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Home|フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwangler)|ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽 1952年1月27日録音

Brahms:Symphony No 1 in C Minor, Op. 68 [1.Un poco sostenuto - Allegro]

Brahms:Symphony No 1 in C Minor, Op. 68 [2.Andante sostenuto]

Brahms:Symphony No 1 in C Minor, Op. 68 [3.Un poco allegretto e grazioso]

Brahms:Symphony No 1 in C Minor, Op. 68 [4.Piu andante - Allegro non troppo, ma con brio - Piu allegro]


ベートーヴェンの影を乗り越えて

 ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

 彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。


 この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

 確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
 しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

 彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
 音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

 しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
 嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
 好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

 ユング君は、若いときは大好きでした。
 そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
 かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
 それだけ年をとったということでしょうか。

 なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。 い人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。


じっくり考えてみたい

聞くところによると、ブラームスはフルトヴェングラーにとってベートーベン、ワーグナーに次いで取り上げる回数の多かった作曲家らしいです。

フルトヴェングラーに代表される「昔の巨匠」達はレパートリーが狭かったというのはよく語られる話です。しかしながら、最近になってネット上でコンサートの詳細な記録が紹介されるようになったことを通して、その様な認識は残された録音だけで彼らを評論してきた不勉強が故の「誤った常識」だと言われるようになってきました。調べてみれば、フルトヴェングラーだってシェーンベルクを取り上げていましたし、マーラーのシンフォニーなどもコンサートでは取り上げていたことが知られるようになってきたのです。

とは言え、フルトヴェングラーのレパートリーの主流がドイツ・オーストリア系の王道にあったことも事実なのです。
また、戦後のフルトヴェングラーはレパートリーという点では大幅に縮小した事は事実で、その面を見る限りでは「レパートリーが狭かった」という主張はあながち間違いとも言えません。

実際、戦後のフルトヴェングラーは多くの人から称賛され、多くの信奉者を勝ち取ったのですが、その反面、専門家の間では「古い演奏様式」や「狭いレパートリー」、とりわけ同時代の音楽に対する冷淡な態度が批判の対象になっていました。
確かに、彼の才能が最も光り輝いていた戦前のベルリンフィルの時代と比べてみれば、その変わりようは非常に大きいのです。その変化の背景には1933年のナチスによる政権掌と、その事がもたらした戦争の惨禍を指摘するのは容易い事なのですが、それを指摘したところで、それではその事を契機として彼の内面にどのように変化が引き起こされたのかについては何の答えにもなっていません。

結局は、彼が音楽家だった以上、彼が残した音楽を聞くしかないのでしょう。
例えば、このブラームスの1番を戦後のフルトヴェングラーがこのように演奏したことを、私たちはどのように受け取るかと言うことです。その音楽を聞くことを通してでしか、彼の内面に起こった変化をうかがい知ることはできないのです。

ちなみに、私が確認した範囲では、戦後に演奏されたブラームスの1番で、音として残されているのは以下の通りです。
ちなみに、これ以外で残されている音源は、ベルリンフィルの戦時中最後の演奏会となった1945年1月23日のものがあるようですが、残念ながら全曲ではなくて第4楽章だけしか残っていないようです。


  1. Wiener Philharmoniker:1947年8月13日 [live]

  2. Lucerne Festival Orchestra:1947年8月27日 [live]

  3. Wiener Philharmoniker:1947年11月17日~20日

  4. Concertgebouw Orchestra:1950年7月13日 [live]

  5. Sinfoniorchester des NDR Hamburg:1951年10月27日 [live]

  6. Wiener Philharmoniker:1952年1月27日 [live]

  7. Berliner Philharmoniker:1952年2月10日 [live]

  8. RAI Turin Orchestra:1952年3月7日 [live]

  9. Berliner Philharmoniker:1953年5月18日 [live]

  10. Venezuela Symphony:1954年3月20日 [live]



1954年にヴェネズエラのカラカスで地元のオケを指揮した録音が残っているとは驚きですが、フルトヴェングラーという人はあまりオケのクオリティには五月蠅いことは言わない人だったようです。
とは言え、その演奏活動の中心は当然の事ながらベルリンフィルとウィーンフィルであることは事実です。

しかしながら、47年の11月にEMIが行ったスタジオ録音は出来があまりよくないというのが通り相場なので、音質面も加味すれば52年のウィーンフィルとベルリンフィルとの録音、そして名演の誉れが高い51年の北ドイツ放送交響楽団(NDR)との録音が、最も戦後のフルトヴェングラーらしい演奏と言うことになるでしょう。
とりわけ、52年のベルリンフィルとの演奏が、このオケを完全に手中にし緩急自在に操った演奏という評価が高いのですが、これを「古い様式」と切って捨てる人は昔から少なくありません。つまりは、聞きようによってはあまりにも「あざとい」と思ってしまう面もあるのです。

そして、心しなければいけないことは、このような緩急自在のスタイルこそがフルトヴェングラーらしい演奏と評価されるのですが、その様なスタイルは戦前のベルリンフィルの時代(1922年~1933年)の演奏スタイルとは随分違っていると言うことです。
残念ながら、フルトヴェングラーが戦前にブラームスの1番を演奏した録音は残っていません。

ですから、戦前と前後を直接比較することはできないのですが、ナチス政権以前に録音として残されている序曲などの小品を戦後の録音と較べてみると随分と雰囲気が違っています。
それらは、概ねかなり速めのテンポで直線的なスタイルで音楽を形作っているのです。

この変化を私は単純に円熟とか深化などと言う「小綺麗」な言葉で分かったような気にはなりたくないのです。とはいえ、あまり安易に分かったようなことも書けませんから、丹念に彼が残した音源をアップしながらじっくり考えてみたいと思っています。

<52年に録音された2種類のブラームスの1番>

52年に録音された2種類のブラームスの1番は、時間的にはわずか2週間ほどしか隔たっていないのに、ウィーンフィルとベルリンフィルの違いが音楽にあらわれています。どちらが良いとか悪いとか言うレベルの話ではなくて、フルトヴェングラーとオケとの関係の相違がはっきりと浮き彫りになってるような気がします。

ベルリンフィルとの演奏では、よく言われるように、オケを自由自在に操っていますし、その棒にベルリンフィルもよくついていっています。その意味では、テンポを大きく揺らし入念に表情付けをしてドラマティックな音楽に仕上げていくフルトヴェングラーの姿が最もよくあらわれています。
いわゆる、私たちがフルトヴェングラーと聞いたときにイメージする音楽がそこにあります。

ところが、相手がウィーンフィルになるとそこまでの無茶はしていません。結果として(録音がいささかさえないという面も考慮する必要があるのかもしれませんが)、ベルリンフィルの時と較べると音楽のガタイがいささか小さくて、こぢんまりとして聞こえます。
しかし、ベルリンフィルになくてウィーンフィルにあるのは弦楽器を中心とした響きの美しさです。
この時代のベルリンフィルは良く悪くも、田舎オケの風情を色濃く残していて、そのゴリゴリした響きと音楽の作り方が魅力的でした。
しかし、このウィーンフィルとフルトヴェングラーが作り出す、例えば第2楽章のうっとりするような美しさに出会うと、本当にウィーンという街は都市であり、その街を代表するウィーンフィルこそは都市のオーケストラなんだと感じさせられます。

この演奏を評価してください。

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