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ウェーバー:舞踏への招待


フルトヴェングラー指揮 ベルリンフィル 1932年録音

Weber:Invitation to the dance, Op.65


フルトヴェングラーの全盛期

昔の巨匠というのはレパートリーが狭いというのが通り相場です。しかし、詳しく調べてみると若い頃は結構いろいろな人の作品を取り上げていたと言うことがよくあります。
それはフルトヴェングラーも同様で、ニキッシュの後を受けてベルリンフィルのシェフとなった時期にはかなり意欲的に同時代の作曲家の作品も取り上げていました。
ただ残念なのは、その時代のフルトヴェングラーの演奏を実際の音として聞くことが殆どできないことです。

その後、ナチスの台頭と第2次大戦の勃発がフルトヴェングラーとその手兵であるベルリンフィルに与えた影響は計り知れません。とりわけ財政難によってベルリンフィルが国有化(1933年)されたことによって、演奏会のプログラムを決めるときにもナチスの意向を無視することができなくなっていきました。
真っ先にプログラムから消えたのがユダヤ人作曲家の作品で、英仏との戦争が始まれば英仏の作曲家の作品がプログラムから消え、最後は独ソ戦の開始によってロシアの作曲家が消えました。
結果として、ドイツ・オーストリア系の作曲家の作品がレパートリーの大部分を占めるという、私たちがよく知っているフルトヴェングラーの姿が登場することになるのですが、それはナチス政権と戦争の勃発という外的要因によってもたらされたものでした。

ところが、ナチスにとっては、フルトヴェングラーとベルリンフィルは国威発揚の格好の材料であり続けました。ナチスの時代に入ってフルトヴェングラーの演奏は積極的に録音され放送される事になりました。その結果として、フルトヴェングラーの演奏を実際の音として聞く機会が飛躍的に増えたのは皮肉と言わざるを得ません。
しかし、不思議なのは、戦争が終結し、非ナチ化裁判を経て演奏活動に復帰するようになってからもフルトヴェングラーのレパートリーの狭さは引き継がれたことです。

戦争は終結しているのですから、レパートリーの縮小は外的要因によるものではなく、あくまでもフルトヴェングラー自身の意志に基づいたものだと言うことになります。その変化の背景には1933年のナチスによる政権掌とそれに続く戦争の惨禍があったことは確かなのですが、それではその事がフルトヴェングラーの内面をどのように変えたのかは容易には見えてきません。
しかし、その問題を考える上で確認しておきたいのは、ナチス政権と戦争によって大きく変化した戦後のフルトヴェングラーの姿を肯定的にとらえるのか否定的にとらえるのかと言う問題です。その様なレパートリーの縮小は音楽家としての退行現象なのか、それともより深い世界を目指すための限定と集中だったのか、という問いかけです。

それを考える上で重要なことは、フルトヴェングラーの絶頂期が何時だったのかという問題です。
人生には上り坂と下り坂があります。そして、上り坂が下り坂に転じる転換点がその人の絶頂期と言うことになります。
問題は、その転換点、つまりはフルトヴェングラーの絶頂期は何時だったのかという問題です。

これに関してはいろいろな意見があるのは当然です。
日本では、丸山真男が戦時中のフルトヴェングラーを持って「音楽芸術が上り詰めた最高到達地点」としたことで、そこを絶頂期と見なす考え方が支配的でした。しかし、あの異常なまでの緊迫感に満ちた音楽は、その凄みは認めるとしても、それが真っ当な「音楽」と言えるのかという疑問は常について回りました。つまりは、あれは「音楽」の形を借りた「音楽とは全く違う異形なるもの」ではないかという捉え方です。
その立場に立てば、丸山真男がフルトヴェングラーの絶頂期と見た時期は「戦争という外的圧力によって歪に変形させられた時期」となります。

しかしながら、この両者に共通するのは、「戦後のフルトヴェングラーは既に下り坂に入っている」という見方です。

丸山真男は戦後のフルトヴェングラーが下り坂だと見るので、戦時中のフルトヴェングラーに絶頂期を見たのです。

そして、丸山真男が絶頂期と見た戦時中のフルトヴェングラーを「歪に変形させられた時期」だと見る人々は、さらにその前の「ニキッシュの跡を継いでベルリンフィルのシェフになった時期」を上り坂の時期だと見ることになるのです。
具体的な年で言えば、ベルリンフィルのシェフの地位についた1922年からナチスが政権を掌握する1933年までの11年間という事になります。年齢で言えば、36才から47才までの時期です。
そして、その後の時期は、好むとこのまざるにかかわらずいろいろな制約の中で活動が変形させられ、または縮小せざるを得なくなったという意味では、下り坂の人生に突入したと見るのです。

