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フォーレ:レクイエム 作品48


アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 エリザベート・ブラッスール合唱団 (S)ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス (BR)ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ (Org)アンリエット・ピュイ・ロジェ 1962年2月4~5日 & 5月25~26日録音

Faure:Requiem, Op.48 [1.Introit et Kyrie]

Faure:Requiem, Op.48 [2.Offertoire]

Faure:Requiem, Op.48 [3.Sanctus]

Faure:Requiem, Op.48 [4.Pie Jesu]

Faure:Requiem, Op.48 [5.Agnus Dei]

Faure:Requiem, Op.48 [6.Libera me]

Faure:Requiem, Op.48 [7.In paradisum]


フォーレその人の心の奥からわき上がった信仰告白

 クラシック音楽ファンを対象に「自分が死んだときに流してほしい音楽」をアンケートすれば1位か2位に入ることは間違いありません。(対抗できるのはエロイカの第2楽章くらいか!!)
 とにかく美しい音楽です。
 弦とハープの分散和音にのって歌い出される第3曲、サンクトゥスの美しさは言うまでもなく、第4曲、ピエ・イェズの心に染みいるようなソプラノ独唱の素晴らしさは一度聞けば絶対に忘れることの出来ない魅力に溢れています。そして、こんなにも天国的に美しい音楽を作曲した作曲家は教会のオルガニストもしていたと聞けば、信心深い敬虔なクリスチャンだったと誰しもが思うでしょう。
 ところが、現実は大違いで、若い頃のフォーレは夜遊び大好き、お酒、たばこも大好き、さらには女性も大好きというとても現世的な人だったらしいのです。件のオルガニストのお仕事も夜遊びがすぎて朝のお勤めに着替えが間に合わず、エナメルの靴と白いネクタイのままでオルガンを演奏してクビになったというエピソードも残っています。また、女性遍歴も片手では足りないほどで、どうしてかくも現世的な人間の手からかくも天国的な音楽が生み出されたのかと楽しくなってしまいます。
 しかし、この作品よく聞くと、音楽の雰囲気はとても天国的なのに、そのスタイルはカソリックのお約束からはかなり逸脱していることに気づきます。まず、誰でも分かるのは、レクイエムの核とも言うべき「怒りの日」が含まれていないことです。さらに、これに続いて最後の審判が描かれ、涙の日へとなだれ込んで行く部分もフォーレのレクイエムではバッサリとカットされています。

怒りの日 (Dies ira)

怒りの日、その日は
ダビデとシビラの預言のとおり
世界が灰燼に帰す日です。
審判者があらわれて
すべてが厳しく裁かれるとき
その恐ろしさはどれほどでしょうか。

 古今東西、坊主の仕事は地獄の恐ろしさを説き、その恐怖から救ってくれる神や仏の有り難さを売り込むことでビジネスとして成り立っていたのですから、こんなレクイエムでは困ってしまうのです。その辺のことは当事者の方が敏感ですから、マドレーヌ寺院での初演ではこのままでは演奏できないと言われたりしたそうですし、その後も「死の恐怖が描かれていない」「異教徒のレクイエム」等々、様々な批判にさらされました。

 信仰というのは基本的に心の問題です。これは恋愛と同じで、心の中の有り様というのは形として表出しないと相手に伝わりません。ですから多くの男どもはせっせと意中の女性にプレゼントを贈ったり食事に誘ったりします。信仰もまたそれを形として表出しないと人間社会では「信心深い」かどうかが判定しづらいので、「あるべき信仰の姿」というのが、教会によって定められます。
 しかし、恋愛ならば対象は人間ですが、信仰の対象は神です。人ならば、愛の深さをその人の外観からしか判断出来なかったとしても、神ならばその人の心の有り様そのものから信仰の深さを判断できるはずです。神の代理人たる聖職者が、その人のスタイルを根拠に不信心ものと決めつけたとしても、それでも私は深く神を信じていると反駁できる「個の強さ」がもてる時代になれば、そう言う思いはいっそう強くなるでしょう。
 そう言う意味で言えば、このフォーレのレクイエムは大きな時代の分岐点にたっている作品だと言えます。信仰がスタイルではなくて心そのものによって担保される時代のレクイエムです。
 ですから、この作品の天国的な雰囲気から敬虔なカソリック教徒による有り難いレクイエムと受け取るのはあまりにも脳天気ですが、同じくそのスタイルの「異形」を理由に、この作品から宗教的側面を捨象するような受け取り方も一面的にすぎるように思います。
 この作品は疑いもなく、フォーレその人の心の奥からわき上がった信仰告白です。その事は、フォーレの次の言葉にはっきりと刻印されています。
「私が宗教的幻想として抱いたものは、すべてレクイエムの中に込めました。それに、このレクイエムですら、徹頭徹尾、人間的な感情によって支配されているのです。つまり、それは永遠的安らぎに対する信頼感です。」

