に息づいていた北欧的な叙情を羽ばたかせたのでした。

ノルウェーはその大部分が山岳地帯であり、沿岸部は多くのフィヨルドが美しい光景をつくり出しています。そう言う深い森やフィヨルドの神秘的な風景が人々にもたらすほの暗くはあってもどこか甘美なロマンティシズムが第1楽章を満たしています。
続くアダージョ楽章はまさに北欧の森が持つ数々の伝説に彩られた叙情性が描き出されているようです。

そして、最終楽章は先行する二つの楽章と異なって活発な音楽が展開されます。
それは、素朴ではあっても活気に溢れたノルウェーの人々の姿を反映したものでしょう。また、行進曲や民族舞曲なども積極的に散り入れられているので、長くデンマークやスウェーデンに支配されてきたノルウェーの独立への思いを反映しているとも言えそうです。

グリーグはその夏の家でピアノとオーケストラの骨組みをほぼ完成させ、その年の冬にオスロで完成させます。しかしながら、その完成は当初予定されていたクリスマスの演奏会には間に合わず、結局は翌年4月のコペンハーゲンでの演奏会で披露されることになりました。

この作品は今日においても、もっともよく演奏されるピアノ協奏曲の一つですが、その初演の時から熱狂的な成功をおさめました。
初演でピアノ独奏をつとめたエドムン・ネウペットは「うるさい3人の批評家も特別席で力の限り拍手をしていた」と書いているほどの大成功だったのです。そして、極めつけは、1870年にグリーグが持参した手稿を初見で演奏したリストによって「G! GisでなくG! これが本当の北欧だ!」と激賞された事でした。
初演と言えば、地獄の鬼でさえも涙するような悲惨な事態になることが多い中で、この協奏曲は信じがたいほどの幸せな軌跡をたどったのです。

なお、グリーグは晩年にもう一曲、ロ短調の協奏曲を計画します。しかし、健康状態がその完成を許さなかったために、その代わりのようにこの作品の大幅改訂を行いました。
この改訂で楽器編成そのものも変更され、スコアそのものもピアノのパートで100カ所、オーケストレーションで300前後の変更が加えられました。
ですから、現在一般的に演奏される出版譜はこの改訂稿に基づいていますから、私たちがよく耳にする協奏曲と、グリーグを一躍世界的作曲家に押し上げた初稿の協奏曲とではかなり雰囲気が異なるようです。


アンダの粒立ちのよい透明感あふれる響きは「極上」という形容詞を与えても間違いとは言われないでしょう

まず最初に誰もが感じるのは、ピアノというのはかくも美しい響きのする楽器だったのかという驚きでしょう。それほどまでに、ここでのアンダのピアノは粒立ちがよく透明感にあふれています。その響きに対して「極上」という形容詞を与えても間違いとは言われないでしょう。
そこに、何とも言えない繊細で微妙なニュアンスが加味される第2楽章などは、聞いていて「涙もの」です。さらに、第3楽章では、そこまでいささか抑え気味だった感情が一気にあふれ出したようなロマンティックな音楽を紡ぎ出してくれます。

それにしてもアンダというのは不思議なピアニストです。
「ザルツブルク・モーツァルテウム・アカデミカ」という極めて親密な関係で結ばれたオーケストラを弾き振りで演奏している時は、何とも言えずほっこりとした田舎くささあふれる響きでモーツァルトを構築していました。
ここで聞くことのできるアンダの響きは、それとはかなり方向性の異なった響きです。

しかし、さらに振り返ってみれば、彼のもう一つの名刺代わりとも言うべきバルトークのコンチェルトでは、ここで聞くことのできる響きに通ずる透明感があふれていました。
おそらく、気合いを入れて勝負に出ればこういう響きを繰り出し、肩の力を抜いて楽しみながらピアノに向かえばモーツァルトの時のような響きが出るのかもしれません。そして、モーツァルトにはその様な響きの方が相応しいと判断したのでしょう。
その意味では、アンダというピアニストは抽斗の数の多い人だったのかもしれません。

それから、この演奏を聴いてもう一つ指摘しておかなければならないのは、ベルリンフィルの優秀さであり、それは同時にオーケストラトレーナーとしてのカラヤンの手腕が並々ならぬものだったことです。
聞けば分かるように、クーベリックの指揮はかなり曲線を多用した音楽作りであり、美しいところは徹底的に美しく表現したい意図が明らかです。ですから、かなり細かい表情付けを要求しているので、その細かい指示に鋭敏に反応していくのは簡単とは思えないのですが、ベルリンフィルは極上の響きで持って余裕綽々で反応しています。
とりわけ管楽器群のふっくらとした響きは見事で、この美しい音楽をより美しく描き出しています。

もちろん、その功績の大きな部分は指揮者のクーベリックに与えられるべきものなのでしょうが、それでもオケがヘボではこうはいかないわけです。
ですから、ベルリンフィルという、優秀ではあってもヨーロッパの田舎オケだった集団をここまで引き上げたカラヤンの功績は無視できないのです。

グリーグのコンチェルトと言えば、セルとフライシャーのコンビによる録音が思い出されるのですが、あれは本当にスッキリとした上品な仕上がりでした。
それと比べれば、「音楽をそこまで漂白されちゃ困るよ」とでも言いたげなクーベリックの呟きが聞こえてきそうな録音です。

おそらく、この「漂白されちゃ困る」というのがヨーロッパ的な本能なのでしょう。
こういう録音を聞くと、セルなどに代表されるアメリカに軸足を置いた音楽家と、ヨーロッパに軸足を置いた音楽家の違いが見事なまでにあぶり出されていることにも気づかされます。

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