そう考えると、私たちが様々な音源を通して知るフルトヴェングラーというのは、基本的にその様な下り坂時代のフルトヴェングラーだったと言うことになります。
いや、こんな事を書くといろいろなところからお叱りを受けるのかもしれません。あの偉大なフルトヴェングラーの芸術の何処が下り坂なんだ!と言う声が聞こえてきそうです。

しかし、そう言う反論を聞くときに、20年代から30年代の初めにかけての、ベルリンフィルに君臨していた若きフルトヴェングラーの音楽を実際の音として聞くことが殆ど出来ていないという事実の重みに突き当たります。そして、その時代のフルトヴェングラーの演奏を実際に聞いた人々の多くは、ナチス政権によって変形させられ、戦争によって大きく変化してしまったそれ以後のフルトヴェングラーの演奏スタイルとは随分と違ったものだったと証言しているのです。
ですから、その時代の音楽を実際に聞かないで、フルトヴェングラーの音楽を云々するのは大きな過ちを招きかねないのです。

と言うことで、前置きがとても長くなったのですが、それがとんでもなく古録音をアップした理由です。

フルトヴェングラーのSP盤録音(1926年~1933年)


その大部分が序曲などの小品でしかないのですが、ごく僅か残されたナチス政権以前の録音をアップすることに意味があるだろうと考えた次第です。
それに、わざわざお金を払ってこういう録音を入手するのは「勇気」が必要ですから、一度どんなモンだったかを聞けるのは意味があるでしょう。

ちなみに、ナチスの影響を受けることのなかったベルリンフィル時代の録音は以下のものが残されているそうです。一部取りこぼしがあるかもしれませんが、大部分が小品です。しかし、その様な小品であっても、その時代のフルトヴェングラーを実際の音として聞けることは貴重だと言わねばなりません。


  1. ウェーバー:「魔弾の射手」序曲 1926年録音

  2. ベートーベン:交響曲第5番「運命」 1926年録音

  3. バッハ: 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068 第2曲「エアー」 1929年録音

  4. メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲 1929年録音

  5. シューベルト:ロザムンデ「バレエ音楽第2番」 1929年録音

  6. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第3番 1930年録音

  7. ロッシーニ:歌劇「どろぼうかささぎ」序曲 1930年録音

  8. シューベルト:ロザムンデ「間奏曲第3番」 1930年録音

  9. シューベルト:「ロザムンデ」序曲 1930年録音

  10. ウェーバー:「魔弾の射手」第3幕導入曲 1930年録音

  11. ベルリオーズ:ラコッツィ行進曲 1930年録音

  12. ワーグナー: 楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲 1930年録音

  13. ワーグナー: 楽劇「トリスタンとイゾルデ~愛の死 1930年録音

  14. メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」 1930年録音

  15. ブラームス:ハンガリー舞曲第10番 1930年録音

  16. ブラームス:ハンガリー舞曲第1番 1930年録音

  17. ドヴォルザーク:スラブ舞曲第3番 1930年録音

  18. リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 1930年録音

  19. ウェーバー:舞踏への招待 1932年録音

  20. モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲 1933年録音

  21. モーツァルト:歌劇「後宮からの誘拐」序曲 1933年録音

  22. ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」葬送行進曲 1933年録音

  23. ベートーベン:劇音楽「エグモント」序曲 1933年録音



ウェーバー:舞踏への招待 1932年録音

戦前のフルトヴェングラー録音としては最も有名なものの一つかもしれません。ところが、フルトヴェングラーは後にも先にも、この作品をこれ一回だけしか録音していません。演奏会で取り上げることも殆どなく、戦後は一度も演奏していません。
ウェーバーの作品は「魔弾の射手」を中心として「オイリアンテ序曲」なども数多く取り上げていますから、作品そのものを評価していなかったというわけではないようです。おそらくは、この「純ドイツ的世界」にベルリーズが施した華やかなオーケストレーションが気にくわなかったのかもしれません。
確かに、この録音を聞いてみれば妙に気難しくて生硬な感じが否めません。おかしな言い方かもしれませんが、どこか気のむかない舞踏への招待のように聞こえます。それでも、チェロの響きなどからはこの時代のベルリンフィルの美質が伺えます。

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