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カラヤン(Herbert von Karajan)|モーツァルト:ディヴェルティメント 第15番 変ロ長調 K.287 (271H)
モーツァルト:ディヴェルティメント 第15番 変ロ長調 K.287 (271H)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年8月録音
Mozart:Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287 [1. Allegro]
Mozart:Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287 [2. Tema con variazioni: Andante grazioso
Mozart:Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287 [3. Menuetto]
Mozart:Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287 [4. Adagio
Mozart:Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287 [5. Menuetto
Mozart:Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287 [6. Andante - Allegro molto]
弦楽器と管楽器のためのディヴェルティメント

ディヴェルティメントというのは18世紀に流行した音楽形式で、日本語では「嬉遊曲」と訳されていました。しかし、最近ではこの怪しげな訳語はあまり使われることがなく、そのままの「ディヴェルティメント」と表示されることが一般的なようです。
さて、このディヴェルティメントとよく似た形式としてセレナードとかカッサシオンなどがあります。これらは全て貴族などの上流階級のための娯楽音楽として書かれたものだと言われていますが、その区分はあまり厳密ではありません。
ディヴェルティメントは屋内用の音楽で、セレナードは屋外用の音楽だったと説明していることが多いのですが、例えば有名なK.525のセレナード(アイネク)がはたして屋外での演奏を目的に作曲されたのかと聞かれればいたって疑問です。さらに、ディヴェルティメントは6楽章構成、セレナードは8楽章構成が典型的な形と書かれていることも多いのですが、これもまた例外が多すぎます。
さらに言うまでもないことですが、19世紀以降に書かれたセレナード、例えばチャイコフスキーやドヴォルザークなどの「弦楽ためのセレナード」などは、18世紀おけるセレナードとは全く違う種類の音楽になっています。ディヴェルティメントに関しても20世紀になるとバルトークの「弦楽のためのディヴェルティメント」のような形で復活するのですが、これもまた18世紀のものとは全く異なった音楽となっています。
ですから、これらは厳密なジャンル分けを表す言葉として使われたのではなく、作曲家の雰囲気で命名されたもの・・・ぐらいに受け取っておいた方がいいようです。
実際、モーツァルトがディヴェルティメントと命名している音楽だけを概観してみても、それは同一のジャンルとしてくくることに困難を覚えるほどに多様なものとなっています。
楽章構成を見ても6楽章構成にこだわっているわけではありませんし、楽器構成を見ても管楽器だけによるもの、弦楽器だけのもの、さらには両者を必要とするものと多種多様です。作品の質においても、「卓上の音楽」にすぎないものから、アインシュタインが「音楽の形式をとった最も純粋で、明朗で、この上なく人を幸福にし、最も完成されたもの」と褒めちぎったものまで、これもまた多種多様です。アインシュタインは、全集版において「ディヴェルティメント」という名前がつけられていると言うだけで、騎馬バレーのための音楽と繊細この上ない室内楽曲がひとまとめにされていることを強く非難しています。ですから、彼は全集版にしたがって無造作に分類するのではなく、作品を一つ一つ個別に観察し、それがどのグループに入るかを決める必要があると述べています。
新モーツァルト全集においては、アインシュタインが指摘したような「無情」さは幾分は改善されているようで、楽器構成を基本にしながら以下のような3つのカテゴリーに分類しています。
- <第1部> オーケストラのためのディヴェルティメント、カッサシオン
- <第2部> 管楽器のためのディヴェルティメント
- <第3部> 弦楽器と管楽器のためのディヴェルティメント
アインシュタインが「音楽の形式をとった最も純粋で、明朗で、この上なく人を幸福にし、最も完成されたもの」と評価したのは「K247・K287・K334」の3つの作品のことで、新全集では第3部の「弦楽器と管楽器のためのディヴェルティメント」のカテゴリに分類されています。さらに、姉ナンネルの誕生日のために書かれたK251(アインシュタインは「他の3曲よりもやや急いで投げやりに書かれた」と評しています)や、彼がこのような室内楽的な繊細さの先駆けと評したK205もこのカテゴリにおさめられています。
ただし、このカテゴリにはいくつかの断片作品の他にK.522:音楽の冗談 ヘ長調「村の音楽家の六重奏曲」がおさめられているのは謎です
- K205:ディヴェルティメント 第7番 ニ長調…「5、6人の演奏者が行進曲とともに登場、退場し、庭にのぞんだ蝋燭の光に明るい広間で、本来のディヴェルティメントが演奏するさまが想像される。」