 教会がこの作品を「異教徒のレクイエム」と批判しても、おそらく神はこの音楽を嘉し給うでしょう。


  1. 入祭唱とキリエ(Introit et Kyrie)

  2. 奉献唱(Offertoire)

  3. サンクトゥス(Sanctus)

  4. ああ、イエスよ(Pie Jesu)

  5. 神の子羊(Agnus Dei)

  6. われを許したまえ(Libera me)

  7. 楽園にて(In paradisum)


断らなかった責任


ふと気がつくと、これもまたアップしていなかったことに気づきました。デュ・プレのエルガーと言い、「ホンマに迂闊やなぁ」と思いながら聞き直してみて、何故にアップしなかったのを思い出しました。事情はデュ・プレの場合とは違ったのです。
簡単に言えば、「気に入らなかった」のですね。
そして、おそらく、昔も今と同じように気に入らなかったので、先延ばしをしている内に忘れてしまったのでしょう。

確かに、この演奏に関しては録音の問題がつきまといます。
アナログの時代はその曖昧さゆえにベールに覆われていたものが、デジタル化されることでそのベールがはぎ取られて印象が一変したとよくいわれたものです。
ただし、この「印象の一変」はアナログからデジタルに変換されたことで発生したのではなくて、問題はデジタル化に際する編集に責任があったことは最近になってよく知られてきました。

しかし、そうなってしまう背景にはマスターテープの保存状況など、結局はこの録音に対する「尊敬の念」がレーベルにはなっかったのではないかという疑念を感じています。

最近面白い話を聞きました。
プロペラ機を使って決められたコースをどれだけ速く飛ぶかという「エアレース」というものが人気のようなのですが、そのレースの世界の有名人が「勝つための秘訣」を聞かれてこう語っていたのです。

「できるだけ速い飛行機を用意すること、それに尽きる。パイロットに出来るのは遅くすることだけだから。」

録音も、出来る限り良い状態のマスターテープを用意することに尽きるのでしょう。その後に出来るのは、音を悪くすることだけなのですから。

しかし、そう言う録音の問題を脇においても、やはりこの演奏は気に入らなかったのは事実です。
気に入らない演奏を取り上げて、その気に入らないことをあげつらうのはあまり好きではありません。気に入らなければ「取り上げない」というのがもっとも正しいスタンスだと考えています。

しかし、曲がりなりにもこの録音は、フォーレのレクイエムに関しては歴史的名演として決定盤とも言うべき地位にあったのですから、取り上げないのは忘れているんじゃないのと言うことにもなります。
しかし、取り上げれば一言二言、何かを言わざるを得なくなるので困ってしまうのです。

ただし、ある方によれば、いいと思うことは懇切丁寧に言葉を尽くすべきだが、悪いものをどうしても取り上げなければいけないときは「悪い」とひとこと言っておけばいいと言うのです。「悪い」と言われて気分がよくなる人がいるはずもなく、その「悪い」との評価を分かってもらうために言葉を重ねても、結局はさらに心証を悪くするだけだと言うのです。

なので一言だけ、フィッシャー=ディースカウの歌唱を「完璧」という人もいるのですが、これは明らかにキャスティングのミスだと思います。そして、責任はフィッシャー=ディースカウではなくて、彼をバリトンのソリストに起用した人にあります。
彼が己の持ち味を生かして完璧を求めれば求めるほど、フォーレの世界からは離れていきます。

でも、引き受けたのは自分だから、断らなかった責任はあるのかもしれません。

なお、エリザベート・ブラッスール合唱に関しては重すぎるという批判が寄せられるのですが、合唱関係の人がよく口にするほど悪くはないと思います。クリュイタンスの音楽度庫裏がモノラル時代とはかなり違って重くなっていますから、これは「確信犯」と言えるのではないかと思うのです。
とは言え、最後の判断は聞き手にゆだねたいとは思います。

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