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モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1958年9月16日~17日録音

Mozart:Symphony No.38 in D major K.504 "Prague" [1. Adagio - Allegro]

Mozart:Symphony No.38 in D major K.504 "Prague" [2. Andante]

Mozart:Symphony No.38 in D major K.504 "Prague" [3. Finale: Presto]


複雑さの極みに成立している音楽

1783年にわずか4日で「リンツ・シンフォニー」を仕上げたモーツァルトはその後3年にもわたってこのジャンルに取り組むことはありませんでした。40年にも満たないモーツァルトの人生において3年というのは決して短い時間ではありません。その様な長いブランクの後に生み出されたのが38番のシンフォニーで、通称「プラハ」と呼ばれる作品です。

前作のリンツが単純さのなかの清明さが特徴だとすれば、このプラハはそれとは全く正反対の性格を持っています。
冒頭部分はともに長大な序奏ではじまるところは同じですが、こちらの序奏部はまるで「ドン・ジョバンニ」を連想させるような緊張感に満ちています。そして、その様な暗い緊張感を突き抜けてアレグロの主部がはじまる部分はリンツと相似形ですが、その対照はより見事であり次元の違いを感じさせます。そして、それに続くしなやかな歌に満ちたメロディが胸を打ち、それに続いていくつもの声部が複雑に絡み合いながら展開されていく様はジュピターのフィナーレを思わせるものがあります。
つまり、こちらは複雑さの極みに成り立っている作品でありながら、モーツァルトの天才がその様な複雑さを聞き手に全く感じさせないと言う希有の作品だと言うことです。

第2楽章の素晴らしい歌に満ちた音楽も、最終楽章の胸のすくような音楽も、じっくりと聴いてみると全てこの上もない複雑さの上に成り立っていながら、全くその様な複雑さを感じさせません。プラハでの初演で聴衆が熱狂的にこの作品を受け入れたというのは宜なるかなです。
伝えられた話では、熱狂的な拍手の中から「フィガロから何か一曲を!」の声が挙がったそうです。それにこたえてモーツァルトはピアノに向かい「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」を即興で12の変奏曲に仕立てて見せたそうです。もちろん、音楽はその場限りのものとして消えてしまって楽譜は残っていません。チェリが聞けば泣いて喜びそうなエピソードです。


躍動感に満ちた推進力

この録音は面白い経緯があります。
それは、予定されていたベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」の録音が早く仕上がったので、その余った時間でこの「プラハ」を録音したというのです。

「ミサ・ソレムニス」はフィルハーモニア管を使ってはいるのですが、ウィーンに出向いて録音を行っています。
ソリストにも(S)エリザベート・シュワルツコップ、(Ms)クリスタ・ルートヴィヒ、(T)ニコライ・ゲッダというビッグネームを起用していたので、かなり話題となった録音だったのでしょう。あのクレンペラーがコンマスの横に椅子を置いて、このセッション録音を見学していたというエピソードも伝えられています。
クレンペラーと言えば、カラヤンの魔笛の公演に出かけて、客席から「悪くないぞ、ヘルベルト!みんなが言うほど悪くないぞ!」と野次を飛ばして観客の爆笑を誘い、公演を滅茶苦茶にしたという因縁の相手です。カラヤンにしてみれば絶対に願い下げにしたい振る舞いなのですが、おそらくはレッグとのコネクションを悪用してごり押しをしたのでしょう。

この「ミサ・ソレムニス」は1958年9月12日から16日にかけて録音されています。そして、モーツァルトのプラハ16日から17日にかけて録音されています。
ですから、EMIはフィルハーモニア管を12日から17日までの6日間を拘束してセッション録音を計画していたのでしょう。オーケストラを拘束してのセッション録音なんてほとんど姿を消してしまった今の時代から見れば、夢のような話です。

ただし、そこまでの手間とお金をかけて録音したにもかかわらず、この「ミサ・ソレムニス」の録音は大失敗してしまいます。
EMIはモノラル録音からステレオ録音への移行に出遅れてしまいました。その責任の少なくない部分はウォルター・レッグに帰することが出来ます。彼はプロデュースする能力にかけては一流でしたが、何故か録音のクオリティに関しては無頓着でした。

「ミサ・ソレムニス」の録音は何をどう間違ったのか、「ムジークフェライン・ザール」で行われています。
コンサート会場としてすぐれているのと、録音会場としてすぐれているのとは全く異なります。何故ならば、コンサート会場としてすぐれているホールというのは観客が入ったときにベストの響きになるように出来ているからです。
観客は基本的には吸音材として働きますから、その様なホールで録音を行うと吸音材が取り払われた状態になってしまい、残響過多になってしまいます。

ですから、既にステレオ録音の経験を積んでいる「DECCA」はウィーンでの録音では絶対に「ムジークフェライン・ザール」は使わず、常に「ゾフィエンザール」を使っていました。
そして、そういう厄介な会場で、オケと合唱、4人のソリストという厄介な構成の音楽を、ステレオ録音にいまだ不慣れなメンバーで録音するのですから結果は最初から目に見えているようなものです。

EMIは、結局はこの録音をモノラル盤のLPとして発売したのですが、その後ステレオ盤はリリースされることもなく、EMI自身はCD化もしませんでした。(後日、TESTAMENTからCD化されたようです)
ということで、これはもう散々な企画となったのですが、救いは余った時間で録音されたモーツァルトの「プラハ」です。

おそらく、カラヤンにしてみればクレンペラーも姿を消し(^^;、さらには「ミサ・ソレムニス」という厄介な仕事からも解放された思いがあったのでしょう。
そして、その思いはフィルハーモニア管にしても同様で、さらには、やっと家に帰れるという安堵感もあったのかもしれません。

実にのびのびとしたモーツァルトであり、両端楽章の躍動感に満ちた推進力はまさに聞く者の心を動かす力を持っています。オケの響きは、後年のカラヤンの響きを基準とすればいささかザックリとした鈍重な雰囲気があることは否定できないのですが、低声部をしっかりと鳴らしたみっしりと中身の詰まった響きになっていることも事実です。
後年の「レガート・カラヤン」の響きが好きになれない私のようなものにとっては、こちらのほうがはるかに好ましく思えます。

そして、ベルリンフィルを相手にしてもこれと同じようにやればよかったのにと思うのは、常に先頭を切って走っていく立場におかれたことのないものの気楽な物言いにしか過ぎないのでしょう。

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