- K247:ディヴェルティメント 第10番 ヘ長調「第1ロドロン・セレナーデ」…「二つの緩徐楽章の第1の方はアイネ・クライネのロマンツェを予感させる。」
- K251:ディヴェルティメント 第11番 ニ長調「ナンネル・セプテット」…「なぜオーボエを使うのか?それはオーボエが非常にフランス的であるからである。ヴォルフガングはお姉さんの前でフランス風に振る舞いたかったのである。おそらくそれは、パリで一緒に住んでいた日々の思い出のためであろう。」
- K287:ディヴェルティメント 第15番 変ロ長調「第2ロドロン・セレナード」…「2番目のアダージョはヴァイオリン・コンチェルトの純正で情の細やかな緩徐楽章となる。そして、フィナーレは、もはや「結末」ではなく、一つの偉大な、全体に王冠をかぶせる終楽章になっている。」
- K334:ディヴェルティメント 第17番 ニ長調「ロビニッヒ・ディヴェルティメント」…「2番目の緩徐楽章はヴァイオリンのためのコンチェルト楽曲であって、独奏楽器がいっさいの個人的なことを述べたてるが、伴奏も全然沈黙してしまわないという「セレナード」の理想である。」
モーツァルトには「幸福」こそが最も似合います
カラヤンのモーツァルトは至って評判が悪いのですが、何故かしらこの65年の8月にまとめて録音された一連のモーツァルトは悪くないのです。いや、悪くないと言うよりは、非常に素晴らしいのです。調べてみると、以下の作品が録音されています。
- Symphony No. 29 in A major, K.201
- Symphony No. 33 in B flat major, K.319
- Serenade In G Major, K.525 Eine kleine Nachtmusik
- Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287
- Divertimento in D, K.334
さらに振り返ってみると、この前年の8月にはバッハのブランデンブルク協奏曲を一気に録音しています。(正確に言うと、第6番だけは翌年の2月22日に管弦楽組曲の2番、3番と一緒に録音しています。)
カラヤンがこういう作品をこういう形でまとめて録音するというのは珍しいことです。そこで、その理由を調べてみて分かったのは、これら一連の録音は全て夏の避暑地における録音だと言うことです、
カラヤンはブランデンブルグ協奏曲を録音した1964年から、夏は避暑地のサンモリッツで過ごすようになりました。そして、そのサンモリッツに気の合うベルリンフィルのメンバーを呼んで気楽な感じで演奏会やセッション録音を行ったのです。
64年はブランデンブルグ協奏曲、65年はモーツァルト作品をまとめて録音し、67年から68年にかけてはヘンデルの合奏協奏曲とモーツァルトのディヴェルティメントを録音しています。そして、そう言う録音活動以外にも気楽な演奏会も行っていたようで、そう言う活動場所はサンモリッツ誌が全て全面的にバックアップをしていたようです。それらは、気の張りつめた音楽活動ではなく、まさに夏の避暑の合間における楽しみとしての音楽活動という面が強かったようです。
そして、この優雅な夏の日々は72年まで続くことになります。
この何とも言えず力の抜けた楽しげなモーツァルトは、カラヤンとベルリンフィルが本気で録音したそれ以外のモーツァルトよりもはるかにモーツァルトらしいのです。
ここにはカラヤンとベルリンフィルが紡ぎ出す過剰なまでの響きがないのです。そして、その薄めの響きがバッハにおいてもモーツァルトにおいても、明らかにプラスに働いているような気がするのです。
おそらくは、サンモリッツに集ったのはベルリンフィルの主なメンバーではあったでしょうがフルメンバーではなかったはずです。
クレジットが「ベルリンフィル管弦楽団」とはなっていても、その編成はかなり小ぶりであったと思われます。
ところが、その小編成の弦楽合奏が紡ぎ出す響きの何という美しさ!!
そして、独奏ヴァイオリンのうっとりするような響きと伸びやかなホルンの何という美しさ!!
これを聞いてしまうと、何故にカラヤンは本気モードの時にあそこまで過剰な響きでモーツァルトを描き出そうとしたのかと疑問に思わざるを得ません。その気になりさえすれば、このサンモリッツの時のように透明感あふれるモーツァルトの世界を描き出すことができたのに!!
しかし、できるけれどもやらなかった、と言う事実を私たちは直視すべきなのでしょう。
私は、この小編成のオケが紡ぎ出す世界こそがモーツァルトらしい世界だと思うのですが、カラヤンはそうは思わなかったと言うことです。
そして、あのカラヤンが思わなかったものを、我々ごときがあれこれ言って何になると言うのでしょう。
私がいかに過剰と思っても、そこにカラヤンが求めたモーツァルトの姿が示されているのならば、私たちはそれを敬して受け入れるしかないのです。
ただ、この8月の録音に刻まれた音楽は、疑いもなくカラヤンとベルリンフィルの最も幸福な時代の記録であることは事実です。
そして、モーツァルトには「幸福」こそが最も似合うということだけは間違いないようです。
<追記>
人によっては、29番のシンフォニーと較べれば作品のクオリティが落ちるので聞きごたえは今ひとつとの声も聞きます。しかし、こういう気楽なスタイルの演奏ではそう言う小難しいことを考えるのはよしましょう。
さらに言えば、こういうスタイルならば、交響曲よりはセレナードやディヴェルティメントなんかの方がもっとピッタリな感じがします。
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